カテゴリー: 癌・腫瘍学
がん患者の輸液・栄養療法
1版
上尾中央総合病院 外科・腫瘍内科 顧問 大村健二 編集
定価
4,180円(本体 3,800円 +税10%)
- B5判 278頁
- 2014年9月 発行
- ISBN 978-4-525-42121-2
がん患者は,その治療とともに栄養状態の悪化とそれに伴う身体機能の低下に,特に注意が必要である.また,栄養管理と同時に体液バランスを考慮する必要がある.本書ではがん治療による消化管への影響のみならず,周術期および化学療法・放射線療法時における輸液・栄養療法の進め方と マネジメントを解説した.
- 序文
- 目次
序文
がんに限らず,疾病の治療中に起こりうる栄養状態の悪化とそれに伴う身体機能の低下は極力回避されなくてはならない.がんの治療に伴ってADLが低下すれば特に高齢者ではしばしば不可逆的であり,医療費や介護費の増加をもたらす.また,体重の減少や身体機能の低下はQOLの低下とよく相関する.がん治療後の生存期間を完全な健康状態での生存期間に置き換える時間得失法を用いて評価すると,がん患者のQOLの低下はがん医療の価値そのものを低下させることになる.体重の減少や身体機能の低下を看過すれば,私たち医師は自らの仕事の価値を損ねてしまうのである.がんの治癒や延命のためにはQOLが犠牲になっても致し方ないという考え方は捨て去らなくてはならない.
がんに限らず,種々の疾病の入院治療によって程度の差こそあれ患者の身体機能が低下する可能性は高い.一方,医師は入院中の患者の体重減少に十分な注意を払っているであろうか.腎疾患や心不全などのために病的な体重増加を認める症例を除き,入院中の有意な体重減少は回避されるべき由々しき事態である.
本来厳密に調節されている食物摂取の機構は,疾病への罹患や入院生活といった環境の変化で破綻する.日常生活ではほとんど変化しない体重は減少に傾き,身体活動が制限されるために骨格筋は廃用性の萎縮を始める.入院後の栄養状態の悪化を早期に察知し,適切な栄養管理を施す意義はきわめて大きい.栄養管理は,入院の目的となった疾病の治療の妨げとならないことがほとんどである.特に高齢者では,できれば有意な体重減少が認められる前に,栄養管理に加えてリハビリテーションを施行することが望ましい.がん患者にとっては,栄養状態の維持・改善,体重の維持・増加,身体機能の低下防止がより一層重要であるといえる.
ひと昔前まで,胃がんや食道がんに対する手術を受けた症例では,退院時に既に相当な身体機能の低下がもたらされていた.最近注目されている術後回復強化プログラム(ERAS)は,術後の身体機能の低下を最小限に留める効果がある.ERASに組み込まれる要素のなかで重要な位置を占めているのが周術期の栄養管理である.一方,手術を受けないがん患者の身体機能にも十分な注意を払う必要がある.がんの化学療法や放射線療法の支持療法として栄養管理はもっと重要視されてよい.がんの化学療法の有害事象は,骨格筋量の少ない症例でより強く出現するという報告がある.手術以外の治療を受けるがん患者でも,体重の維持,骨格筋量の維持は大変重要なのである.
消化器がんの手術を受けた症例では,しばしば臓器欠落症状としての消化・吸収障害が認められる.その場合,医師や管理栄養士は消化・吸収を受けにくい食品の摂取を控えさせるべきではない.その前に,さまざまな消化酵素薬や消化管機能調整薬を投与し,患者にもたらされた消化・吸収能の可及的な補完に努めるべきである.治療によって患者にもたらされる不都合を最小限度に留めるよう全力を尽くさなくてはならない.
がんの終末期にみられる悪液質は,骨格筋量と体脂肪量の双方が減少する病態である.不応性の悪液質に至った場合,積極的な抗腫瘍療法は差し控えられることになる.しかし,適切な栄養療法が施されなかったための栄養状態の低下と,がんの進行による栄養状態の低下,悪液質の進行が取り違えられる可能性がある.悪液質を前悪液質の状態に戻す栄養管理,不応性の悪液質に陥る時期を遅らせる栄養管理が望まれる.
予防医学を含めた最近の医学の進歩をもってしても,がんが克服されるまでの道のりは果てしなく遠い.がんと向き合い続ける医師と患者にとって栄養管理はきわめて重要な意義を持つ.本書では,がん患者の輸液・栄養療法とその管理についての要点が網羅されている.多くの多忙な,経験豊かな筆者が本書の執筆を快く引き受けてくださった.本書が上梓されるにあたり,筆者の先生方に深甚な感謝の意を表したい.そして,本書ががんの診療に携わる医師の方々のお役に立てることを祈念し,序文とする.
