カテゴリー: 地域医療
ケースで学ぶ 認知症ケアの倫理と法
1版
静岡大学大学院 人文社会科学研究科 特任教授・名誉教授
松田 純 編集
静岡大学大学院 人文社会科学部 准教授 堂囿俊彦 編集
常葉大学 健康科学部 准教授 青田安史 編集
静岡県立大学 短期大学部 助教 天野ゆかり 編集
中央大学大学院 法務研究科 教授 宮下修一 編集
定価
2,200円(本体 2,000円 +税10%)
- B5判 159頁
- 2017年3月 発行
- ISBN 978-4-525-50611-7
本書は,在宅医療と介護の現場で発生している認知症に関するさまざまな倫理的・法的な問題を取り上げ,ケーススタディの形で考察する.患者やその家族への対応,多職種との連携や在宅医療における留意点の解説といったノウハウにとどまらず,倫理的・法的な根拠に基づいた,困ったときの“考え方”を提案する書籍となっている.
- 序文
- 目次
序文
2025年には,認知症の人が700万人あるいは800万人になると予想され,大きな社会的課題になっています.しかしこうした課題の困難さは,単に認知症の人の数だけにあるのではありません.一つの難しさは,今後,認知症の人に限らず,病気の人の多くが,病院ではなく在宅(自宅やホームなど)でケアを受けることにあります.それゆえ本書の姉妹編である『こんなときどうする?在宅医療と介護―ケースで学ぶ倫理と法』(南山堂)では,これまでの生命倫理や医療倫理が十分に検討してこなかった,在宅という生活空間での倫理や法の問題が検討されました.そこで中心を占めていたのは,「自分の城」である在宅でこそ示される当事者の意向を,いかにして尊重するのかという問いでした.
しかし,在宅でケアを受ける人が認知症である場合,その意向をどのように受け取ればよいのでしょうか.ケアに携わる家族や専門職は,しばしばこの問いに直面します.在宅だからこそ大切にでき,ケアの中心に置かれるべき「その人の意向」が,不確かなものになっていく̶̶これが,ほかの疾患と比較して,認知症ケアをとりわけ困難にし,認知症の人のケアを社会的課題にしている二つ目の理由なのです.
本書では,人と人の関係を根底で支える倫理と法という視点を大切にしました.ケアに携わる人たちは,日々さまざまな工夫をし,そうしたノウハウはウェブサイトで広く共有されています.たしかにそうしたノウハウによって,問題が解決することもあるでしょう.しかしひょっとしたら,倫理や法の問題に気づかないままに,解決したと思い込んではいないでしょうか.「問題になっていない」ということは,「本当に問題がない」ということとは異なるのです.
もちろん,倫理や法が大切だといっても,机上の空論であっては意味がありません.それゆえ本書の執筆者も,前回と同様,倫理学や法学の研究者にとどまらず,実際に認知症の人に現場でかかわる医師,看護師,薬剤師,社会福祉士,ケアマネジャー,介護福祉士,精神保健福祉士,理学療法士,管理栄養士,臨床心理士など,多職種にわたっています.私たちは,この3年間,何度も集まって,それぞれが直面する問題を自らの知識や経験も踏まえてさまざまな観点から検討を重ねてきました.
本書が,認知症の人にどのように接すればよいか悩んでいる,また,これからそうした悩みに接する可能性がある方々に,さまざまな観点から問題を「考える」ことの意義を示すものとなるよう願っています.
2017年3月
編者一同
しかし,在宅でケアを受ける人が認知症である場合,その意向をどのように受け取ればよいのでしょうか.ケアに携わる家族や専門職は,しばしばこの問いに直面します.在宅だからこそ大切にでき,ケアの中心に置かれるべき「その人の意向」が,不確かなものになっていく̶̶これが,ほかの疾患と比較して,認知症ケアをとりわけ困難にし,認知症の人のケアを社会的課題にしている二つ目の理由なのです.
本書では,人と人の関係を根底で支える倫理と法という視点を大切にしました.ケアに携わる人たちは,日々さまざまな工夫をし,そうしたノウハウはウェブサイトで広く共有されています.たしかにそうしたノウハウによって,問題が解決することもあるでしょう.しかしひょっとしたら,倫理や法の問題に気づかないままに,解決したと思い込んではいないでしょうか.「問題になっていない」ということは,「本当に問題がない」ということとは異なるのです.
もちろん,倫理や法が大切だといっても,机上の空論であっては意味がありません.それゆえ本書の執筆者も,前回と同様,倫理学や法学の研究者にとどまらず,実際に認知症の人に現場でかかわる医師,看護師,薬剤師,社会福祉士,ケアマネジャー,介護福祉士,精神保健福祉士,理学療法士,管理栄養士,臨床心理士など,多職種にわたっています.私たちは,この3年間,何度も集まって,それぞれが直面する問題を自らの知識や経験も踏まえてさまざまな観点から検討を重ねてきました.
