一発明解! 腫瘍内科医が教える
見えるがん化学療法(ケモセラ)
1版
東邦大学医学部臨床腫瘍学講座 准教授
東邦大学医療センター大森病院化学療法センター 部長 菊池由宣 著
定価
3,960円(本体 3,600円 +税10%)
- B5判 277頁
- 2022年10月 発行
- ISBN 978-4-525-42201-1
各種がん治療薬の特徴・違いがイラストでわかる!
がん化学療法は難しいと思われがちですが,本書ではイラストを用いて,がん治療薬の特徴や違いが一目でわかるようにまとめました.総論では,腫瘍学をコンパクトにわかりやすくまとめ,各論では,ほぼすべての抗がん薬の適応や特徴などを解説し,医薬品集としても使用できる一冊です.
- 序文
- 目次
- 書評
序文
私は医学部卒業後にそのまま消化器内科学専攻科目の大学院に進学し,分子生物学研究室でLynch症候群に関する論文で学位を取得した.その後,縁があって1998年6月~2000年9月までアメリカのノースカロライナ州にあるThe National Institute of Environmental Health Sciences(NIEHS)で,細胞の不死化の研究を行い日本に帰国した.帰国当時,同期はすでに消化器内科で内視鏡治療やインターベンショナル・ラジオロジー(IVR)などの治療を積極的に最前線で行っており,自分はおいていかれたような気がした.そこで自分が進むべき道を考えたときに,今まで行ってきたがんの基礎研究を生かしたことを専門にしたいと考え,当時,化学療法を専門にする医師が医局にはいなかったことから,2000年12月より消化器内科で悪性腫瘍の化学療法を専門に行うことにした.当時は化学療法を勉強しようと思ったらがん専門の医療施設での研修が必須であったが,私にはそのような時間も指導をしてくれる先輩医師もいなかったため,学会や講演会などでがんの専門家の講演を聴講したりして,非常に苦労しながら最新の知識を得ていた.
近年,化学療法の分野は急速に進化をしており,毎年のように新規薬剤が承認され,治療レジメンも複雑多岐にわたっている.私は抗がん薬に関する講義を薬学部で行っているが,毎年,学生には新たな薬剤の話をしなければならず,学生が覚える内容は年々膨大になってきている.また,医師・看護師・薬剤師の中でも腫瘍学に特化した専門医療人の育成が必須であるが,なかなか増えていない.若い医師に腫瘍学の世界を勧めても,多くの若手医師には「腫瘍学は難しすぎて…」と言われてしまい敬遠されがちである.しかし,腫瘍学は決して難しい学問ではなく,やればやるほど新しい知見が増え楽しい学問である.なぜ多くの若手は難しいと感じるのか? それは今まで出版されている腫瘍学の教科書が難しく書かれすぎているためさっぱり理解できないからである.重要なのはわかりやすいイラストと平易な文章による解説である.
私は若いころ腫瘍学を指導してくれる先輩がいなかったことから,非常に苦労した経験がある.きっと今の学生や若手の医療スタッフも,昔の私と同様に苦労しているのではないかと思う.そこで私は自分が得た知識を,イラストを用いたわかりやすい書籍としてまとめたいと以前から考えていた.今回,南山堂と縁がありこのような機会をいただいた.本書の総論は,これからがんについて勉強しようと思っている医師・看護師・薬剤師を目指す学生や若手の医療スタッフの入門書としては最適である.また,各論は普段からがんの診療をしている医療スタッフが医薬品集として使用できる内容になっている.ぜひ,ご一読いただき日々の学習・診療にお役に立てれば本望である.
