絵でまるわかり 分子標的抗がん薬
改訂2版
北陸大学薬学部 実践実学系実務実学系分野 教授
石川和宏 著
定価
2,750円(本体 2,500円 +税10%)
- B5判 124頁
- 2022年5月 発行
- ISBN 978-4-525-42362-9
分子標的抗がん薬・免疫チェックポイント阻害薬の作用メカニズムが「絵」でわかる!
「分子標的抗がん薬」は2000年初頭に登場し,その後ものすごい勢いで増えています.本書では,新しい作用が増え,理解しづらい分子標的薬を「細胞外,細胞内,核内」と3つに整理してわかりやすく解説.「免疫チェックポイント阻害薬」についてもわかりやすいイラストで解説した.「分子標的抗がん薬」にはじめて取り組む方・整理して俯瞰したい方にもおすすめの「みてわかる」解説書です.
- 序文
- 目次
- 書評1
- 書評2
序文
私が分子標的抗がん薬と向きあって早いもので20年近くになります.2000年初頭,薬剤部で取り扱っていた分子標的薬は,ゲフィチニブをはじめ数種類といったところでした.その後に続く同タイプの薬剤は上市されるスピードが大変遅く,殺細胞性抗がん薬による薬物療法が主流として続くものと考えていました.ところが,2011年には,その数も急激に増え,「基本まるわかり!分子標的薬」(南山堂)を出版するまでに注目されてきました.その後,分子標的薬がさまざまな領域で臨床的に使用されてきたため改題し,「絵でまるわかり 分子標的抗がん薬」(2016年)を発行しました.この分子標的薬の上市スピードは年を追うごとに加速し,このたび改訂2版を発行する運びとなりました.このような流れは,がん薬物療法における大きな変革期として捉えることができます.初版では,分子標的抗がん薬の作用点を「細胞外」と「細胞内」にわけて解説していました.改訂2版ではこれらに加え,「核内」にはたらく薬剤も登場しています.これは,分子標的抗がん薬を理解するにあたり,大きな変化と言えます.
私はこの劇的な流れのなかに身を置き,本薬剤と向き合ってきたことに,臨床家としてこの上ない幸せを感じている次第です.この巡り合わせた変革期を読者のみなさまとともに向き合える喜びを噛み締め,今回執筆させていただきました.
昨今,このタイプの薬剤は,コンピュータなどの高度な技術を駆使した分子生物学的研究の進歩により生み出されてきている特徴があり,非常に複雑多様化しています.このような背景で開発された薬の新しく複雑な作用機序などを,「わかりやすく理解するために,視覚的にもイメージできる」という従来からの本書がもつ役割を再度見つめなおし,特色である擬人化したイラストを個々の薬剤の作用機序に多用するとともに,分子標的薬を理解するうえで必須となる細胞の種類にも着目しました.この工夫は,単剤における作用機序の理解に役立つばかりでなく,複数の分子標的抗がん薬を用いた併用療法のしくみをより明確にイメージすることにもつながります.“単剤でも難しいのに併用なんてとんでもない”という頭を抱えてしまうような悩みから,すっきり解放される感覚を味わっていただけるのではないかと思っています.また,本書を読みすすめるにしたがい,がんゲノム医療の神髄が無意識のうちに頭の中に湧いてくることも,期待される強みとして考えています.ぜひ,そのような“わかる”感覚を少しでも味わっていただき,日頃の分子標的抗がん薬への対応に苦痛を感じている方,分子標的薬を表面的に理解しているのみでその知識を応用できていない方に,少しでもお役に立てていただければ,筆者として至極の喜びです.どうぞ一度手に取り,ご覧いただければ幸いです.
2022年春
北陸大学薬学部 実践実学系実務実学系分野 教授
石川和宏
私はこの劇的な流れのなかに身を置き,本薬剤と向き合ってきたことに,臨床家としてこの上ない幸せを感じている次第です.この巡り合わせた変革期を読者のみなさまとともに向き合える喜びを噛み締め,今回執筆させていただきました.