本書が,認知症の人にどのように接すればよいか悩んでいる,また,これからそうした悩みに接する可能性がある方々に,さまざまな観点から問題を「考える」ことの意義を示すものとなるよう願っています.
2017年3月
編者一同
目次
序論
1. 認知症の医学
2. 認知症ケアの倫理と法
ケーススタディ
Case1 認知症の症状が現れている高齢者が主治医に「大丈夫だ」と言われたとき
Case2 若年性認知症と診断された夫への告知に悩む妻
Case3 相談者にMCI(軽度認知障害)の疑いがあるとき
Case4 自宅介護か施設介護か,家族間で療養場所の希望が異なるとき
Case5 介護されている母親のあざを見つけたとき
Case6 認知症高齢者にGPS端末をつけるように言われたとき
Case7 母親の退院先をめぐって精神障がい者の娘と意見が対立したとき
Case8 高齢者住宅での不適切なサービスの提供に気づいたとき
Case9 ショートステイ中に男性の入所者に添い寝する女性
Case10 介護老人保健施設でリハビリテーションが実施できないとき
Case11 施設長が夜中に動きまわる入居者に鎮静薬を処方するようせまったとき
Case12 頭痛薬連用を避けるために薬局に販売自粛を依頼するとき
Case13 入院中の認知症高齢者の食事が進まないとき
Case14 事前指示で何もしない方針の認知症患者が治療を望んだとき
Case15 自動車運転をやめようとしない認知症高齢者について相談されたとき
Case16 認知症高齢者が違法行為(万引き)をくり返すとき
Case17 認知症高齢者の家族による財産の使い込みに気づいたとき
Case18 看護学生が実習の様子をSNSに書き込みをしたとき
Case19 介護実習施設から利用者の個人情報の開示を制限されたとき
コラム
・認知症カフェとは何か
・認知症高齢者の社会参画
・声の倫理性―認知症の人とのよりよいコミュニケーションのために
・認知症高齢者の徘徊による事故と家族の責任
・認知症高齢者の徘徊による事故と施設の責任
・認知症ケアと精神医療
・サービス付高齢者向け住宅
・やさしい気遣いもほどほどに
・事前指示
・認知症の人が最期のお別れを告げるとき
・認知症高齢者の自動車運転に対する法的措置
・認知症高齢者の情報を共有(取得)するために
・成年後見利用促進法・成年後見事務円滑化法の制定
・プライバシー・守秘義務・個人情報保護法制
1. 認知症の医学
2. 認知症ケアの倫理と法
ケーススタディ
Case1 認知症の症状が現れている高齢者が主治医に「大丈夫だ」と言われたとき
Case2 若年性認知症と診断された夫への告知に悩む妻
Case3 相談者にMCI(軽度認知障害)の疑いがあるとき
Case4 自宅介護か施設介護か,家族間で療養場所の希望が異なるとき
Case5 介護されている母親のあざを見つけたとき
Case6 認知症高齢者にGPS端末をつけるように言われたとき
Case7 母親の退院先をめぐって精神障がい者の娘と意見が対立したとき
Case8 高齢者住宅での不適切なサービスの提供に気づいたとき
Case9 ショートステイ中に男性の入所者に添い寝する女性
Case10 介護老人保健施設でリハビリテーションが実施できないとき
Case11 施設長が夜中に動きまわる入居者に鎮静薬を処方するようせまったとき
Case12 頭痛薬連用を避けるために薬局に販売自粛を依頼するとき
Case13 入院中の認知症高齢者の食事が進まないとき
Case14 事前指示で何もしない方針の認知症患者が治療を望んだとき
Case15 自動車運転をやめようとしない認知症高齢者について相談されたとき
Case16 認知症高齢者が違法行為(万引き)をくり返すとき
Case17 認知症高齢者の家族による財産の使い込みに気づいたとき
Case18 看護学生が実習の様子をSNSに書き込みをしたとき
Case19 介護実習施設から利用者の個人情報の開示を制限されたとき
コラム
・認知症カフェとは何か
・認知症高齢者の社会参画
・声の倫理性―認知症の人とのよりよいコミュニケーションのために
・認知症高齢者の徘徊による事故と家族の責任
・認知症高齢者の徘徊による事故と施設の責任
・認知症ケアと精神医療
・サービス付高齢者向け住宅
・やさしい気遣いもほどほどに
・事前指示
・認知症の人が最期のお別れを告げるとき
・認知症高齢者の自動車運転に対する法的措置
・認知症高齢者の情報を共有(取得)するために
・成年後見利用促進法・成年後見事務円滑化法の制定
・プライバシー・守秘義務・個人情報保護法制