2022年9月
東邦大学医学部 臨床腫瘍学講座 准教授
菊池由宣
近年,化学療法の分野は急速に進化をしており,毎年のように新規薬剤が承認され,治療レジメンも複雑多岐にわたっている.私は抗がん薬に関する講義を薬学部で行っているが,毎年,学生には新たな薬剤の話をしなければならず,学生が覚える内容は年々膨大になってきている.また,医師・看護師・薬剤師の中でも腫瘍学に特化した専門医療人の育成が必須であるが,なかなか増えていない.若い医師に腫瘍学の世界を勧めても,多くの若手医師には「腫瘍学は難しすぎて…」と言われてしまい敬遠されがちである.しかし,腫瘍学は決して難しい学問ではなく,やればやるほど新しい知見が増え楽しい学問である.なぜ多くの若手は難しいと感じるのか? それは今まで出版されている腫瘍学の教科書が難しく書かれすぎているためさっぱり理解できないからである.重要なのはわかりやすいイラストと平易な文章による解説である.
私は若いころ腫瘍学を指導してくれる先輩がいなかったことから,非常に苦労した経験がある.きっと今の学生や若手の医療スタッフも,昔の私と同様に苦労しているのではないかと思う.そこで私は自分が得た知識を,イラストを用いたわかりやすい書籍としてまとめたいと以前から考えていた.今回,南山堂と縁がありこのような機会をいただいた.本書の総論は,これからがんについて勉強しようと思っている医師・看護師・薬剤師を目指す学生や若手の医療スタッフの入門書としては最適である.また,各論は普段からがんの診療をしている医療スタッフが医薬品集として使用できる内容になっている.ぜひ,ご一読いただき日々の学習・診療にお役に立てれば本望である.
2022年9月
東邦大学医学部 臨床腫瘍学講座 准教授
菊池由宣
目次
第1章 総論
1.DNAと遺伝子
2.がんに関連する遺伝子
3.腫瘍血管
4.がんと免疫
5.がん治療の基本
6.治療効果判定と有害事象判定
7.腫瘍学に必要な統計学
8.新薬の開発
第2章 各論
Ⅰ 殺細胞性抗がん薬
1.代謝拮抗薬
① プリン代謝拮抗薬
② ピリミジン代謝拮抗薬
③ 葉酸代謝拮抗薬
2.アルキル化剤・白金製剤
① ナイトロジェンマスタード類
② ニトロソウレア類
③ その他
④ 白金製剤
3.抗がん性抗生物質
① アントラサイクリン系
② その他
4.トポイソメラーゼ阻害薬
① トポイソメラーゼⅠ阻害薬
② トポイソメラーゼⅡ阻害薬
5.微小管阻害薬
① タキサン系
② ビンカアルカロイド系
③ その他
6.抗悪性腫瘍酵素製剤
Ⅱ 分子標的治療薬
1.ALK阻害薬
2.BCL-2阻害薬
3.BCR-ABL(c-KIT)阻害薬
4.BRAF阻害薬・MEK阻害薬
① BRAF阻害薬
② MEK阻害薬
5.BTK阻害薬
6.CDK4/6阻害薬
7.EZH2阻害薬
8.FGFR2阻害薬
9.FLT3阻害薬
10.HDAC阻害薬
11.EGFR(HER1)阻害薬
① EGFR-TKI
② 抗EGFR抗体薬
12.HER2阻害薬
13.HSP90阻害薬
14.JAK阻害薬
15.KRAS阻害薬
16.MET阻害薬
17.mTOR阻害薬
18.NTRK阻害薬
19.PARP阻害薬
20.RET阻害薬
21.ソマトスタチンアナログ製剤
22.プロテアソーム阻害薬
23.血管新生阻害薬
24.抗CCR4抗体薬
25.抗CD抗体薬
26.抗GD2抗体薬
27.抗SLAMF7抗体薬
28.抗体薬物複合体
Ⅲ ホルモン療法薬
① LH-RH(GnRH)アゴニスト
