災害看護
心得ておきたい基本的な知識
改訂3版
清泉女学院大学看護学部看護学科 教授 小原真理子 監修
福井大学医学部看護学科 教授 酒井明子 監修
東京家政大学健康科学部看護学科 講師 齋藤正子 編
日本赤十字社医療センター国内医療救護部 看護師長 板垣知佳子 編
定価
3,080円(本体 2,800円 +税10%)
- B5判 303頁
- 2019年4月 発行
- ISBN 978-4-525-50253-9
確かな実践力を育む「災害看護」の必携テキスト!
災害時にすばやく対応できる知識を持つことは,自分や患者を守ることに繋がる.災害サイクル別の看護,病院防災の仕組みなど,災害看護活動に従事する際の必須知識をまとめた.熊本地震や九州北部豪雨などでの実践や課題も記載し,発展の著しい災害看護の最新動向を網羅した.看護師として自ら行動が起こせる基本的な知識を集成した書籍.
- 序文
- 目次
- 書評
序文
─この本を読んでいただく看護学生,看護職の皆さんへ─
歴史的にみても人間は数多くの災害を経験しており,私たちの生活は災害に大きな影響を受けています.現在もなお,さまざまな自然災害(地震,豪雨,津波など)や人為災害(飛行機墜落事故,列車事故など)が起こり,またテロや紛争でも多数の負傷者が発生しています.このような時代に,看護職にとって災害看護は重要なテーマであり,傷ついた人々へ何ができるのかが各人に問われています.災害看護活動は,いのちが危ぶまれる急性期の災害現場から始まり,地域社会の復興を目指す中長期の支援活動,そして災害の被害を最小限に抑えるための減災活動も含まれます.時期によって求められる役割も幅広く,まさに被災者の人生に寄り添った支援活動といえます.
国内では2011年の東日本大震災後も,2016年の熊本地震,2017年の九州北部豪雨災害,2018年の大阪府北部地震,西日本豪雨,北海道胆振東部地震などにより大きな被害が発生し,看護職は医療施設内だけでなく,災害発生時の現場,避難所,自宅避難,応急仮設住宅などにおいて,多数の傷病者や被災者に対する看護ケアに取り組んできました.また国際的には,2013年のフィリピン台風30号(ヨランダ),2015年のネパール大地震,2017年のロヒンギャ難民,2018年のインドネシアのスラウェシ島地震・津波災害などが発生しています.このように頻発する大規模災害に対し,私たち看護職は,「誰の身にも,いつでも起こり得る現象」という意識を心に深く刻むことになりました.そして静穏期の備えの時期には,病院では多数の傷病者を地域から受け入れる初動体制を整えておくこと,地域においては,住民に対して「災害に備える」重要性を喚起し,自己防災,地域防災・減災への意識を動機づけることの重要性を改めて再認識するようになりました.
本書は2007年に第1版,2012年に第2版を刊行し,今回は第3版にあたります.いずれも執筆者は現場の災害看護活動から生み出された学びを学術的にまとめ,災害時に適切な看護ケアを提供するために必要な基本的知識を提供してくださっています.第3版は従来の目次を大きく次の8章に分け,第1章:災害看護の歴史,現状,課題,第2章:災害と災害看護に関する基礎知識,第3章:災害看護活動につながる基本的な知識,第4章:災害サイクル別の看護活動,第5章:災害サイクルに共通した実践的な知識,第6章:被災者と支援者に対する「こころのケア」,第7章:災害看護の発展に向けて(教育,理論,研究),第8章:近年の注目すべき災害,から構成しています.特に第8章は,東日本大震災,熊本地震,九州北部豪雨の各被害状況,健康被害,災害関連死,看護活動と支援の実際から構成し,各災害の特徴を捉えるのに役立ち,また具体的な活動からの学びを可能にしました.そして各章の冒頭に概要と学習のねらいを記載し,内容がイメージしやすいように工夫しています.また,これまでと同様に,巻頭に災害の発生状況,医療活動・看護ケア,実際の災害の記録を写真で示しています.
本書が災害看護を学ぶ看護学生や看護職の皆さんにとって,基礎的知識の取得にお役に立てれば幸いです.
2019年2月
著者を代表して 小原真理子
歴史的にみても人間は数多くの災害を経験しており,私たちの生活は災害に大きな影響を受けています.現在もなお,さまざまな自然災害(地震,豪雨,津波など)や人為災害(飛行機墜落事故,列車事故など)が起こり,またテロや紛争でも多数の負傷者が発生しています.このような時代に,看護職にとって災害看護は重要なテーマであり,傷ついた人々へ何ができるのかが各人に問われています.災害看護活動は,いのちが危ぶまれる急性期の災害現場から始まり,地域社会の復興を目指す中長期の支援活動,そして災害の被害を最小限に抑えるための減災活動も含まれます.時期によって求められる役割も幅広く,まさに被災者の人生に寄り添った支援活動といえます.
