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カテゴリー: 神経学/脳神経外科学  |  臨床看護学

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認知症の緩和ケア

1版

東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所所長 平原佐斗司 編
青梅慶友病院 看護介護開発室 室長 桑田美代子 編

定価

4,180(本体 3,800円 +税10%)


  • B5判  279頁
  • 2019年6月 発行
  • ISBN 978-4-525-38161-5

認知症の発症初期から終末期まで,緩和ケアのポイントがわかる!

認知症の緩和ケアでは,軽度の時期からの心理的苦痛へのケア,重度化する中での認知機能障害,BPSD,合併症(肺炎,心不全等)への対応,家族ケアなど,症状の進行にともない多職種によるさまざまなアプローチが求められる.認知症の発症初期から終末期まで,本人と家族を支える緩和ケアについて解説する.

  • 序文
  • 目次
序文
 編者らは1997年に米国ミシガン州アナーバーのホスピスで,アルツハイマー型認知症の方の在宅ホスピスケアを見学した.認知症がホスピスケアの対象になっていることに衝撃を受けたが,一方で“治らない病”である認知症に緩和ケアが提供されることには医療者としての違和感はなかった.むしろ,緩和ケアががんに限って提供されると考えていた当時の日本の緩和ケアの在り方に違和感をもったことを覚えている.
 近年,日本人の死亡のピークは男性87歳,女性92歳となり,先進諸国では看取りの主たる対象は超高齢期にシフトしてきている.そのような中,欧米の緩和ケア先進国では,認知症は緩和ケアの中心的テーマと認識されてきている.
 食べられないことに対してのcomfort feedingや終末期肺炎の呼吸困難の緩和,終末期の褥瘡に対する緩和的創傷ケアやロンリネスに対するコミュニケーションの継続など,認知症の終末期の苦痛に対する緩和ケアは,がんやほかの非がん疾患とは異なり,薬剤や医療的処置よりも,丁寧で,科学的な看護的ケアの継続によって達成される.
 また,認知症高齢者のほとんどは,嚥下障害,心不全,腎不全など多くの障害・不全をもっており,ここに肺炎などの引き金疾患が発症すると,これらの動的な連鎖の中で増悪し,その繰り返しの中でやがて死に至ることが少なくない.わが国においては,急性期病院での安易な身体拘束が問題となっているが,急性期においてもこのようなmultimorbidityな認知症高齢者の適正な医学的マネジメントとともに,尊厳に基づくケアと急性期の苦痛に対しての適正な緩和ケアが提供されなくてはならない.
 さらに,行動心理徴候(BPSD)は,認知症高齢者の深刻な苦痛であるとともに,疾患の増悪や身体的苦痛のサインでもあり,家族の苦しみでもある.原因や誘因の検討,薬剤の使用も含めた適切な医学的アプローチと丁寧な観察と適切な非薬物的ケアが統合された科学的アプローチによってのみ,BPSDの苦痛を和らげることができる.
 認知症の緩和ケアには,このような終末期の身体的苦痛への対応,合併症による急性期の適切な医学的マネジメントと緩和ケア,BPSDへの対応に加えて,発症後の葛藤や診断後のスピリチュアルな苦痛に対しての心理的ケアや教育的支援,アドバンスケアプランニング,さらには長い旅路を伴走する家族の支援も広く包含されるべきである.
 つまり,認知症の診断時から看取りまで,在宅,急性期病院,施設といった場を超えて,本人の尊厳と自律尊重の視点に立ち,家族を含めた暮らしを支援する立場に立った適切な緩和ケアが切れ目なく提供し続けられなくてはならない.
 本書はこのような包括的な視点でつくられた認知症の緩和ケアの最初のテキストである.複雑で高度なケアである認知症の緩和ケアに日々果敢に取り組んでいる現場の専門職の臨床とケアの一助になれば幸いである.