2014年夏
上尾中央総合病院外科・腫瘍内科顧問
大村健二
がんに限らず,種々の疾病の入院治療によって程度の差こそあれ患者の身体機能が低下する可能性は高い.一方,医師は入院中の患者の体重減少に十分な注意を払っているであろうか.腎疾患や心不全などのために病的な体重増加を認める症例を除き,入院中の有意な体重減少は回避されるべき由々しき事態である.
本来厳密に調節されている食物摂取の機構は,疾病への罹患や入院生活といった環境の変化で破綻する.日常生活ではほとんど変化しない体重は減少に傾き,身体活動が制限されるために骨格筋は廃用性の萎縮を始める.入院後の栄養状態の悪化を早期に察知し,適切な栄養管理を施す意義はきわめて大きい.栄養管理は,入院の目的となった疾病の治療の妨げとならないことがほとんどである.特に高齢者では,できれば有意な体重減少が認められる前に,栄養管理に加えてリハビリテーションを施行することが望ましい.がん患者にとっては,栄養状態の維持・改善,体重の維持・増加,身体機能の低下防止がより一層重要であるといえる.
ひと昔前まで,胃がんや食道がんに対する手術を受けた症例では,退院時に既に相当な身体機能の低下がもたらされていた.最近注目されている術後回復強化プログラム(ERAS)は,術後の身体機能の低下を最小限に留める効果がある.ERASに組み込まれる要素のなかで重要な位置を占めているのが周術期の栄養管理である.一方,手術を受けないがん患者の身体機能にも十分な注意を払う必要がある.がんの化学療法や放射線療法の支持療法として栄養管理はもっと重要視されてよい.がんの化学療法の有害事象は,骨格筋量の少ない症例でより強く出現するという報告がある.手術以外の治療を受けるがん患者でも,体重の維持,骨格筋量の維持は大変重要なのである.
消化器がんの手術を受けた症例では,しばしば臓器欠落症状としての消化・吸収障害が認められる.その場合,医師や管理栄養士は消化・吸収を受けにくい食品の摂取を控えさせるべきではない.その前に,さまざまな消化酵素薬や消化管機能調整薬を投与し,患者にもたらされた消化・吸収能の可及的な補完に努めるべきである.治療によって患者にもたらされる不都合を最小限度に留めるよう全力を尽くさなくてはならない.
がんの終末期にみられる悪液質は,骨格筋量と体脂肪量の双方が減少する病態である.不応性の悪液質に至った場合,積極的な抗腫瘍療法は差し控えられることになる.しかし,適切な栄養療法が施されなかったための栄養状態の低下と,がんの進行による栄養状態の低下,悪液質の進行が取り違えられる可能性がある.悪液質を前悪液質の状態に戻す栄養管理,不応性の悪液質に陥る時期を遅らせる栄養管理が望まれる.
予防医学を含めた最近の医学の進歩をもってしても,がんが克服されるまでの道のりは果てしなく遠い.がんと向き合い続ける医師と患者にとって栄養管理はきわめて重要な意義を持つ.本書では,がん患者の輸液・栄養療法とその管理についての要点が網羅されている.多くの多忙な,経験豊かな筆者が本書の執筆を快く引き受けてくださった.本書が上梓されるにあたり,筆者の先生方に深甚な感謝の意を表したい.そして,本書ががんの診療に携わる医師の方々のお役に立てることを祈念し,序文とする.
2014年夏
上尾中央総合病院外科・腫瘍内科顧問
大村健二
目次
第1章 がん患者の体の変化
①がんの発生・進展と代謝・栄養障害
②がん患者への栄養療法・輸液療法の必要性
第2章 がん患者の水・電解質代謝・酸塩基平衡とその異常
①がん患者における電解質異常
②がんと水・電解質異常,酸塩基平衡異常
第3章 がん患者の栄養障害とその対策 ─がん治療による消化管への影響─
Ⅰ 手術時
Ⅱ 化学療法時
①食思不振,悪心・嘔吐
②下 痢
③粘膜炎
④味覚障害
Ⅲ 放射線照射時
第4章 がん患者の輸液・栄養療法の進め方とマネジメント
Ⅰ 外科療法の輸液・栄養管理
①侵襲に伴う代謝変動と栄養管理
②術前に施行する輸液・栄養管理
③手術中の輸液・栄養管理
④術後の輸液・栄養管理
⑤がん終末期の輸液・栄養管理
Ⅱ 合併症を有する際の輸液・栄養管理
①糖尿病症例の周術期栄養管理
②透析患者に対する輸液・栄養管理
③ステロイド長期投与症例の周術期栄養管理
④肝硬変症例の周術期栄養管理
Ⅲ 術後合併症に対する輸液・栄養管理
①縫合不全
②術後膵炎・膵液瘻