国内では2011年の東日本大震災後も,2016年の熊本地震,2017年の九州北部豪雨災害,2018年の大阪府北部地震,西日本豪雨,北海道胆振東部地震などにより大きな被害が発生し,看護職は医療施設内だけでなく,災害発生時の現場,避難所,自宅避難,応急仮設住宅などにおいて,多数の傷病者や被災者に対する看護ケアに取り組んできました.また国際的には,2013年のフィリピン台風30号(ヨランダ),2015年のネパール大地震,2017年のロヒンギャ難民,2018年のインドネシアのスラウェシ島地震・津波災害などが発生しています.このように頻発する大規模災害に対し,私たち看護職は,「誰の身にも,いつでも起こり得る現象」という意識を心に深く刻むことになりました.そして静穏期の備えの時期には,病院では多数の傷病者を地域から受け入れる初動体制を整えておくこと,地域においては,住民に対して「災害に備える」重要性を喚起し,自己防災,地域防災・減災への意識を動機づけることの重要性を改めて再認識するようになりました.
本書は2007年に第1版,2012年に第2版を刊行し,今回は第3版にあたります.いずれも執筆者は現場の災害看護活動から生み出された学びを学術的にまとめ,災害時に適切な看護ケアを提供するために必要な基本的知識を提供してくださっています.第3版は従来の目次を大きく次の8章に分け,第1章:災害看護の歴史,現状,課題,第2章:災害と災害看護に関する基礎知識,第3章:災害看護活動につながる基本的な知識,第4章:災害サイクル別の看護活動,第5章:災害サイクルに共通した実践的な知識,第6章:被災者と支援者に対する「こころのケア」,第7章:災害看護の発展に向けて(教育,理論,研究),第8章:近年の注目すべき災害,から構成しています.特に第8章は,東日本大震災,熊本地震,九州北部豪雨の各被害状況,健康被害,災害関連死,看護活動と支援の実際から構成し,各災害の特徴を捉えるのに役立ち,また具体的な活動からの学びを可能にしました.そして各章の冒頭に概要と学習のねらいを記載し,内容がイメージしやすいように工夫しています.また,これまでと同様に,巻頭に災害の発生状況,医療活動・看護ケア,実際の災害の記録を写真で示しています.
本書が災害看護を学ぶ看護学生や看護職の皆さんにとって,基礎的知識の取得にお役に立てれば幸いです.
2019年2月
著者を代表して 小原真理子
目次
第1章 災害看護の歴史,現状,課題
A 災害の歴史に学ぶ災害看護
1.日本における災害対策と医療の歴史
a)戦前における日本の災害対策
b)戦後における災害医療の基盤づくり
c)阪神・淡路大震災以降における災害医療と看護の発展
2.災害で活躍した看護職
a)1888(明治21)年の磐梯山噴火と1890(明治23)年のトルコ軍艦遭難事件
b)1891(明治24)年の濃尾地震と1896(明治29)年の明治三陸大海嘯
c)1923(大正12)年の関東大震災
d)1959(昭和34)年の伊勢湾台風と1985(昭和60)年の御巣鷹山日航機墜落事故
e)1995(平成7)年の阪神・淡路大震災,地下鉄サリン事件
f)2011(平成23)年の東日本大震災
g)2016(平成28)年の熊本地震
B 日本および世界における災害と救援活動
1. 日本の災害・防災対策・救護活動
a)日本の災害
b)日本の防災対策
c)日本の災害救護活動の現状と課題
2.世界の災害・防災対策・災害救援
a)世界の災害
b)国際的な視点からみた防災対策
c)国際救援活動の現状とあり方
C 災害看護の発展と今後の課題
1.災害救援の国際的組織と活動
a)世界における救護団体の設立
b)赤十字の組織
c)NGO
2. 看護専門職と災害看護
a)期待される災害看護
b)災害時における看護専門職の組織活動の経緯
第2章 災害と災害看護に関する基礎知識
A 災害の定義,災害の種類と疾病構造,災害医療
1.災害の定義
2.災害の種類と災害サイクル
a)災害の種類
b)都市型災害と地方型災害
c)災害サイクルと時期
3.災害の種類別の疾病構造
a)自然災害
b)人為災害
c)産業事故/CBRNE災害
d)放射線事故
4.災害時の外傷
a)災害時の外傷の種類
b)汚染創傷への対応
c)クラッシュシンドローム(圧挫症候群)
5.災害関連死の実態とその対策
a)災害関連死とは
b)災害関連死の特徴と発生場所
c)災害関連死の発生機序
d)防ぎ得た災害死
e)災害関連死を減らすための取り組み(注意点)
6.感染症と対策
a)災害時にリスクの高い感染症とその対策
b)流行の早期発見
c)集団災害時の感染予防法の啓発
7.災害医療
a)わが国での災害医療体制の整備
b)災害医療と救急医療の違い
c)災害時の速やかな医療体制の確立
d)局地型災害と大規模広域災害の医療対応の違い
8.トリアージ
a)トリアージの目的
b)トリアージの考え方
c)トリアージの実施者
d)トリアージの区分(カテゴリー)
e)トリアージの実施場所
f)トリアージの手法
g)予後絶対不良傷病者に対するトリアージの優先順位
