カテゴリー: 救急医学/災害医学 | 総合診療医学/プライマリ・ケア医学
専門外でも不安にならない 救急外来「はじめの一手」
1版
藤田医科大学病院 岩田充永 監修
国立病院機構名古屋医療センター 近藤貴士郎 編
東京都立多摩総合医療センター 綿貫 聡 編
定価
3,520円(本体 3,200円 +税10%)
- A5判 261頁
- 2020年2月 発行
- ISBN 978-4-525-41101-5
ここまでなら意外と対応できるかも!
日本では,救急外来の診療は救急科専門医以外の医師によって行われている現状がある.本書では,専門外領域で悩ましいと思うケースを中心に,冒頭に初期対応のフローを掲載し,症例を提示しながら対話形式でポイントを学べるようにまとめた.診療以外の諸対応で知っているとよいことなどもQ&A形式で学べる.
- 監修のことば
- 序文
- 目次
監修のことば
なんとも過激な本が執筆されたものである.
救急科専門医の中でも,救急外来(ER)を主たる仕事場とするER型救急医の多くが「ERにはER型救急医が常駐することが理想型」と専門性を主張するなかで,『専門外でも不安にならない 救急外来「はじめの一手」』という自らの専門性を否定しかねないような本を書いてしまうのだから.
この国の救急医療は,専門外にも対応する各科専門医と臨床研修医が,必死に対応していることで支えられているのが現実である.救急科専門医が順調に増えているとは言い難い現状で,専門外の医師が救急外来で必死に診療していることに敬意を払うことを忘れてER型救急医が常駐することの優位性ばかりが強調されてしまうのは,なんだか遠い夢物語を聞かされているようで,“Change!”と叫んで現状を破壊したくなり,国民には何も利益をもたらさないのではないかと危惧することがあった.そのような中で本書を出版することは,編者らの各科専門医への敬意と自分のアイデンティティーが確立しているという自信の表れであろう.
「専門外に対応している医師に敬意を払い,彼らの助けになる仕事をしたい」という執筆者の姿勢には心から共感した.
編者の綿貫 聡 先生は,総合診療の立場から重症度に関係なく受診する救急診療(ER型救急)に携わり,安全管理学を学ばれた稀有な存在のジェネラリストである.医学的な知識だけでなく,地域の医療を支えるためにはシステムの構築が必要であることを理解され,座談会でのテーマ設定は本当に鋭いものであった.
もう一人の編者である近藤貴士郎 先生は,研修医時代から知っている救急医である.優秀なのは十分理解していたが,寡黙なので,まさかこれほどの知恵をため込んでいるとは想像だにしなかった(「もっと早く出してよ.俺も教えてほしかった」と心の底から思う).
毎日が,「どうか無事に過ぎますように,目の前の患者さんに不利益が及びませんように」と祈るばかりの中年医師にとっては,このような気鋭の後輩医師たちの「暗黙知」から学ぶことが成長の糧である.齢を重ねた分,これまでにたくさんの後輩医師と出会ってきた.優秀な医師には,成熟した心技に到達するのに成長著しい時期があるように感じる(残念ながら,私にはなかった).編者の2人はまさにその時期なのであろう.羨ましい.少しでも彼らから学びたい.そんな思いに駆られたときに,彼らが医師人生の中でもベストな時期で,経験値・暗黙知を文字にしてくれた本書の出版は嬉しい限りだ.
彼らより若い世代の医師は,優秀な指導医に学ぶことができる貴重な機会として,また私のような彼らより年長の世代は,ジェラシーを感じながらも彼ら優秀な青年医師の知恵から学ぶ貴重な機会として,ぜひ本書を読んでほしい.
2020年1月
藤田医科大学病院救急総合内科
岩田充永
救急科専門医の中でも,救急外来(ER)を主たる仕事場とするER型救急医の多くが「ERにはER型救急医が常駐することが理想型」と専門性を主張するなかで,『専門外でも不安にならない 救急外来「はじめの一手」』という自らの専門性を否定しかねないような本を書いてしまうのだから.
この国の救急医療は,専門外にも対応する各科専門医と臨床研修医が,必死に対応していることで支えられているのが現実である.救急科専門医が順調に増えているとは言い難い現状で,専門外の医師が救急外来で必死に診療していることに敬意を払うことを忘れてER型救急医が常駐することの優位性ばかりが強調されてしまうのは,なんだか遠い夢物語を聞かされているようで,“Change!”と叫んで現状を破壊したくなり,国民には何も利益をもたらさないのではないかと危惧することがあった.そのような中で本書を出版することは,編者らの各科専門医への敬意と自分のアイデンティティーが確立しているという自信の表れであろう.