2019年5月
編者を代表して  平原佐斗司
目次
第1章 認知症における緩和ケアとは? 
 A. がん,非がん疾患の緩和ケアと認知症の緩和ケアの歴史的考察(平原佐斗司)
  1 疾病構造の変遷と緩和ケアニーズの変化 
  2 認知症の緩和ケア 
  3 わが国の非がん疾患の緩和ケアと認知症の緩和ケアの動向 
  4 認知症ケアの視点と緩和ケア 
 B. 看護と認知症の緩和ケア(桑田美代子)
  1 わが国における認知症ケアの歴史 
  2 急性期病院における認知症ケア(看護)の課題 
  3 認知症ケア(看護)の将来に向けて―幸せの範囲を広げるケアをともに創る―
 C. 認知症の緩和ケアの潮流(小川朝生) 
  1 認知症の緩和ケア 
  2 認知症の緩和ケアの方向性 
  3 認知症の進行とケアの目標設定 


第2章 認知症の人の基本的理解 
 A. 認知症の軌跡をケアにつなぐ(田邊幸子)
  1 アルツハイマー型認知症の軌跡の理解 
  2 アルツハイマー型認知症以外の軌跡と緩和すべき症状 
 B. 障害としてとらえる認知症(齋藤正彦) 
  1 認知症,軽度認知障害の定義 
  2 症状の理解 
 C. パーソン・センタード・ケアと緩和ケア(鈴木みずえ) 
  1 社会における認知症の理解とその影響 
  2 パーソン・センタード・ケアとは? 
  3 認知症の人の行動を理解するための認知症の人のストレスによる反応や行動モデル 
  4 認知症の人の心理的ニーズ 
  5 個人の価値を低める行為と個人の価値を高める行為 

第3章 認知症の人のもつ心理的苦痛と緩和―軽度の時期から必要となる視点として―
 A. 認知症の人のもつスピリチュアルペインとは(黒川由紀子,坂本ジェニファー理沙) 
  1 スピリチュアリティの概念 
  2 高齢者とスピリチュアリティ 
  3 認知症の人のスピリチュアルペイン 
  4 事 例 
 B. 軽度認知症への心理的アプローチ(回想法, マインドフルネスなど)(柴﨑 望) 
  1 回想法・ライフレビュー
  2 マインドフルネス 
  3 心理的アプローチの統合的な提供のために 
 C. 日常的なケアの中のスピリチュアルケア(西山みどり) 
  1 認知症の人がスピリチュアルペインを抱える背景にあるもの 
  2 認知症の人のスピリチュアルペイン 
  3 スピリチュアルペインを表出できない苦痛 
  4 認知症の人へのスピリチュアルケアの必要性 
  5 日常的なケアの中にスピリチュアルケアを取り入れる 
  6 その人に影響を与えてきた文化を理解しておく重要性 


第4章 苦痛としてのBPSDと緩和―中等度の時期に最も必要となる視点として―
 A. BPSDと苦痛(平原佐斗司) 
  1 BPSDと緩和ケア 
  2 認知症にみられるBPSDの特徴 
  3 BPSDへのアプローチの基本 
  4 BPSDへのアプローチの実際 
 B. BPSDの対応(非薬物療法)(佐藤典子)
  1 認知症の非薬物療法 
  2 非薬物療法の分類 
  3 非薬物療法の評価 
  4 非薬物療法の目的と注意 
  5 臨床の場での非薬物療法 
 C. BPSDの緩和ケアとしての薬物療法(内田直樹) 
  1 薬物療法を実施する前に 
  2 薬剤投与の原則 
  3 具体的症状に対しての薬物治療 


第5章 認知症の人が体験している身体的苦痛と緩和―進行期に必要となる視点として―
 A. 進行期,あるいは終末期認知症の人の苦痛とは?(平原佐斗司)
  1 進行期認知症の身体合併症と死因 
  2 末期認知症患者の苦痛と医療処置 
  3 認知症の進行期・末期の苦痛と緩和ケア 
 B. 身体的苦痛の緩和―ケアを中心に―(田中久美) 
  1 高齢者の身体的特徴 
  2 ケアに活かす身体的側面からみるアセスメント 
  3 身体的苦痛を緩和するケア 
 C. 苦痛の評価,苦痛の観察―どうやって苦痛に気づくのか?―(平原佐斗司) 
  1 認知症患者の苦痛評価の特徴
  2 苦痛の客観的評価法 
  3 不快感,呼吸困難の客観的評価法 
  4 苦痛の客観的評価法の注意点と限界 
  5 原因の評価と緩和 