h)トリアージタグの構造
i)トリアージタグの記載の仕方
column トリアージにまつわるケアリング
column 黒タグの記載に関する課題―JR福知山線列車脱線事故の事例から―
B 災害看護とは
1.社会現象にみる災害看護の必要性
2.災害看護の定義
3.災害看護の対象者
4.災害看護の役割
5.災害の時期と活動場所に応じた災害看護の役割とその解釈
a)「救命救急医療と療養環境の整備」の役割
b)「被災者のこころのケア」の役割
c)「避難生活の整備と各機関との連携」の役割
d)「要配慮者の健康および生活の支援」の役割
e)「復興に向けての支援」の役割
f)「病院防災力の備え」の役割
g)「地域防災・減災力の備え」の役割
C 災害サイクル別にみる看護の役割
1.災害サイクル別にみる看護の役割と活動内容
a)災害サイクル
b)急性期の看護活動(発災〜1週間)
c)亜急性期(1週間〜1か月程度)の看護活動
d)慢性期(1か月〜数年)・復興期(〜数年にわたる)の看護活動
e)静穏期の看護活動
2.災害サイクル別にみる医療現場と生活の場の支援内容
D 災害看護活動における倫理と心構え
1.倫理原則
a)善行と無害の原則
b)正義の原則
c)自律の原則
d)誠実の原則
e)忠誠の原則
2.倫理原則の応用場面
a)O病院とその周辺病院の状況
b)ジレンマの具体的な場面
c)倫理原則の間でのジレンマ
d)ジレンマ解決のための行動
e)A看護師の気づき
第3章 災害看護活動につながる基本的な知識
A 専門職者間の連携と協働(インタープロフェッショナル・ワーク)
1.インタープロフェッショナル・ワークとは
2.IPWとチーム医療:類似と相違
3.災害支援活動とIPW
4.災害支援活動におけるIPWの実際
a)多職種チームの構成
b)多職種連携と協働の実際
5.IPWを展開するための能力
B ボランティア活動と協働
a)ボランティアの概念
b)災害時のボランティア活動
c)ボランティアの種類(一般ボランティア,専門職ボランティア)
d)災害ボランティアセンター
e)被災地における看護職のボランティア活動
f)ボランティア活動で留意すること
g)ボランティアの受け入れ(受援)と協働
C 災害情報と人々の避難行動
1.災害情報とは
2.避難に関する情報と避難行動
a)避難行動への影響要素
3.避難行動要支援者に対する避難支援
a)避難行動要支援者とは
b)地区防災計画の一環としての避難行動支援に関する平時の取り組み
c)災害発生時における避難行動要支援者への対応
D 知っておくべき災害関連法規
1.災害関連法規
a)災害対策基本法
b)災害救助法
c)被災者生活再建支援法
2.法律からみるトリアージの問題
3.法律からみる災害現場での応急処置
E 災害と介護保険
a)介護保険の弾力的運用
b)新潟県中越地震における高齢者の緊急入所
c)東日本大震災における高齢者の緊急入所
d)災害における要介護高齢者保護の課題
F 災害とパブリックヘルス
1. パブリックヘルスとは
2. 減災としてのパブリックヘルス
3. パブリックヘルスにおける減災ケアの視点
a)減災ケアに必要な「減災リテラシー」
b)プライマリ・ヘルスケア
c)安心・安全なコミュニティのための「ソーシャルキャピタル」
G 健康・生活調査の意義と目的
1.健康・生活調査の意義
2.健康・生活調査の実際
3.健康・生活調査の活用方法
4.長期フォローアップの視点
第4章 災害サイクル別の看護活動
A 急性期の看護
1.被災地病院の災害発生時における看護の役割
a)患者および職員の安全確保,情報収集
b)避難・誘導
c)救急外来など,多数傷病者の受け入れの初期対応
d)トリアージ・各エリアの対応
e)災害対策本部
f)職員参集
g)院外機関,マスメディアなど
h)災害対策本部の解散の判断
2.避難所における看護の役割
a)避難所
b)福祉避難所
c)要配慮者トリアージを活用した居住場所の配置
column 災害時のトイレにかかわる法律
3.巡回診療における看護の役割
4.現場救護所における看護の役割
a)情報収集
b)救護班の編成
c)救護所の開設
d)応急処置
column 日本赤十字社の災害派遣医療チーム(DMAT)
B 中長期の看護
1.災害復興と看護
a)復興とは
b)被災者の考える生活再建
c)復興期における看護の役割
2.応急仮設住宅・在宅における生活者への支援
a)在宅避難
b)応急仮設住宅
c)災害公営住宅
C 静穏期における災害看護の取り組み
1.防災・減災の考え方と災害看護からみる活動現場
a)防災計画の位置づけと階層
b)防災の基本3体制のめざすもの
2.災害に備えた病院防災
a)病院防災の考え方
b)業務継続計画(BCP)の考え方に基づいた災害対策とマニュアル整備
c)マニュアルの活かし方
3.地域防災
a)地域防災のために災害看護が取り組む視点
b)学校防災における3つの視点
4.自分および家族を災害から守るための備え
a)自宅の備え
b)安否の確認
c)安全な避難行動
d)近隣との協力