「専門外に対応している医師に敬意を払い,彼らの助けになる仕事をしたい」という執筆者の姿勢には心から共感した.
編者の綿貫 聡 先生は,総合診療の立場から重症度に関係なく受診する救急診療(ER型救急)に携わり,安全管理学を学ばれた稀有な存在のジェネラリストである.医学的な知識だけでなく,地域の医療を支えるためにはシステムの構築が必要であることを理解され,座談会でのテーマ設定は本当に鋭いものであった.
もう一人の編者である近藤貴士郎 先生は,研修医時代から知っている救急医である.優秀なのは十分理解していたが,寡黙なので,まさかこれほどの知恵をため込んでいるとは想像だにしなかった(「もっと早く出してよ.俺も教えてほしかった」と心の底から思う).
毎日が,「どうか無事に過ぎますように,目の前の患者さんに不利益が及びませんように」と祈るばかりの中年医師にとっては,このような気鋭の後輩医師たちの「暗黙知」から学ぶことが成長の糧である.齢を重ねた分,これまでにたくさんの後輩医師と出会ってきた.優秀な医師には,成熟した心技に到達するのに成長著しい時期があるように感じる(残念ながら,私にはなかった).編者の2人はまさにその時期なのであろう.羨ましい.少しでも彼らから学びたい.そんな思いに駆られたときに,彼らが医師人生の中でもベストな時期で,経験値・暗黙知を文字にしてくれた本書の出版は嬉しい限りだ.
彼らより若い世代の医師は,優秀な指導医に学ぶことができる貴重な機会として,また私のような彼らより年長の世代は,ジェラシーを感じながらも彼ら優秀な青年医師の知恵から学ぶ貴重な機会として,ぜひ本書を読んでほしい.
2020年1月
藤田医科大学病院救急総合内科
岩田充永
序文
“どのような症状でも,いつでも,受診や相談が可能な救急外来がどの地域にもあったらどんなに素晴らしいだろう”──しかしながら,そのような診療現場を担っているのは一体誰であろうか?
“夜間・休日の時間外の対応,救急外来診療の多くを担っているのは,救急を専門とした医師ではない”──救急科専門医が数多くいて,北米型ER の形式で運営されている救急外来・救命救急センターは,日本で増えてきたものの,日本全国の救急外来での診療の多くは,救急専従ではない医師の努力によって支えられているのが現状である.
本書は,そのような中で地域の救急外来での診療に向き合っている臨床医の皆さんにとって臨床現場で役立つ内容を届けたい,という私たちの想いから始まった.
それぞれの得意な分野は自信を持って対応できるが,不得意な分野では不安になりながらも対応せざるを得ず,患者さんの方針決定に苦労する機会も多いと思われる.そのような日常において,本書の内容がお役に立てれば幸いである.
本書はまず,岩田充永 先生を交えた座談会を通じて現場でよくある悩みに応えていくことから始まる構成とした.そして第3章では,救急科専門医に加えて,プライマリ・ケアを中心として横断的な診療能力を有した総合診療医,またそれぞれの得意分野を生かした形で内科医,外科医がコラボレーションすることで救急外来診療に関わることをイメージした解説となっている.専門としない症状や領域についてもdisposition(その場での最適な方針)をつけられるようになるための心構えや知恵については,この4人の対話を通じて学ぶことができるだろう.
さらに,救急外来においては診療以外で必要とされる運営やマネジメントに関わることも多いため,第4章ではそれらに関するQ&A形式の解説を掲載した.
症状を問わず受診が可能な救急外来が開設されていることは,地域にとっては非常に大切であり,それを担う救急医療を病院全体で支えていくためには,多くの方々の協力が必要である.皆さんの施設においても救急外来の診療に多くの方が関わることで,地域の礎としての救急外来がより強固なものとなり,地域の方々にとってより良い医療が提供されることを願っている.
2020年1月
綿貫 聡,近藤貴士郎
“夜間・休日の時間外の対応,救急外来診療の多くを担っているのは,救急を専門とした医師ではない”──救急科専門医が数多くいて,北米型ER の形式で運営されている救急外来・救命救急センターは,日本で増えてきたものの,日本全国の救急外来での診療の多くは,救急専従ではない医師の努力によって支えられているのが現状である.