② LH-RH(GnRH)アンタゴニスト
③ 抗エストロゲン薬
④ アロマターゼ阻害薬
⑤ 男性ホルモン薬
⑥ 黄体ホルモン薬
⑦ エストロゲン薬
⑧ 抗アンドロゲン薬
⑨ その他
Ⅳ レチノイド関連薬
Ⅴ 免疫関連薬
1.免疫チェックポイント阻害薬
① 抗CTLA-4抗体薬
② 抗PD-1抗体薬
③ 抗PD-L1抗体薬
2.BRM(biological response modifier)
3.免疫調節薬(IMiDs)
Ⅵ 内包リポソーム製剤
Ⅶ 放射性医薬品抗悪性腫瘍薬
Ⅷ 再生医療等製品
Ⅸ 子宮頸癌ワクチン
一般索引
薬剤索引
1.DNAと遺伝子
2.がんに関連する遺伝子
3.腫瘍血管
4.がんと免疫
5.がん治療の基本
6.治療効果判定と有害事象判定
7.腫瘍学に必要な統計学
8.新薬の開発
第2章 各論
Ⅰ 殺細胞性抗がん薬
1.代謝拮抗薬
① プリン代謝拮抗薬
② ピリミジン代謝拮抗薬
③ 葉酸代謝拮抗薬
2.アルキル化剤・白金製剤
① ナイトロジェンマスタード類
② ニトロソウレア類
③ その他
④ 白金製剤
3.抗がん性抗生物質
① アントラサイクリン系
② その他
4.トポイソメラーゼ阻害薬
① トポイソメラーゼⅠ阻害薬
② トポイソメラーゼⅡ阻害薬
5.微小管阻害薬
① タキサン系
② ビンカアルカロイド系
③ その他
6.抗悪性腫瘍酵素製剤
Ⅱ 分子標的治療薬
1.ALK阻害薬
2.BCL-2阻害薬
3.BCR-ABL(c-KIT)阻害薬
4.BRAF阻害薬・MEK阻害薬
① BRAF阻害薬
② MEK阻害薬
5.BTK阻害薬
6.CDK4/6阻害薬
7.EZH2阻害薬
8.FGFR2阻害薬
9.FLT3阻害薬
10.HDAC阻害薬
11.EGFR(HER1)阻害薬
① EGFR-TKI
② 抗EGFR抗体薬
12.HER2阻害薬
13.HSP90阻害薬
14.JAK阻害薬
15.KRAS阻害薬
16.MET阻害薬
17.mTOR阻害薬
18.NTRK阻害薬
19.PARP阻害薬
20.RET阻害薬
21.ソマトスタチンアナログ製剤
22.プロテアソーム阻害薬
23.血管新生阻害薬
24.抗CCR4抗体薬
25.抗CD抗体薬
26.抗GD2抗体薬
27.抗SLAMF7抗体薬
28.抗体薬物複合体
Ⅲ ホルモン療法薬
① LH-RH(GnRH)アゴニスト
② LH-RH(GnRH)アンタゴニスト
③ 抗エストロゲン薬
④ アロマターゼ阻害薬
⑤ 男性ホルモン薬
⑥ 黄体ホルモン薬
⑦ エストロゲン薬
⑧ 抗アンドロゲン薬
⑨ その他
Ⅳ レチノイド関連薬
Ⅴ 免疫関連薬
1.免疫チェックポイント阻害薬
① 抗CTLA-4抗体薬
② 抗PD-1抗体薬
③ 抗PD-L1抗体薬
2.BRM(biological response modifier)
3.免疫調節薬(IMiDs)
Ⅵ 内包リポソーム製剤
Ⅶ 放射性医薬品抗悪性腫瘍薬
Ⅷ 再生医療等製品
Ⅸ 子宮頸癌ワクチン
一般索引
薬剤索引
書評
松本高広(東邦大学医療センター大森病院薬剤部 副部長)
昨今,がん薬物療法は飛躍的な進歩をとげ,さまざまな作用機序の抗がん薬が開発,上市されている.こうした現状の中,薬剤師は各々の薬剤の作用機序や特性を理解し,薬学的な観点から医師や看護師に適切な助言を行っていくことが求められる.
本書は,一般的な専門書だと非常に難解な腫瘍学を平易な文章とイラストでわかりやすく解説しており,これから腫瘍学,がん薬物療法を学ぶ者にとって必携の一冊といえる.