column 看護と連携する地域防災活動
第5章 災害サイクルに共通した実践的な知識
A 要配慮者への看護
1.高齢者,障害者,乳幼児,妊産婦,外国人
a)高齢者
b)障害者
①身体障害者
②知的障害者・発達障害者
③精神障害者(在宅療養中)
c)乳幼児(子ども)
d)妊産婦
e)外国人
2.その他の特に配慮を要する者
a)在宅酸素療法と在宅人工呼吸療法中の患者
b)糖尿病患者
c)透析患者
d)ストーマ保有者(消化管系ストーマ,尿路系ストーマを造設している患者)
e)褥瘡が発生している患者
f)認知症患者
B 災害時の保健活動(保健師の災害時保健活動)
1.災害時の保健活動の内容
a)発災後の被災地における保健師の役割
b)時期別の支援内容
c)鳥取県中部地震における保健師活動
2.多職種連携・協働について
C 避難所のアセスメント
a)避難所ラピッドアセスメントシート
b)避難所アセスメント体制
c)誰が避難所に赴きアセスメントを実施するべきか
D 連携について
1.連携とは
2.他職種連携による活動の促進
3.外部支援者による連携のあり方
4.地域の災害医療コーディネーターと看護職の連携
E 国際救援活動と看護
1.急性期の国際救援活動における看護の役割
a)JDR医療チーム活動の概要と看護職の役割
2.中長期の国際救援活動における看護の役割
a)中長期に求められる災害看護の視点
b)今後の課題と提案
column 災害看護における情報通信技術の役割
第6章 被災者と支援者に対する「こころのケア」
A 被災者の心理過程
1.ストレスとは
2.被災ストレスと心的外傷(トラウマ)
a)心的外傷(トラウマ)とトラウマ反応
b)喪失と悲嘆反応
c)生活ストレス
3.時系列からみる被災者心理の変化
4.急性ストレス反応(ASR)と心的外傷後ストレス障害(PTSD)
a)急性ストレス反応(ASR)
b)心的外傷後ストレス障害(PTSD)
B こころのトリアージとこころのケア活動
1.こころのトリアージ分類
2.こころのケア活動の実際
a)活動を開始するにあたって
b)こころのケア活動
3.こころのケア活動における全般的注意事項
C こころの専門家との連携
1.専門家との連携について
a)支援対象・支援ニーズ・支援の担い手(体制)
b)専門家との連携を行う際のポイント
2. 専門家へ紹介・相談する際の注意点
D 遺族ケア
1.悲嘆反応とは
2.災害における遺族の心理
3.DMORT(ディモート)とは
a)日本DMORTの概要
b)DMORTの役割と日本DMORTの活動
4.災害遺族におけるグリーフケアのポイント
a)受容・傾聴・共感
b)死亡時の状況の説明
c)抑圧された悲嘆への配慮
d)相手のニーズを尊重
column 喪失体験のある被災者へのかかわり
E 支援者のストレスとストレスマネジメント
1.支援者の立場と役割
2.支援者のストレスとストレス反応
a)支援者のストレス
b)支援者のストレス反応
3.支援者のストレスマネジメント
column 支援者支援:地域の行政職員へのこころのケア
第7章 災害看護の発展に向けて(教育,理論,研究)
A 災害看護分野の人材育成
1.看護基礎教育における災害看護教育の現状と課題
a)看護基礎教育における災害看護教育の現状
b)社会や暮らしの変化と関連させて学ぶ災害看護の課題
c)災害看護教育方法のあり方
d)授業プログラムの具体例
2.災害看護専門看護師制度の発足と今後の課題
B 災害看護の理論と研究
1.災害看護における看護理論
2.時間論との出会い
3.災害看護学の研究
4.災害看護と活動理論
第8章 近年の注目すべき災害
A 東日本大震災
1.概要
a)発生状況と特徴
b)死者・行方不明者の状況
c)外傷・負傷者などの状況
d)避難所などの状況
2.健康被害
a)津波での疾病構造
b)放射能汚染と被ばく
c)放射能汚染・被ばく時の看護
3.災害関連死
a)特徴
b)発症時期
c)災害関連死を減らす上での留意点
4.被災地における看護活動/支援の実際
column 被災病院①―石巻赤十字病院の災害対応
column 被災病院②―国立釜石病院の災害対応とその後の対策
column 被災地病院の集中治療室(ICU)における初動対応の困難さ
column 日本看護協会の災害支援ナースの活動
column 福祉施設(知的障害者支援施設)への支援
column 津波被害にあった孤立地域での在宅支援
column 支援者の支援のための避難所における視察調査
column 地域で生活する精神障害者の被災体験
column 被ばくにおける心理とこころのケア―子どもへの影響を中心に―
column 原発災害と母子へのこころのケア
column 津波での喪失体験に対するこころのケアについて
column 被災看護師の心理的葛藤
column 復興期における訪問看護ステーションの看護師の思いを聴いて
B 熊本地震
1.概要
a)地震と被害の概要
b)震災の特徴
2.健康被害
a)車中泊によるエコノミークラス症候群