第6章 苦痛の緩和の実際 
 A. 食支援と口腔衛生管理(口腔ケア)(平野浩彦) 
  1 認知症の進行と口腔の課題 
  2 ADの進行に伴う口腔の課題の整理 
  3 認知症高齢者の緩和ケアにおいて歯科に求められることは何か 
 B. 重度の人とのコミュニケーション法(和田奈美子) 
  1 認知症の人とのコミュニケーション 
  2 重度認知症の人とのコミュニケーションの特徴 
  3 コミュニケーション能力のアセスメント 
  4 具体的なコミュニケーションの方法 
  5 コミュニケーションをとる上でのケアする側の態度や姿勢 
 C. 排尿障害(髙道香織) 
  1 排尿状況から全身状態をアセスメントする 
  2 排尿行動を支え安寧な日常生活を支援する 
  3 頻尿に対するケア 
  4 尿失禁へのケア 
 D. 排便障害(便秘,下痢)(半田美保) 
  1 認知症の人に排便障害が生じるのはなぜか 
  2 どのような排便障害が生じやすいのか 
  3 排便障害が認知症の人に与える苦痛 
  4 認知症の症状による排便障害の要因 
  5 排便障害のアセスメント 
  6 排便障害による苦痛を緩和するためのケア 
 E. 合併症
  1 転倒・骨折(鈴木みずえ) 
   a. 転倒の定義 
   b. 転倒による骨折 
   c. 認知症の種類と転倒 
   d. 認知症の人の転倒アセスメントのポイント 
   e. 認知症の人の転倒のプロセス 
   f. 転倒を引き起こす認知症の人の思い(ニーズ) 
   g. 転倒・骨折予防のケア 
   h. 事例の検討 
  2 肺 炎(平原佐斗司) 
   a. 認知症と肺炎 
   b. 肺炎診療ガイドライン 
   c. 認知症における背景因子のアセスメント 
   d. 認知症患者の肺炎時の急性期治療―ACEプログラム―
   e. 肺炎発症時の急性期管理とケア 
   f. 肺炎急性期の苦痛のアセスメントと緩和ケア 
  3 心不全(平原佐斗司) 
   a. 心不全と認知症 
   b. 高齢者心不全の特徴 
   c. 末期心不全患者の苦痛 
   d. 認知症高齢者と心不全の症状について 
   e. 高齢心不全患者の管理 
   f. 末期心不全の苦痛の緩和の実際 
 F. 褥瘡・スキン-テア(玉井奈緒,真田弘美) 
  1 褥瘡 
  2 スキン-テア 
  3 認知症進行期に生じやすい褥瘡とスキン-テアのケアで特に注意すること 


第7章 自律尊重と意思表明・選択の支援 
 A. 認知症の人の自律尊重と意思表明・選択の支援とは(桑田美代子) 
  1 生活の中における意思 
  2 認知症の人の意思をどうキャッチするか 
  3 誰にでも起こる状況や感覚を忘れない 
  4 自律尊重と意思表明を支えるために 
 B. 認知症の人のアドバンスケアプランニング(高梨早苗) 
  1 アドバンスケアプランニング 
  2 認知症の人のACP 
  3 認知症の人のACPにおけるポイント 
 C. 認知症の人の医療同意と支援体制(成本 迅,加藤佑佳) 
  1 医療同意能力評価 
  2 意思決定支援の体制づくり 
 D. 治療の選択にフレイルの知見を活かす―臨床倫理の視点から―(会田薫子) 
  1 治療の選択と臨床倫理 
  2 フレイルとは何か 
  3 スクリーニング法 
  4 フレイルの知見と評価をどのように活かすか 
 E. 自律尊重とライフレビュー(宮本典子) 
  1 自律尊重とライフレビュー
  2 認知症高齢者に対するライフレビュー先行研究と自律尊重 
  3 認知症高齢者の自律尊重に資するライフレビューを実施する際の留意点 
  4 事 例 
 F. 在宅における意思表明と選択の支援(住井明子) 
  1 訪問診療,訪問看護の対象となる認知症者像 
  2 意思決定支援における在宅医療・介護の強み 
  3 在宅サービスにおける訪問者の姿勢 
  4 「自分らしさ」を支える環境調整 
  5 中等度の認知症の人の意思表明と選択を支える 
  6 重度認知症の人の意思表明と選択を支える 
 G. 高齢者ケア施設における意思表明と選択の支援(川上嘉明) 
  1 緩和ケアが提供される場としての高齢者ケア施設と認知症高齢者への意思表明・選択の支援 
  2 施設で認知症高齢者の意思表明と選択の支援をすることの実際 
  3 高齢者ケア施設における緩和ケアと意思表明・選択の支援 
 H. 急性期における意思表明と選択の支援(松尾良美,平原佐斗司) 
  1 急性期における認知症高齢者の意思決定の課題 
  2 事例と意思決定のプロセス 