昨今,このタイプの薬剤は,コンピュータなどの高度な技術を駆使した分子生物学的研究の進歩により生み出されてきている特徴があり,非常に複雑多様化しています.このような背景で開発された薬の新しく複雑な作用機序などを,「わかりやすく理解するために,視覚的にもイメージできる」という従来からの本書がもつ役割を再度見つめなおし,特色である擬人化したイラストを個々の薬剤の作用機序に多用するとともに,分子標的薬を理解するうえで必須となる細胞の種類にも着目しました.この工夫は,単剤における作用機序の理解に役立つばかりでなく,複数の分子標的抗がん薬を用いた併用療法のしくみをより明確にイメージすることにもつながります.“単剤でも難しいのに併用なんてとんでもない”という頭を抱えてしまうような悩みから,すっきり解放される感覚を味わっていただけるのではないかと思っています.また,本書を読みすすめるにしたがい,がんゲノム医療の神髄が無意識のうちに頭の中に湧いてくることも,期待される強みとして考えています.ぜひ,そのような“わかる”感覚を少しでも味わっていただき,日頃の分子標的抗がん薬への対応に苦痛を感じている方,分子標的薬を表面的に理解しているのみでその知識を応用できていない方に,少しでもお役に立てていただければ,筆者として至極の喜びです.どうぞ一度手に取り,ご覧いただければ幸いです.
2022年春
北陸大学薬学部 実践実学系実務実学系分野 教授
石川和宏
目次
第1章 がん細胞にはたらかない抗がん薬ってあるの?
【1】分子標的抗がん薬の新しい考え方
・殺細胞性抗がん薬とのちがい
・分子標的抗がん薬とは
・作用機序からみた抗がん薬のちがい
・抗体薬と小分子薬
・抗体薬
【2】がん細胞に対する免疫応答と免疫チェックポイント分子標的薬
【3】抗がん薬がはたらく細胞はがん細胞の他にあるの?
─イメージする細胞は4種類が基本─
・抗がん薬がはたらく細胞とは…
がん細胞
がん細胞の増殖のしくみ
がん細胞の浸潤・転移のしくみ
血管内皮細胞
血管内皮細胞のはたらき
がん細胞による血管新生のしくみ
・薬剤のちがい
免疫細胞1:樹状細胞
免疫細胞2:T細胞
第2章 分子標的抗がん薬の特徴とメカニズム
【1】細胞外で作用する薬
・抗体薬:リガンド標的薬
VEGF阻害薬
・抗体薬:膜受容体標的薬
EGFR阻害薬/HER2阻害薬/VEGFR-2阻害薬
・抗体薬:免疫チェックポイント分子標的薬
PD-1阻害薬/PD-L1阻害薬/CTLA-4阻害薬
・抗体薬:膜上分化抗原標的薬
CD20標的薬/CD22標的薬/CD30標的薬/CD33標的薬
CD38標的薬/CD52標的薬/CD79b標的薬/CCR4標的薬
・SLAMF7標的薬/CD3・CD19標的薬/GD2標的薬
【2】細胞質内で作用する薬:受容体型分子を標的にした薬
・小分子薬:受容体型チロシンキナーゼ標的薬
上皮成長因子受容体(EGFR)/EGFR遺伝子変異とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬
EGFR遺伝子検査/EGFRチロシンキナーゼ阻害薬
EGFR/HER2チロシンキナーゼ阻害薬/血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)
VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬/FLT3阻害薬
TRKおよびROS1チロシンキナーゼ阻害薬/METチロシンキナーゼ阻害薬
FGFRチロシンキナーゼ阻害薬
【3】細胞質内で作用する薬:非受容体型分子を標的にした薬
・小分子薬:非受容体型チロシンキナーゼ標的薬
BCR-ABLチロシンキナーゼ/BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬
ALK融合チロシンキナーゼ/ROS1融合チロシンキナーゼ
ALK融合チロシンキナーゼ阻害薬/JAK阻害薬/BTK阻害薬
・小分子薬:セリン・スレオニンキナーゼ等標的薬
BRAF阻害薬/MEK阻害薬/mTORセリン・スレオニンキナーゼ
mRNA/細胞周期/mTORセリン・スレオニンキナーゼ阻害薬
PNP阻害薬/BCL-2阻害薬
・小分子薬:プロテアソーム標的薬
ユビキチン-プロテアソームタンパク質分解系
プロテアソーム阻害薬
【4】細胞質内で作用する薬:受容体型・非受容体型両分子を標的にした薬
・小分子薬:マルチキナーゼ標的薬
単一から多標的阻害へ
【5】細胞核内で作用する薬:核内分子を標的にした薬
・小分子薬:細胞核内分子標的薬
Cdk4/6セリン・スレオニンキナーゼ阻害薬/PARP阻害薬
HDAC阻害薬/EZH2阻害薬
【6】分子標的抗がん薬どうしの併用療法
第3章 各論を踏まえたがん化学療法総論
【1】遺伝子情報とがん化学療法
【2】投与された抗がん薬の作用に関連した因子
【3】支持療法とがん化学療法
【column】
薬効にかかわる遺伝子型理解のコツ
コンパニオン診断薬
殺細胞性抗がん薬の作用機序
抗体薬と小分子薬の語尾
リキッドバイオプシー
【1】分子標的抗がん薬の新しい考え方
・殺細胞性抗がん薬とのちがい
・分子標的抗がん薬とは
・作用機序からみた抗がん薬のちがい
・抗体薬と小分子薬
・抗体薬
【2】がん細胞に対する免疫応答と免疫チェックポイント分子標的薬
【3】抗がん薬がはたらく細胞はがん細胞の他にあるの?