b)熱中症
3.災害関連死
a)特徴
b)発生場所
c)肺塞栓症(エコノミークラス症候群)
4.被災地における看護活動/支援の実際
column 被災地病院の災害対応(初動対応・支援活動)
column DMATから引き継いだ救護班での活動
column 被災地における地元保健師との連携
column 避難所における生活支援
column 避難所での地元行政(役場職員)への支援
column 在宅における生活支援
column 避難所での高齢者(認知症)の服薬支援―救護所薬剤師との連携―
column 被災地域の看護系大学の対応
C 九州北部豪雨
1.概要
a)豪雨災害の発生状況
b)人的被害の発生状況
c)家屋,その他の被害の状況
おわりに
索 引
A 災害の歴史に学ぶ災害看護
1.日本における災害対策と医療の歴史
a)戦前における日本の災害対策
b)戦後における災害医療の基盤づくり
c)阪神・淡路大震災以降における災害医療と看護の発展
2.災害で活躍した看護職
a)1888(明治21)年の磐梯山噴火と1890(明治23)年のトルコ軍艦遭難事件
b)1891(明治24)年の濃尾地震と1896(明治29)年の明治三陸大海嘯
c)1923(大正12)年の関東大震災
d)1959(昭和34)年の伊勢湾台風と1985(昭和60)年の御巣鷹山日航機墜落事故
e)1995(平成7)年の阪神・淡路大震災,地下鉄サリン事件
f)2011(平成23)年の東日本大震災
g)2016(平成28)年の熊本地震
B 日本および世界における災害と救援活動
1. 日本の災害・防災対策・救護活動
a)日本の災害
b)日本の防災対策
c)日本の災害救護活動の現状と課題
2.世界の災害・防災対策・災害救援
a)世界の災害
b)国際的な視点からみた防災対策
c)国際救援活動の現状とあり方
C 災害看護の発展と今後の課題
1.災害救援の国際的組織と活動
a)世界における救護団体の設立
b)赤十字の組織
c)NGO
2. 看護専門職と災害看護
a)期待される災害看護
b)災害時における看護専門職の組織活動の経緯
第2章 災害と災害看護に関する基礎知識
A 災害の定義,災害の種類と疾病構造,災害医療
1.災害の定義
2.災害の種類と災害サイクル
a)災害の種類
b)都市型災害と地方型災害
c)災害サイクルと時期
3.災害の種類別の疾病構造
a)自然災害
b)人為災害
c)産業事故/CBRNE災害
d)放射線事故
4.災害時の外傷
a)災害時の外傷の種類
b)汚染創傷への対応
c)クラッシュシンドローム(圧挫症候群)
5.災害関連死の実態とその対策
a)災害関連死とは
b)災害関連死の特徴と発生場所
c)災害関連死の発生機序
d)防ぎ得た災害死
e)災害関連死を減らすための取り組み(注意点)
6.感染症と対策
a)災害時にリスクの高い感染症とその対策
b)流行の早期発見
c)集団災害時の感染予防法の啓発
7.災害医療
a)わが国での災害医療体制の整備
b)災害医療と救急医療の違い
c)災害時の速やかな医療体制の確立
d)局地型災害と大規模広域災害の医療対応の違い
8.トリアージ
a)トリアージの目的
b)トリアージの考え方
c)トリアージの実施者
d)トリアージの区分(カテゴリー)
e)トリアージの実施場所
f)トリアージの手法
g)予後絶対不良傷病者に対するトリアージの優先順位
h)トリアージタグの構造
i)トリアージタグの記載の仕方
column トリアージにまつわるケアリング
column 黒タグの記載に関する課題―JR福知山線列車脱線事故の事例から―
B 災害看護とは
1.社会現象にみる災害看護の必要性
2.災害看護の定義
3.災害看護の対象者
4.災害看護の役割
5.災害の時期と活動場所に応じた災害看護の役割とその解釈
a)「救命救急医療と療養環境の整備」の役割
b)「被災者のこころのケア」の役割
c)「避難生活の整備と各機関との連携」の役割
d)「要配慮者の健康および生活の支援」の役割
e)「復興に向けての支援」の役割
f)「病院防災力の備え」の役割
g)「地域防災・減災力の備え」の役割
C 災害サイクル別にみる看護の役割
1.災害サイクル別にみる看護の役割と活動内容
a)災害サイクル
b)急性期の看護活動(発災〜1週間)
c)亜急性期(1週間〜1か月程度)の看護活動
d)慢性期(1か月〜数年)・復興期(〜数年にわたる)の看護活動
e)静穏期の看護活動
2.災害サイクル別にみる医療現場と生活の場の支援内容
D 災害看護活動における倫理と心構え
1.倫理原則
a)善行と無害の原則
b)正義の原則
c)自律の原則
d)誠実の原則
e)忠誠の原則
2.倫理原則の応用場面
a)O病院とその周辺病院の状況
b)ジレンマの具体的な場面
c)倫理原則の間でのジレンマ
d)ジレンマ解決のための行動
e)A看護師の気づき
第3章 災害看護活動につながる基本的な知識
A 専門職者間の連携と協働(インタープロフェッショナル・ワーク)
1.インタープロフェッショナル・ワークとは
2.IPWとチーム医療:類似と相違
