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カテゴリー: 東洋医学  |  臨床薬学

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薬対論

生薬二味の組み合わせからひも解く中医薬方と日本漢方

1版

陳 維華 原著
徐 国龍 原著
張 明淮 原著
蔡 永亮 原著
木村郁子 翻訳
陳 福君 翻訳
韓 晶岩 翻訳
香川正太 翻訳

定価

9,900(本体 9,000円 +税10%)


  • A5判  481頁
  • 2019年8月 発行
  • ISBN 978-4-525-47221-4

二薬の組み合わせのメカニズムを探る!

陳 維華らによる著書『藥對論』の翻訳本.本書は,生薬二味の組み合わせ(薬対)で,中医薬方の生薬製剤による臨床効果を,経験や文献に基づき解説すると同時に,日本漢方の生薬製剤を,陳らの薬対の組み合わせ効果で解析し,中医薬方と比較検討した「補遺」を追記した.薬対とともに中医薬方と日本漢方の違いが理解できる書籍である.

  • 序文
  • 目次
序文
訳者の序

 伝統医学は現代西洋医学が確立する以前から,疾病の治癒に貢献してきた.ギリシャ医学,ユナニ医学,アーユルベーダ医学,中医学,韓医学,日本の漢方医学や民間療法がある.伝統医学は,しばしば政治闘争に巻き込まれ,存続が危ぶまれたことがあった.日本に伝播された中国の伝統医学は,日本で大切に漢方医学として保持されてきたが,明治(1868~1912年)の初期に漢方医学が否定され,もっぱら蘭学という西洋医学へ舵が切られた.このような紆余曲折を経て,現代の日本漢方に至っている.日本では漢方医学と西洋医学は分離されず,医師は両医学の薬を処方することができる.これが漢方医学を西洋医学的に研究できる素地になっている.中国では,文化大革命(1966~1977年)の時代に,一時,伝統医学が否定されたことがあった.現在は,中医学と西洋医学は分離されていて,中医薬を処方する医師と西洋薬を処方する医師は異なる.
 伝統医学では,経験則のみに基づいて多くの生薬を使い,症例報告などの臨床報告が蓄積され,理論構築がなされた.中医薬方や日本漢方には,まだまだ西洋医学的に客観的な実験的証明evidence-based medicine(EBM)での解明が必要な,薬物資源がたくさん眠っている.現在,中医薬学を主体とする,中国の学者が主催する世界中医薬学会連合会に日本人の出席者は少ない.「どうしてなのですか」と尋ねられるが,私にはその理由を簡単に答えることができない.世界中医薬学会連合会に参加してみると,日本東洋医学会や和漢医薬学会などでの発表と重複している内容がみられる.日本国内だけにとどまらず,伝統医学のEBMに向けて,地球規模の広い分野で治療効果に関する研究情報の交換が不可欠である.
 本書の原著『薬対論』は現在でもなお,中国国内で市販されている.これを翻訳するにあたり,項目別に原文を再編成し,また,五十音順に羅列した生薬名,薬対名や処方名の項目を容易に探せるように工夫した.陰陽五行説にある臓器連関は,現在科学的にも一部証明されてきているが,難解にならないよう( )で説明を示した.後半に翻訳者による補遺を示し,中医薬方と日本漢方で用いられる生薬名に関する誤解を避けるため,比較説明を丁寧に付け加えた.また,処方名のローマ字化が2005年に日本で決定されたので,それも付記した.事典的に「わかりやすく」科学的に読んで利用していただけるよう,特に,伝統医薬学を目指す若い研究者や学生の方々のお役に立てれば幸いである.