─イメージする細胞は4種類が基本─
・抗がん薬がはたらく細胞とは…
がん細胞
がん細胞の増殖のしくみ
がん細胞の浸潤・転移のしくみ
血管内皮細胞
血管内皮細胞のはたらき
がん細胞による血管新生のしくみ
・薬剤のちがい
免疫細胞1:樹状細胞
免疫細胞2:T細胞
第2章 分子標的抗がん薬の特徴とメカニズム
【1】細胞外で作用する薬
・抗体薬:リガンド標的薬
VEGF阻害薬
・抗体薬:膜受容体標的薬
EGFR阻害薬/HER2阻害薬/VEGFR-2阻害薬
・抗体薬:免疫チェックポイント分子標的薬
PD-1阻害薬/PD-L1阻害薬/CTLA-4阻害薬
・抗体薬:膜上分化抗原標的薬
CD20標的薬/CD22標的薬/CD30標的薬/CD33標的薬
CD38標的薬/CD52標的薬/CD79b標的薬/CCR4標的薬
・SLAMF7標的薬/CD3・CD19標的薬/GD2標的薬
【2】細胞質内で作用する薬:受容体型分子を標的にした薬
・小分子薬:受容体型チロシンキナーゼ標的薬
上皮成長因子受容体(EGFR)/EGFR遺伝子変異とEGFRチロシンキナーゼ阻害薬
EGFR遺伝子検査/EGFRチロシンキナーゼ阻害薬
EGFR/HER2チロシンキナーゼ阻害薬/血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)
VEGFRチロシンキナーゼ阻害薬/FLT3阻害薬
TRKおよびROS1チロシンキナーゼ阻害薬/METチロシンキナーゼ阻害薬
FGFRチロシンキナーゼ阻害薬
【3】細胞質内で作用する薬:非受容体型分子を標的にした薬
・小分子薬:非受容体型チロシンキナーゼ標的薬
BCR-ABLチロシンキナーゼ/BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬
ALK融合チロシンキナーゼ/ROS1融合チロシンキナーゼ
ALK融合チロシンキナーゼ阻害薬/JAK阻害薬/BTK阻害薬
・小分子薬:セリン・スレオニンキナーゼ等標的薬
BRAF阻害薬/MEK阻害薬/mTORセリン・スレオニンキナーゼ
mRNA/細胞周期/mTORセリン・スレオニンキナーゼ阻害薬
PNP阻害薬/BCL-2阻害薬
・小分子薬:プロテアソーム標的薬
ユビキチン-プロテアソームタンパク質分解系
プロテアソーム阻害薬
【4】細胞質内で作用する薬:受容体型・非受容体型両分子を標的にした薬
・小分子薬:マルチキナーゼ標的薬
単一から多標的阻害へ
【5】細胞核内で作用する薬:核内分子を標的にした薬
・小分子薬:細胞核内分子標的薬
Cdk4/6セリン・スレオニンキナーゼ阻害薬/PARP阻害薬
HDAC阻害薬/EZH2阻害薬
【6】分子標的抗がん薬どうしの併用療法
第3章 各論を踏まえたがん化学療法総論
【1】遺伝子情報とがん化学療法
【2】投与された抗がん薬の作用に関連した因子
【3】支持療法とがん化学療法
【column】
薬効にかかわる遺伝子型理解のコツ
コンパニオン診断薬
殺細胞性抗がん薬の作用機序
抗体薬と小分子薬の語尾
リキッドバイオプシー
書評1
分子標的抗がん薬の作用機序がイラストでまるわかり!