3.災害支援活動とIPW
4.災害支援活動におけるIPWの実際
a)多職種チームの構成
b)多職種連携と協働の実際
5.IPWを展開するための能力
B ボランティア活動と協働
a)ボランティアの概念
b)災害時のボランティア活動
c)ボランティアの種類(一般ボランティア,専門職ボランティア)
d)災害ボランティアセンター
e)被災地における看護職のボランティア活動
f)ボランティア活動で留意すること
g)ボランティアの受け入れ(受援)と協働
C 災害情報と人々の避難行動
1.災害情報とは
2.避難に関する情報と避難行動
a)避難行動への影響要素
3.避難行動要支援者に対する避難支援
a)避難行動要支援者とは
b)地区防災計画の一環としての避難行動支援に関する平時の取り組み
c)災害発生時における避難行動要支援者への対応
D 知っておくべき災害関連法規
1.災害関連法規
a)災害対策基本法
b)災害救助法
c)被災者生活再建支援法
2.法律からみるトリアージの問題
3.法律からみる災害現場での応急処置
E 災害と介護保険
a)介護保険の弾力的運用
b)新潟県中越地震における高齢者の緊急入所
c)東日本大震災における高齢者の緊急入所
d)災害における要介護高齢者保護の課題
F 災害とパブリックヘルス
1. パブリックヘルスとは
2. 減災としてのパブリックヘルス
3. パブリックヘルスにおける減災ケアの視点
a)減災ケアに必要な「減災リテラシー」
b)プライマリ・ヘルスケア
c)安心・安全なコミュニティのための「ソーシャルキャピタル」
G 健康・生活調査の意義と目的
1.健康・生活調査の意義
2.健康・生活調査の実際
3.健康・生活調査の活用方法
4.長期フォローアップの視点
第4章 災害サイクル別の看護活動
A 急性期の看護
1.被災地病院の災害発生時における看護の役割
a)患者および職員の安全確保,情報収集
b)避難・誘導
c)救急外来など,多数傷病者の受け入れの初期対応
d)トリアージ・各エリアの対応
e)災害対策本部
f)職員参集
g)院外機関,マスメディアなど
h)災害対策本部の解散の判断
2.避難所における看護の役割
a)避難所
b)福祉避難所
c)要配慮者トリアージを活用した居住場所の配置
column 災害時のトイレにかかわる法律
3.巡回診療における看護の役割
4.現場救護所における看護の役割
a)情報収集
b)救護班の編成
c)救護所の開設
d)応急処置
column 日本赤十字社の災害派遣医療チーム(DMAT)
B 中長期の看護
1.災害復興と看護
a)復興とは
b)被災者の考える生活再建
c)復興期における看護の役割
2.応急仮設住宅・在宅における生活者への支援
a)在宅避難
b)応急仮設住宅
c)災害公営住宅
C 静穏期における災害看護の取り組み
1.防災・減災の考え方と災害看護からみる活動現場
a)防災計画の位置づけと階層
b)防災の基本3体制のめざすもの
2.災害に備えた病院防災
a)病院防災の考え方
b)業務継続計画(BCP)の考え方に基づいた災害対策とマニュアル整備
c)マニュアルの活かし方
3.地域防災
a)地域防災のために災害看護が取り組む視点
b)学校防災における3つの視点
4.自分および家族を災害から守るための備え
a)自宅の備え
b)安否の確認
c)安全な避難行動
d)近隣との協力
column 看護と連携する地域防災活動
第5章 災害サイクルに共通した実践的な知識
A 要配慮者への看護
1.高齢者,障害者,乳幼児,妊産婦,外国人
a)高齢者
b)障害者
①身体障害者
②知的障害者・発達障害者
③精神障害者(在宅療養中)
c)乳幼児(子ども)
d)妊産婦
e)外国人
2.その他の特に配慮を要する者
a)在宅酸素療法と在宅人工呼吸療法中の患者
b)糖尿病患者
c)透析患者
d)ストーマ保有者(消化管系ストーマ,尿路系ストーマを造設している患者)
e)褥瘡が発生している患者
f)認知症患者
B 災害時の保健活動(保健師の災害時保健活動)
1.災害時の保健活動の内容
a)発災後の被災地における保健師の役割
b)時期別の支援内容
c)鳥取県中部地震における保健師活動
2.多職種連携・協働について
C 避難所のアセスメント
a)避難所ラピッドアセスメントシート
b)避難所アセスメント体制
c)誰が避難所に赴きアセスメントを実施するべきか
D 連携について
1.連携とは
2.他職種連携による活動の促進
3.外部支援者による連携のあり方
4.地域の災害医療コーディネーターと看護職の連携
E 国際救援活動と看護
1.急性期の国際救援活動における看護の役割
a)JDR医療チーム活動の概要と看護職の役割
2.中長期の国際救援活動における看護の役割
a)中長期に求められる災害看護の視点
b)今後の課題と提案
column 災害看護における情報通信技術の役割
第6章 被災者と支援者に対する「こころのケア」
A 被災者の心理過程
1.ストレスとは
2.被災ストレスと心的外傷(トラウマ)
a)心的外傷(トラウマ)とトラウマ反応