第8章 認知症の家族ケア 
 A. 認知症の各ステージにおける家族介護者支援(小山 宰) 
  1 家族介護者の体験と家族介護者支援の概観 
  2 軽度~中等度の時期における家族介護者支援 
  3 中等度~重度の時期における家族介護者支援 
  4 重度~終末期の時期における家族介護者支援 
 B. 教育的支援(藤田冬子) 
  1 認知症という病気とその症状を正しく理解できるよう支援する 
  2 認知症の治療とケアを適切に受けられるよう支援する 
  3 認知症の人と家族が病を乗り越えていける力を尊重し育む 
 C. 代理意思決定支援(吉岡佐知子) 
  1 本人も家族も満足できる代理意思決定を目指す 
  2 家族の代弁者としての役割を支える 
  3 代理意思決定プロセスに伴走する 
  4 日々のケアの中でも家族とともに本人の意思を支える 
 D. 悲嘆のケア(桑田美代子) 
  1 認知症による喪失と悲嘆 
  2 認知症の人の家族が体験する「あいまいな喪失」 
  3 「あいまいな喪失」への支援 
  4 よい余韻を残すケア―日々のケアが悲嘆ケア―


第9章 認知症緩和ケアの場とチームアプローチ 
 A. 認知症の人に必要な環境(山田律子) 
  1 認知症の人にとっての環境の重要性 
  2 「環境」をとらえるためのモデル 
  3 認知症の人を取り巻く「環境」のアセスメント 
  4 認知症の人への環境調整による緩和ケア 
 B. 認知症の緩和ケアの提供体制の在り方(中塚智子) 
  1 認知症のステージアプローチと緩和ケア 
  2 診断と初期支援のステージ 
  3 外来におけるフォローアップのステージ 
 C. 認知症の人へのチームアプローチ(亀井智子) 
  1 認知症の人を中心としたチームアプローチとは 
  2 認知症の人へのケアのためのチームづくりの理論とプロセス 
  3 認知症高齢者を中心としたチームアプローチのエビデンス 
  4 認知症ケアを提供する場とチームアプローチ 
  5 認知症ステージごとのチームの目標 
 D. 急性期病棟での認知症ケアと緩和ケア―ACEプログラム―(松尾良美) 
  1 ACEプログラム 
  2 梶原診療所のACEプログラム 
  3 高齢者に優しい療養環境 
  4 多職種による高齢者総合的機能評価(CGA) 
  5 自立と機能改善に焦点をあてたケア 
  6 退院支援 
 E. 在宅での緩和ケア(田中和子) 
  1 認知症高齢者が自宅で過ごす意味 
  2 日常生活支援に向けた現状把握とアセスメント 
  3 日常生活を丁寧に整える 
  4 社会資源の活用 
  5 最期に向けて 
 F. 高齢者ケア施設,長期療養病棟での緩和ケア(四垂美保) 
  1 日々のケアを丁寧に行うことが緩和ケアに値する 
  2 認知症の人の行動を紐解くためにカンファレンスを活用する 
  3 家族とのコミュニケーション 
  4 多職種で取り組む拘縮予防(青梅慶友病院の取り組みから) 
   巻末資料 痛みの客観的評価法(平原佐斗司) 

索 引 

コラム
1 社会脳の障害としての認知症とBPSD―進化生態医学からみた認知症―(平原佐斗司)
2 comfort feeding only(平野浩彦) 
3 タクティール?ケア(木本明恵) 
4 バリデーション(都村尚子) 
5 終末期の褥瘡(玉井奈緒,真田弘美) 
6 認知症の人の意思表明と選択を支える(髙道香織) 
7 認知症の人の意思決定支援ガイドライン(小川朝生) 
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