吉村知哲(大垣市民病院 薬剤部長)
ついに出ました! 初版を活用させていただいている私にとって待ちに待った改訂第2版です.今や,分子標的抗がん薬は,がん薬物療法の主役になりつつあり,治療戦略を立てる上で,また,副作用が発現した場合にも作用機序を理解しておくことが重要です.しかし,分子標的抗がん薬は,様々な標的分子をターゲットとしており,その作用機序は非常に理解しにくく,がんに携わっている薬剤師でさえわからないことが多くあります.
本書は,そんな難解な作用機序をイラストで可視化して,わかりやすく解説された一冊です.イラストが目に飛び込んでくるため,「え~,なるほど」と細胞外や細胞内,さらには核内で起こっている薬の作用メカニズムが頭の中でイメージとして展開され,読んでいて楽しくなります.免疫チェックポイント阻害薬についても,とてもわかりやすくまとめられています.
がん薬物療法に携わる医師,薬剤師,看護師,学生にとって非常にためになる良書だといえます.初学者からスペシャリストまで満足できる内容になっているため,お勧めしたい一冊です.
吉村知哲(大垣市民病院 薬剤部長)
ついに出ました! 初版を活用させていただいている私にとって待ちに待った改訂第2版です.今や,分子標的抗がん薬は,がん薬物療法の主役になりつつあり,治療戦略を立てる上で,また,副作用が発現した場合にも作用機序を理解しておくことが重要です.しかし,分子標的抗がん薬は,様々な標的分子をターゲットとしており,その作用機序は非常に理解しにくく,がんに携わっている薬剤師でさえわからないことが多くあります.
本書は,そんな難解な作用機序をイラストで可視化して,わかりやすく解説された一冊です.イラストが目に飛び込んでくるため,「え~,なるほど」と細胞外や細胞内,さらには核内で起こっている薬の作用メカニズムが頭の中でイメージとして展開され,読んでいて楽しくなります.免疫チェックポイント阻害薬についても,とてもわかりやすくまとめられています.
がん薬物療法に携わる医師,薬剤師,看護師,学生にとって非常にためになる良書だといえます.初学者からスペシャリストまで満足できる内容になっているため,お勧めしたい一冊です.
書評2
池末裕明(神戸市立医療センター中央市民病院薬剤部)
がん薬物療法のポイントをバシッと見える化した本書が改訂された.多数の分子標的薬の特徴を理解し,対応するのは容易ではない.がん専門薬剤師でも,患者さんに「今度の薬は,前の薬とどう違うか」「どんなことに注意すべきか」尋ねられると明快に答えるのは意外と難しく,色々と細かいことを説明してしまう.抗がん薬に馴染みがないなら,なおさらだ.
保険薬局でレジメン情報が得られても,情報は多岐にわたり途方に暮れるかも知れない.いきなり各論から入っても霧のなかだし,総論が重すぎても胸焼けする.本書では,第1章で分子標的薬治療の考え方がまとめられ,全体像の理解に役立つ.第2章では,各薬剤の特徴と作用機序が明快なイラストで示されている.一般名と商品名がセットで記載されているのもよい.
薬学実習でも,患者さんに処方された分子標的薬の特徴,類薬との違いをそのつど確認でき知識が広がる.がん薬物療法のポイントを押さえる一冊として,すべての薬剤師に活用いただきたい.
がん薬物療法のポイントをバシッと見える化した本書が改訂された.多数の分子標的薬の特徴を理解し,対応するのは容易ではない.がん専門薬剤師でも,患者さんに「今度の薬は,前の薬とどう違うか」「どんなことに注意すべきか」尋ねられると明快に答えるのは意外と難しく,色々と細かいことを説明してしまう.抗がん薬に馴染みがないなら,なおさらだ.
保険薬局でレジメン情報が得られても,情報は多岐にわたり途方に暮れるかも知れない.いきなり各論から入っても霧のなかだし,総論が重すぎても胸焼けする.本書では,第1章で分子標的薬治療の考え方がまとめられ,全体像の理解に役立つ.第2章では,各薬剤の特徴と作用機序が明快なイラストで示されている.一般名と商品名がセットで記載されているのもよい.
薬学実習でも,患者さんに処方された分子標的薬の特徴,類薬との違いをそのつど確認でき知識が広がる.がん薬物療法のポイントを押さえる一冊として,すべての薬剤師に活用いただきたい.