b)喪失と悲嘆反応
c)生活ストレス
3.時系列からみる被災者心理の変化
4.急性ストレス反応(ASR)と心的外傷後ストレス障害(PTSD)
a)急性ストレス反応(ASR)
b)心的外傷後ストレス障害(PTSD)
B こころのトリアージとこころのケア活動
1.こころのトリアージ分類
2.こころのケア活動の実際
a)活動を開始するにあたって
b)こころのケア活動
3.こころのケア活動における全般的注意事項
C こころの専門家との連携
1.専門家との連携について
a)支援対象・支援ニーズ・支援の担い手(体制)
b)専門家との連携を行う際のポイント
2. 専門家へ紹介・相談する際の注意点
D 遺族ケア
1.悲嘆反応とは
2.災害における遺族の心理
3.DMORT(ディモート)とは
a)日本DMORTの概要
b)DMORTの役割と日本DMORTの活動
4.災害遺族におけるグリーフケアのポイント
a)受容・傾聴・共感
b)死亡時の状況の説明
c)抑圧された悲嘆への配慮
d)相手のニーズを尊重
column 喪失体験のある被災者へのかかわり
E 支援者のストレスとストレスマネジメント
1.支援者の立場と役割
2.支援者のストレスとストレス反応
a)支援者のストレス
b)支援者のストレス反応
3.支援者のストレスマネジメント
column 支援者支援:地域の行政職員へのこころのケア
第7章 災害看護の発展に向けて(教育,理論,研究)
A 災害看護分野の人材育成
1.看護基礎教育における災害看護教育の現状と課題
a)看護基礎教育における災害看護教育の現状
b)社会や暮らしの変化と関連させて学ぶ災害看護の課題
c)災害看護教育方法のあり方
d)授業プログラムの具体例
2.災害看護専門看護師制度の発足と今後の課題
B 災害看護の理論と研究
1.災害看護における看護理論
2.時間論との出会い
3.災害看護学の研究
4.災害看護と活動理論
第8章 近年の注目すべき災害
A 東日本大震災
1.概要
a)発生状況と特徴
b)死者・行方不明者の状況
c)外傷・負傷者などの状況
d)避難所などの状況
2.健康被害
a)津波での疾病構造
b)放射能汚染と被ばく
c)放射能汚染・被ばく時の看護
3.災害関連死
a)特徴
b)発症時期
c)災害関連死を減らす上での留意点
4.被災地における看護活動/支援の実際
column 被災病院①―石巻赤十字病院の災害対応
column 被災病院②―国立釜石病院の災害対応とその後の対策
column 被災地病院の集中治療室(ICU)における初動対応の困難さ
column 日本看護協会の災害支援ナースの活動
column 福祉施設(知的障害者支援施設)への支援
column 津波被害にあった孤立地域での在宅支援
column 支援者の支援のための避難所における視察調査
column 地域で生活する精神障害者の被災体験
column 被ばくにおける心理とこころのケア―子どもへの影響を中心に―
column 原発災害と母子へのこころのケア
column 津波での喪失体験に対するこころのケアについて
column 被災看護師の心理的葛藤
column 復興期における訪問看護ステーションの看護師の思いを聴いて
B 熊本地震
1.概要
a)地震と被害の概要
b)震災の特徴
2.健康被害
a)車中泊によるエコノミークラス症候群
b)熱中症
3.災害関連死
a)特徴
b)発生場所
c)肺塞栓症(エコノミークラス症候群)
4.被災地における看護活動/支援の実際
column 被災地病院の災害対応(初動対応・支援活動)
column DMATから引き継いだ救護班での活動
column 被災地における地元保健師との連携
column 避難所における生活支援
column 避難所での地元行政(役場職員)への支援
column 在宅における生活支援
column 避難所での高齢者(認知症)の服薬支援―救護所薬剤師との連携―
column 被災地域の看護系大学の対応
C 九州北部豪雨
1.概要
a)豪雨災害の発生状況
b)人的被害の発生状況
c)家屋,その他の被害の状況
おわりに
索 引
書評
令和の時代につなぐ災害看護の智恵
津波古澄子 氏(清泉女学院大学看護学部 学部長)
2019年5月1日,日本は新しい元号「令和」の時代が幕開けした.平成の時代から令和の時代につなぐ智恵とは何であろうか.令和元年の市井の人々の声は,マスコミのインタビューに対して,「災害が少ない平和な年であること」を異口同音で語っている.確かに,1991年(平成3)の雲仙・普賢岳噴火から始まり,幾度も様々な地の避難所で膝をつき,避難住民に語る平成の天皇,皇后のお姿が印象深く残っている.
国内外の災害の時代において,「どうすればかけがえのない1人1人の命が救えるのかを考える」を中心に据えて書かれたのが,本書『災害看護 心得ておきたい基本的な知識』である.本書は,看護学生や看護職のみならず,小・中・高の教員,看護系大学の教員ならびに災害に関心のある人々に,是非,手元において欲しい一冊である.