本書では初めに,総論としてがんの分子生物学の基礎的な知識(がん関連遺伝子や免疫)を解説している.細胞の分裂期にみられる染色体の両端(テロメア領域)は通常の細胞だと50 回分裂すると短縮され,正常細胞は老化細胞と認識され分裂を終える.がん細胞の90%ではこのテロメアを伸長できるテロメラーゼという酵素を発現しており,がん細胞は永遠に分裂を繰り返し不死化してしまうことが知られている.細胞の不死化については著者が海外留学時に研究していた分野でもある.こうした基礎知識を踏まえたうえで,各薬剤の特性を理解することは極めて重要であり,がんの基礎研究を生かしながら臨床業務を行う著者の姿勢が反映されている本書の特色のひとつといえる.
抗がん薬,とりわけ分子標的薬は近年さまざまな薬理・作用機序を有するため,非常に複雑であり,全てをきちんと理解するのはとても難しい.各論では,各薬剤が作用機序ごとに分類され,最近上市された新規の作用機序薬剤であるHSP90 阻害薬のピミテスピブまで網羅している.ここでは,各々の薬剤が作用するシグナル伝達経路や標的因子をカラーのイラストでわかりやすく図解されていて,薬理作用や作用点について本書で一度に把握できるのがとてもありがたい.また,EPR 効果(腫瘍組織は血管透過性が亢進しているため,血中滞留性の高い高分子や微粒子が血管外に漏出しやすく,さらにがん組織ではリンパ組織が未成熟であるために漏出した物質はリンパ管を介して消失しにくい)を利用した内包リポソーム製剤の作用機序など総論で解説されていることを理解したうえで各論を読むと腑に落ちるような構成となっており,基礎と臨床応用を結び付ける薬学的な思考力が身につく内容となっている.
本書が,がんを専門とする医療スタッフ,とりわけがん専門薬剤師育成のための入門書となることを願ってやまない.
昨今,がん薬物療法は飛躍的な進歩をとげ,さまざまな作用機序の抗がん薬が開発,上市されている.こうした現状の中,薬剤師は各々の薬剤の作用機序や特性を理解し,薬学的な観点から医師や看護師に適切な助言を行っていくことが求められる.
本書は,一般的な専門書だと非常に難解な腫瘍学を平易な文章とイラストでわかりやすく解説しており,これから腫瘍学,がん薬物療法を学ぶ者にとって必携の一冊といえる.
本書では初めに,総論としてがんの分子生物学の基礎的な知識(がん関連遺伝子や免疫)を解説している.細胞の分裂期にみられる染色体の両端(テロメア領域)は通常の細胞だと50 回分裂すると短縮され,正常細胞は老化細胞と認識され分裂を終える.がん細胞の90%ではこのテロメアを伸長できるテロメラーゼという酵素を発現しており,がん細胞は永遠に分裂を繰り返し不死化してしまうことが知られている.細胞の不死化については著者が海外留学時に研究していた分野でもある.こうした基礎知識を踏まえたうえで,各薬剤の特性を理解することは極めて重要であり,がんの基礎研究を生かしながら臨床業務を行う著者の姿勢が反映されている本書の特色のひとつといえる.
抗がん薬,とりわけ分子標的薬は近年さまざまな薬理・作用機序を有するため,非常に複雑であり,全てをきちんと理解するのはとても難しい.各論では,各薬剤が作用機序ごとに分類され,最近上市された新規の作用機序薬剤であるHSP90 阻害薬のピミテスピブまで網羅している.ここでは,各々の薬剤が作用するシグナル伝達経路や標的因子をカラーのイラストでわかりやすく図解されていて,薬理作用や作用点について本書で一度に把握できるのがとてもありがたい.また,EPR 効果(腫瘍組織は血管透過性が亢進しているため,血中滞留性の高い高分子や微粒子が血管外に漏出しやすく,さらにがん組織ではリンパ組織が未成熟であるために漏出した物質はリンパ管を介して消失しにくい)を利用した内包リポソーム製剤の作用機序など総論で解説されていることを理解したうえで各論を読むと腑に落ちるような構成となっており,基礎と臨床応用を結び付ける薬学的な思考力が身につく内容となっている.
本書が,がんを専門とする医療スタッフ,とりわけがん専門薬剤師育成のための入門書となることを願ってやまない.