③術後イレウス
④術後肺合併症
⑤乳び胸
Ⅳ 消化器周術期輸液・栄養療法
①胸部食道がん術前後の輸液・栄養療法
②膵臓切除術後の輸液・栄養療法
③胃全摘術後の輸液・栄養療法
④肝切除術後の輸液・栄養療法
⑤小腸広範囲切除術後の輸液・栄養療法
コラム
・がんの増殖速度と抗がん薬
・ITCと微小転移
・無酸素運動とCori cycle
・治療後のQOLと医療行為の価値
・胸膜癒着術における用薬剤
・栄養障害をきたす口腔粘膜炎の予防
ミニLecturer
・ユビキチン─プロテアソーム系
・時間得失法
・サルコペニア
・腫瘍崩壊症候群①
・ADH不適切分泌症候群(SIADH)
・塩類喪失性腎症(RSWS)
・腫瘍崩壊症候群②
・リフィーディング症候群
・強度変調放射治療
・counter-regulatory hormone
・NICE-SUGAR研究から学ぶ
・経口的な栄養補充製剤
・免疫増強(調整)経腸栄養剤
・清澄水
・経口補水液
・術中不感蒸泄
・サードスペース(第3の間隙)への水分貯留
・レミフェンタニルを使用した時の注意点
・輸液量の指標“尿量や中心静脈圧は あてにならない”
・ヒドロキシエチルデンプン(HES)製剤
・HESの種類
・NCJ
・透析患者にとって大切な体重と骨格筋量の維持
・不可避的蛋白喪失
・急性副腎皮質不全(副腎クリーゼ)
・HPA軸の回復
・ステロイド薬の剤形の違いによる吸収率
・JCOG
・食道がん周術期のステロイド療法
・乳び漏(胸水・腹水)対策
・術前栄養評価法
・胆汁返還の意義
・シンバイオティクス
・術後経腸栄養
・胆汁返還の実際
・肝切除後の胃排出遅延
・術後の長期栄養管理
①がんの発生・進展と代謝・栄養障害
②がん患者への栄養療法・輸液療法の必要性
第2章 がん患者の水・電解質代謝・酸塩基平衡とその異常
①がん患者における電解質異常
②がんと水・電解質異常,酸塩基平衡異常
第3章 がん患者の栄養障害とその対策 ─がん治療による消化管への影響─
Ⅰ 手術時
Ⅱ 化学療法時
①食思不振,悪心・嘔吐
②下 痢
③粘膜炎
④味覚障害
Ⅲ 放射線照射時
第4章 がん患者の輸液・栄養療法の進め方とマネジメント
Ⅰ 外科療法の輸液・栄養管理
①侵襲に伴う代謝変動と栄養管理
②術前に施行する輸液・栄養管理
③手術中の輸液・栄養管理
④術後の輸液・栄養管理
⑤がん終末期の輸液・栄養管理
Ⅱ 合併症を有する際の輸液・栄養管理
①糖尿病症例の周術期栄養管理
②透析患者に対する輸液・栄養管理
③ステロイド長期投与症例の周術期栄養管理
④肝硬変症例の周術期栄養管理
Ⅲ 術後合併症に対する輸液・栄養管理
①縫合不全
②術後膵炎・膵液瘻
③術後イレウス
④術後肺合併症
⑤乳び胸
Ⅳ 消化器周術期輸液・栄養療法
①胸部食道がん術前後の輸液・栄養療法
②膵臓切除術後の輸液・栄養療法
③胃全摘術後の輸液・栄養療法
④肝切除術後の輸液・栄養療法
⑤小腸広範囲切除術後の輸液・栄養療法
コラム
・がんの増殖速度と抗がん薬
・ITCと微小転移
・無酸素運動とCori cycle
・治療後のQOLと医療行為の価値
・胸膜癒着術における用薬剤
・栄養障害をきたす口腔粘膜炎の予防
ミニLecturer
・ユビキチン─プロテアソーム系
・時間得失法
・サルコペニア
・腫瘍崩壊症候群①
・ADH不適切分泌症候群(SIADH)
・塩類喪失性腎症(RSWS)
・腫瘍崩壊症候群②
・リフィーディング症候群
・強度変調放射治療
・counter-regulatory hormone
・NICE-SUGAR研究から学ぶ
・経口的な栄養補充製剤
・免疫増強(調整)経腸栄養剤
・清澄水
・経口補水液
・術中不感蒸泄
・サードスペース(第3の間隙)への水分貯留
・レミフェンタニルを使用した時の注意点
・輸液量の指標“尿量や中心静脈圧は あてにならない”
・ヒドロキシエチルデンプン(HES)製剤
・HESの種類
・NCJ
・透析患者にとって大切な体重と骨格筋量の維持
・不可避的蛋白喪失
・急性副腎皮質不全(副腎クリーゼ)
・HPA軸の回復
・ステロイド薬の剤形の違いによる吸収率
・JCOG
・食道がん周術期のステロイド療法
・乳び漏(胸水・腹水)対策
・術前栄養評価法
・胆汁返還の意義
・シンバイオティクス
・術後経腸栄養
・胆汁返還の実際
・肝切除後の胃排出遅延
・術後の長期栄養管理