巻頭の口絵「世界・日本で多発する災害」は,本書の前提でもある「昨今の災害の巨大化・広域化・甚大化・複雑化」が一目瞭然である.2011年に発生した東日本大震災は,地震の被害と共に大津波,また“想定外”で国内外を震撼させた原子力発電所の難にも直面し,多くの教訓と課題を残した.本書は,変化する災害状況と被災者の方々の長期にわたる暮らしの支援について,災害看護活動の根底にある「災害サイクル」を軸に災害看護とは何かを問いつつ示している.とりわけ,被災地における看護活動と支援の実際を,「column」という形でいくつもいくつも丁寧に紹介している.本書は複雑な災害の状況をわかりやすく説明し,重要なことに赤字のアンダーラインを引くなどの工夫をもってポイントを明示する.例えば,九州豪雨災害の発生事実・状況の記述に加え,「空振り覚悟の早めの自主避難」(P.292)など必要な行動や具体的ヒントがいくつも出てくるなど,現場や現象から生まれた智恵が凝縮されている.読者はその中から,いかなる状況や環境変化においても柔軟に“つなぐ智恵”と支援のヒントを見出すことができるであろう.
第7章「災害看護の発展に向けて(教育, 理論, 研究)」では「災害看護を探究する姿勢を持ち続ける」ために看護基礎教育および大学院教育の重要性を述べており,筆者も同感である.筆者の所属する看護学部は山々に囲まれ,雪害,水害,過疎地が多いなどの地域特性から災害が往々に予測されるところにある.それらの地域特性を踏まえて,看護学科の通常の7領域に加えて,「災害看護学」の領域を加えた8領域でカリキュラムを組んでいる.災害看護学は他の領域すべてに反映されるため,全学生が基本的な知識を学修する必要があると考えており,本書を読んでさらに確信を得た.さらに,災害におけるヘルスケア・インフラストラクチャーであるケア組織,ケア経済,ヘルスポリシー,関連法律が重要であるが,それらを多角的に捉えるためにも大学院教育の取り組みが必要である.災害看護の理論構築も急がれ,人間を取り巻く環境の変化に対するレジリエンス,適応能力,人と環境の相互作用の中での「生きがい」をみつけるための支援の研究なども,今後の課題として注目したい.
津波古澄子 氏(清泉女学院大学看護学部 学部長)
2019年5月1日,日本は新しい元号「令和」の時代が幕開けした.平成の時代から令和の時代につなぐ智恵とは何であろうか.令和元年の市井の人々の声は,マスコミのインタビューに対して,「災害が少ない平和な年であること」を異口同音で語っている.確かに,1991年(平成3)の雲仙・普賢岳噴火から始まり,幾度も様々な地の避難所で膝をつき,避難住民に語る平成の天皇,皇后のお姿が印象深く残っている.
国内外の災害の時代において,「どうすればかけがえのない1人1人の命が救えるのかを考える」を中心に据えて書かれたのが,本書『災害看護 心得ておきたい基本的な知識』である.本書は,看護学生や看護職のみならず,小・中・高の教員,看護系大学の教員ならびに災害に関心のある人々に,是非,手元において欲しい一冊である.
巻頭の口絵「世界・日本で多発する災害」は,本書の前提でもある「昨今の災害の巨大化・広域化・甚大化・複雑化」が一目瞭然である.2011年に発生した東日本大震災は,地震の被害と共に大津波,また“想定外”で国内外を震撼させた原子力発電所の難にも直面し,多くの教訓と課題を残した.本書は,変化する災害状況と被災者の方々の長期にわたる暮らしの支援について,災害看護活動の根底にある「災害サイクル」を軸に災害看護とは何かを問いつつ示している.とりわけ,被災地における看護活動と支援の実際を,「column」という形でいくつもいくつも丁寧に紹介している.本書は複雑な災害の状況をわかりやすく説明し,重要なことに赤字のアンダーラインを引くなどの工夫をもってポイントを明示する.例えば,九州豪雨災害の発生事実・状況の記述に加え,「空振り覚悟の早めの自主避難」(P.292)など必要な行動や具体的ヒントがいくつも出てくるなど,現場や現象から生まれた智恵が凝縮されている.読者はその中から,いかなる状況や環境変化においても柔軟に“つなぐ智恵”と支援のヒントを見出すことができるであろう.
第7章「災害看護の発展に向けて(教育, 理論, 研究)」では「災害看護を探究する姿勢を持ち続ける」ために看護基礎教育および大学院教育の重要性を述べており,筆者も同感である.筆者の所属する看護学部は山々に囲まれ,雪害,水害,過疎地が多いなどの地域特性から災害が往々に予測されるところにある.それらの地域特性を踏まえて,看護学科の通常の7領域に加えて,「災害看護学」の領域を加えた8領域でカリキュラムを組んでいる.災害看護学は他の領域すべてに反映されるため,全学生が基本的な知識を学修する必要があると考えており,本書を読んでさらに確信を得た.さらに,災害におけるヘルスケア・インフラストラクチャーであるケア組織,ケア経済,ヘルスポリシー,関連法律が重要であるが,それらを多角的に捉えるためにも大学院教育の取り組みが必要である.災害看護の理論構築も急がれ,人間を取り巻く環境の変化に対するレジリエンス,適応能力,人と環境の相互作用の中での「生きがい」をみつけるための支援の研究なども,今後の課題として注目したい.