2019年7月 富山にて
翻訳者を代表して 木村郁子




 徐 之才の著書『薬対』は中医薬を君臣,毒性,相反および治療できる疾病ごとに分類し,その効能を総合的に記載している.これを基に,『諸病源候論』において「江左道宏道人制解散対治方」と記述されており,相反・相成の薬対は,薬効を増強するとしている.これらの文献から,薬対の意味がわかる.
 『神農本草・名例』には,「薬対には,単独作用,相須,相使,相畏,相殺,相悪,相反のものがある.以上の“七情和合”の中で,相須や相使のものは組み合わせても良く,相悪や相反は組み合わせ不可で,その毒性を制するには相畏,相殺のものを使う.それがなければ一緒に使うべきでない.」とされ,また,「薬には君臣佐使があり,さらに陰陽の組み合わせ,子母兄弟および四気五味などがある.」と指摘している.後世になり,中医薬の“七情和合”についての認識がさらに深まり,発展し,薬対に関する知見が蓄積された.1100年来,薬対についての学問は,歴代の医家において重視され,医書では『神農本草経』,『名医別録』から『本草従新』に至るまで,医家では張 仲景,孫 思?,張 山雷,張 錫純に至るまで,みな薬対に関する貴重な知見を残している.その内容は非常に豊富で,多方面の経験から構築され,さらに,独自の功績を残し,中医薬学を構成する貴重な部分となっている.
 薬対の出現は,中医薬の歴史において一つの展開として把握されている.薬対が2つのみならず,3つ,さらに多味薬の組み合わせにまで活用されるようになっている.薬対は,薬効および治療効果を増強し,治療範囲を拡大し,方剤における組み合わせの基礎となり,また,薬物学および方剤学の両学問の中核となった.経験が理論として帰納され,発展して,さらにその理論の確立は必然的に臨床における投薬を進歩させる導火線となった.薬対に関する学問は,中医薬学の精髄であり,今日まで医薬学および中医学に興味をもつ人々に重要視され,利用され続けている.
 陣 維華,徐 国龍,張 明淮,蔡 永亮の4人の医師は,中医の任務に確固たる信念を持っている.彼らは『常用中薬処方名辯義』を完成後,続いて薬対の研究に専念し,その詳細な意義を詳しく解説し,規則性を明らかにした.さらに,歴代にわたる経験を融合させ,各学説を集めて統一し,この学問を系統的に論述し,さらに,臨床における実践経験を合わせて『薬対論』を完成させた.これらは中医薬学への偉大な貢献であるとともに,教育,臨床,研究において内容豊富で実用的な参考資料となっている.同書は,高度な理論に基づいており,臨床実践にきわめてよく応用しているので,著者らの深い造詣,入念な執筆,そして本書が持つ堅実性が十分に伝わってくる.私もずっとこの分野に興味があり,この著作に大いに啓発されている.著者より序文の依頼を受けたので,ここに喜んで一筆献上した次第である.

1984年6月 南京にて
丁 光廸


本書について

 臨床において医者が使う昔ながらの方剤は,単味の使用は少なく,ほとんどは処方中に意識的あるいは無意識的に2つの薬が組み合わされている.例えば,麻黄湯の桂枝―麻黄,桂枝湯の桂枝―芍薬,小柴胡湯の黄?―柴胡,平胃散の厚朴―蒼朮と,二陳湯の陳皮―半夏,芍薬甘草湯の甘草―芍薬と,交泰丸の黄連―肉桂などである.近代の名医,秦 伯未先生は『謙斎医学講稿』の中で次のように指摘した.「処方中によく一緒に使われている当帰―白芍,厚朴―蒼朮,陳皮―半夏などの薬対は,主に先人たちが経験した結果の蓄積であり,根拠と理論があり,無意味に組み合わせたものではない.適切な組み合わせにより,薬物の効能は増強され,治療範囲は広がるので,重視する価値がある」.また,「薬物の組み合わせには重要な意義がある.もし深く知らず,勝手に組み合わせると,乱雑な処方となり目的外の効果が生じたり,あるいは,屋上に屋を架すような重複した効果が生じたりする」とも指摘した.薬対については,歴代の医学者や薬学者から重視され,その内容は大変豊富であり,各種の中医の書籍でよくみられる.しかし,実際の応用に関する内容が多く,原理や根拠についての論述が少ないため,どうしても知識が浅くなってしまう欠点がある.このことは,中医薬の系統的な研究においてマイナス要因となっており,また臨床応用における根拠の欠如が懸念される.2薬の組み合わせのメカニズムについて深く研究し,それらの普遍的な一般的法則を明らかにし,さらにそれぞれが持つ特徴と臨床的意義を分析することにより,臨床上での使い分けができ,治療効果を上げることができる.
 歴代の本草に関する専門書には,『雷公薬対』4巻,徐 之才による『薬対』2巻,宋 令祺による『新広薬対』2巻,さらに著者が不明な『薬対』2巻がある.これらの書物はほとんど散逸しているため,2薬の組み合わせに関して論じていたか否かは考証できない.唯一,北齊の徐 之才による『薬対』の内容が,旧本草の書籍中に断片的に見つかる.このたび,われわれは,2薬の組み合わせ(薬対)のうち,歴代医書で記載があったもの,現在,臨床でよく使われているもの,確実にある程度の意義と治療効果があるものについてまとめた.執筆にあたっては,伝統的な中医薬の基礎理論を基にし,われわれが臨床実践で得た知識と経験を融合し,さらに現代の関連研究資料を参考に内容を論理的・系統的に集約し,レベルアップさせた.詳細な分析的内容から総合的内容までを一冊にまとめた本書を『薬対論』と名付けることにした.
 本書は,大きく総論と各論の2部からなる.総論では,薬対の意味,組成,作用および応用などの項目に分け,要約して論じている.各論では,約400個の薬対を例として,その効能の特徴により,解表,?寒,清熱,?湿,瀉下,理気,理血,調和,止咳平喘,消散,補益,固渋,その他,の計13種類に分類し,組み合わせのメカニズム,効能および臨床応用などについて比較的詳しく論じた.
本書の執筆は,中国の医学遺産を発掘・整理し,先人の不足部分を補うことを目的として始まったが,中医薬の多くの関係者に対して,理論と実践を相互に結び付ける思考を向上・普及させることにより,中医薬の組み合わせの理論研究や応用を推進させる手引きになるよう願っている.本書は,ある程度の中医薬の理論知識があり,一定の臨床経験がある中・上級の医療人や,大学・専門学校の医薬関連の教員や学生,中医薬研究者などの参考になるものと考えている.
 本書は,新しいチャレンジであり,形式や内容の配列,論述,特徴などに関しては未熟な部分があると思われる.今後の再修正および補充のために,読者の皆様からの貴重なご意見をいただければ幸いである.