本書は,そのような中で地域の救急外来での診療に向き合っている臨床医の皆さんにとって臨床現場で役立つ内容を届けたい,という私たちの想いから始まった.
それぞれの得意な分野は自信を持って対応できるが,不得意な分野では不安になりながらも対応せざるを得ず,患者さんの方針決定に苦労する機会も多いと思われる.そのような日常において,本書の内容がお役に立てれば幸いである.
本書はまず,岩田充永 先生を交えた座談会を通じて現場でよくある悩みに応えていくことから始まる構成とした.そして第3章では,救急科専門医に加えて,プライマリ・ケアを中心として横断的な診療能力を有した総合診療医,またそれぞれの得意分野を生かした形で内科医,外科医がコラボレーションすることで救急外来診療に関わることをイメージした解説となっている.専門としない症状や領域についてもdisposition(その場での最適な方針)をつけられるようになるための心構えや知恵については,この4人の対話を通じて学ぶことができるだろう.
さらに,救急外来においては診療以外で必要とされる運営やマネジメントに関わることも多いため,第4章ではそれらに関するQ&A形式の解説を掲載した.
症状を問わず受診が可能な救急外来が開設されていることは,地域にとっては非常に大切であり,それを担う救急医療を病院全体で支えていくためには,多くの方々の協力が必要である.皆さんの施設においても救急外来の診療に多くの方が関わることで,地域の礎としての救急外来がより強固なものとなり,地域の方々にとってより良い医療が提供されることを願っている.
2020年1月
綿貫 聡,近藤貴士郎
目次
座談会
第1章 総 論
専門外の医師が救急外来に関わることの意味合い
第2章 専門外の診療に対する心構え
1 専門外でも意外と対応できる疾患や症状
2 対応できるか否かを見極めるポイント
3 救急外来での方針決定─Dispositionと診断の関係性─
4 日々遭遇する診断エラーを回避するために
5 救急外来での患者対応
第3章 救急外来診療の実際─専門外で困るケースを中心に─
◆ 本章の流れ
1 小児科
小児の発熱 / 小児の風邪診療
2 小外科・咬傷
創部の取り扱い / 動物咬傷の対応 / マムシ咬傷の対応
3 頭部・体幹部外傷
軽症頭部外傷・脳震盪 / 頸部外傷 / 胸腹部外傷
4 整形外科
肘の骨折 / 大腿骨近位部骨折 / 脱 臼
5 妊婦・授乳婦
妊婦の腹痛 / 妊婦の発熱
6 耳鼻科
鼻出血 / 鼻腔・外耳道異物 / 難 聴
7 泌尿器科
血 尿 / 急性陰嚢痛
8 眼 科
眼が痛い / 眼が赤い / 眼が見えにくい
9 皮 疹
皮疹の対応
10 ショック
ショックの初期対応
11 発 熱
発熱で来た救急患者の重症度 / どうやって熱源を探すか / 危険な感染症は / 細菌感染症以外の発熱で危険なもの
12 失 神
失神の救急外来アプローチ
13 腹 痛
腹痛の初期対応
14 多愁訴
多愁訴への対応
15 精神変容
精神変容 / 発作性意識消失・痙攣発作 / 精神症状が派手で必要な同意が取れないとき
16 めまい
めまいの対応
17 一過性脳虚血発作(TIA)
典型的なTIA 症状への対応 / 非典型的なTIA 症状への対応 / 脳梗塞発症の高リスク群への対応
18 脱力・倦怠感
他覚的な筋力低下がある場合 / 他覚的な筋力低下のない場合
19 高齢者の非特異的主訴
高齢者への救急外来アプローチ
第4章 専門外でも知っておきたい診療以外の対応と運営の知識Q&A
■診療前・診療時対応のQ
Q1 警察や消防などの院外他職種とスムーズにやりとりするにはどうしたらよいでしょうか?
Q2 紹介患者のスムーズな受け入れを行うにはどうしたらよいでしょうか?
Q3 入院診療科の選定,特に分類不能例にはどう対応したらよいでしょうか?
Q4 院内他科とスムーズにやりとりするにはどうしたらよいでしょうか?
Q5 看護師やメディカルスタッフなどの院内他職種とスムーズにやりとりするにはどうしたらよいでしょうか?
Q6 患者とのトラブルを防ぐためにはどのような点に留意したらよいでしょうか?
Q7 診断書を書いてと言われたら,どうしたらよいでしょうか?