1983年1月 合肥にて
陳 維華

目次
薬対論:原著日本語翻訳

1.生薬をなぜ組み合わせるか

 1 薬対とは

 2 薬対と単味生薬

 3 薬対と方剤

 4 薬対の組み合わせ
  4-1 治療法則と薬対の組み合わせ
  4-2 薬対の組み合わせと中医学の基礎理論
  4-3 薬対の組み合わせ方

 5 薬対の作用
 5-1 薬対の基本作用
  5-2 薬対の基本作用に及ぼす用量比
  5-3 組み合わせる生薬の炮制法

 6 薬対の臨床応用
  6-1 単一の薬対からなる組み合わせ 
  6-2 複数の薬対からなる組み合わせ 
  6-3 方剤中における薬対 


2.薬対各論

 1 解表類
  1-1 袪風散寒
  1-2 疏風清熱

 2 袪寒類
  2-1 臓腑を温める 
  2-2 経絡を温める 

 3 清熱類
  3-1 清熱瀉火
  3-2 清熱涼血 
  3-3 清熱解毒 
  3-4 清退虚熱 

 4 袪湿類
  4-1 化湿燥湿 
  4-2 利水除湿 
  4-3 袪風勝湿 

 5 瀉下薬
  5-1 寒 下 
  5-2 温 下 
  5-3 潤 下 
  5-4 逐 水 

 6 理気類
  6-1 理 気
  6-2 行 気
  6-3 降 気

 7 理血類
  7-1 活 血 
  7-2 止 血 

 8 調和類
  8-1 和解少陽
  8-2 調理肝脾
  8-3 調和腸胃
  8-4 調理気血

 9 止咳平喘類
 
10 消散類
  10-1 食積を消す
  10-2 堅痞を散らす
  10-3 癰膿を消す 

11 補益類
  11-1 補気補陽
  11-2 補血補陰
  11-3 気血陰陽兼補

12 固渋類
  12-1 固表止汗
  12-2 固精止帯
  12-3 渋腸固脱

13 その他
  13-1 熄 風 
  13-2 安 神 
  13-3 開 竅 
  13-4 駆 虫 
  13-5 湧 吐
  13-6 外 用


補 遺

1.中医薬方と日本漢方における薬対の比較

 1 必要な予備知識

 2 中医薬方と日本漢方における構成生薬の違い
  2-1 同名異植物
  2-2 同名異修治生薬
  2-3 異名同生薬
  2-4 同名異方剤
  2-5 異名同方剤

 3 中医薬方と日本漢方を構成する薬対

 4 中医薬方と日本漢方における出現頻度の高い薬対
  4-1 解表類
  4-2 袪寒類
  4-3 清熱類
  4-4 袪湿類
  4-5 瀉下薬
  4-6 理気類
  4-7 理血類
  4-8 調和類
  4-9 止咳平喘類
  4-10 消散類
  4-11 補益類

2.温病処方(中医薬方)における薬対

 1 温病とは

 2 温病条弁とは

 3 温病処方における薬対
  3-1 風温(風熱の邪による急性熱病)
  3-2 春温(温熱の邪が体内に滞留した急性熱病)
  3-3 暑温(暑熱の邪による急性外感熱病)
  3-4 湿温(湿熱の邪による急性外感熱病)
  3-5 温病の一種,燥熱の邪による急性外感熱病
  3-6 夏の邪気が体内に滞留し,秋に発症した急性熱病
  3-7 温毒による急性外感熱病


用語解説
参考文献

一般索引
生薬・薬対索引
方剤索引
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