Q8 心肺停止状態で搬送され死亡した患者では,死亡診断書? 死体検案書? どちらになるのでしょうか?
■診療後対応のQ
Q9 帰宅時説明,時間外受診後のフォローアップはどうしたらよいでしょうか?
Q10 救急外来から他院への紹介をスムーズに行うにはどうしたらよいでしょうか?
Q11 救急車で来て帰る手段がない高齢者や,家族が介護困難で帰宅できないケースにはどう対応したらよいでしょうか?
■救急外来運営のQ
Q12 救急患者数を増やすにはどうしたらよいでしょうか?
Q13 どのように診療物品を揃えたらよいでしょうか?
Column1・救急外来でも収益を
Q14 救急医に来てもらうにはどうしたらよいでしょうか?
Column2・救急外来の運営に有用な情報源
索 引
第1章 総 論
専門外の医師が救急外来に関わることの意味合い
第2章 専門外の診療に対する心構え
1 専門外でも意外と対応できる疾患や症状
2 対応できるか否かを見極めるポイント
3 救急外来での方針決定─Dispositionと診断の関係性─
4 日々遭遇する診断エラーを回避するために
5 救急外来での患者対応
第3章 救急外来診療の実際─専門外で困るケースを中心に─
◆ 本章の流れ
1 小児科
小児の発熱 / 小児の風邪診療
2 小外科・咬傷
創部の取り扱い / 動物咬傷の対応 / マムシ咬傷の対応
3 頭部・体幹部外傷
軽症頭部外傷・脳震盪 / 頸部外傷 / 胸腹部外傷
4 整形外科
肘の骨折 / 大腿骨近位部骨折 / 脱 臼
5 妊婦・授乳婦
妊婦の腹痛 / 妊婦の発熱
6 耳鼻科
鼻出血 / 鼻腔・外耳道異物 / 難 聴
7 泌尿器科
血 尿 / 急性陰嚢痛
8 眼 科
眼が痛い / 眼が赤い / 眼が見えにくい
9 皮 疹
皮疹の対応
10 ショック
ショックの初期対応
11 発 熱
発熱で来た救急患者の重症度 / どうやって熱源を探すか / 危険な感染症は / 細菌感染症以外の発熱で危険なもの
12 失 神
失神の救急外来アプローチ
13 腹 痛
腹痛の初期対応
14 多愁訴
多愁訴への対応
15 精神変容
精神変容 / 発作性意識消失・痙攣発作 / 精神症状が派手で必要な同意が取れないとき
16 めまい
めまいの対応
17 一過性脳虚血発作(TIA)
典型的なTIA 症状への対応 / 非典型的なTIA 症状への対応 / 脳梗塞発症の高リスク群への対応
18 脱力・倦怠感
他覚的な筋力低下がある場合 / 他覚的な筋力低下のない場合
19 高齢者の非特異的主訴
高齢者への救急外来アプローチ
第4章 専門外でも知っておきたい診療以外の対応と運営の知識Q&A
■診療前・診療時対応のQ
Q1 警察や消防などの院外他職種とスムーズにやりとりするにはどうしたらよいでしょうか?
Q2 紹介患者のスムーズな受け入れを行うにはどうしたらよいでしょうか?
Q3 入院診療科の選定,特に分類不能例にはどう対応したらよいでしょうか?
Q4 院内他科とスムーズにやりとりするにはどうしたらよいでしょうか?
Q5 看護師やメディカルスタッフなどの院内他職種とスムーズにやりとりするにはどうしたらよいでしょうか?
Q6 患者とのトラブルを防ぐためにはどのような点に留意したらよいでしょうか?
Q7 診断書を書いてと言われたら,どうしたらよいでしょうか?
Q8 心肺停止状態で搬送され死亡した患者では,死亡診断書? 死体検案書? どちらになるのでしょうか?
■診療後対応のQ
Q9 帰宅時説明,時間外受診後のフォローアップはどうしたらよいでしょうか?
Q10 救急外来から他院への紹介をスムーズに行うにはどうしたらよいでしょうか?
Q11 救急車で来て帰る手段がない高齢者や,家族が介護困難で帰宅できないケースにはどう対応したらよいでしょうか?
■救急外来運営のQ
Q12 救急患者数を増やすにはどうしたらよいでしょうか?
Q13 どのように診療物品を揃えたらよいでしょうか?
Column1・救急外来でも収益を
Q14 救急医に来てもらうにはどうしたらよいでしょうか?
Column2・救急外来の運営に有用な情報源
索 引