南山堂

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カテゴリー: 基礎薬学  |  臨床薬学

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薬剤師のモラルディレンマ

1版

静岡大学人文学部 教授 松田 純 編集
スギメディカル株式会社教育事業部 主任研究員 川村和美 編集
東北薬科大学薬学部 教授 渡辺義嗣 編集

定価

3,300(本体 3,000円 +税10%)


  • B5判  220頁
  • 2010年2月 発行
  • ISBN 978-4-525-70161-1

複雑な社会状況,医療構造改革による環境の激変の中で,倫理的・法的・社会的な諸問題を的確に理解し,多角的視点から分析して,倫理的にも政策的にも最善の選択をなしうる判断力を養う倫理教育,モラルトレーニングが薬剤師に求められている.本書は薬剤師が出遭うモラルディレンマを具体的に取り上げ倫理的な判断を鍛えていく教科書である.

  • 序文
  • 目次
序文
 医療環境の急激な変化とともに薬剤師の役割が大きく変わってきている.居宅や病院で最期の療養を続ける患者に対して,医療職として重要な支えとなり,難しい倫理的葛藤に巻き込まれることも増えてきた.また,今後セルフメディケーションがますます広がると,「患者が最初に出会う健康アドバイザーは薬剤師」という状況が予想される.薬に関する対人援助の専門職として,薬剤師の役割はますます大きくなる.これから薬剤師をめざす人たちは,薬剤師を取り囲む環境の大きな変化を見据え,人命に直結する薬を扱う専門職として高い見識と技能を身につける志をもたなければならない.すでに現場で活躍しておられる薬剤師のみなさんは,日進月歩の医療・薬学の新情報を中心に日々生涯研鑽に励んでおられるであろう.人々の健康を預かる医療職として,薬剤や薬事行政に関する新しい知識を学ぶことは薬剤師倫理規定にも薬剤師法にも定められた義務である.
 しかし,それだけではなく,今日,対人援助のさまざまな状況のなかで発生する倫理問題を「倫理問題」として受けとめ,適切に対処していける力量も問われている.薬剤師は生涯かけて<薬剤師としての倫理>を学んでいかなければならない.6年制に移行した薬学部でも,倫理教育への取り組みが始まっている.本書は,すでに現場で活躍中の薬剤師の生涯研鑽のためのテキストであるとともに,薬学生が倫理を学ぶための教科書でもある.
 日本薬学会の「薬学教育モデル・コアカリキュラム」(2002年.以下,コアカリ)は冒頭に「A ヒューマニズムについて学ぶ」を掲げ,倫理教育の方向性を示している.本書はコアカリに準拠し,Aの項目をすべて網羅しつつ,コアカリ作成時から10年近く経過したいま,近年の新しい動向をもふまえ,新たに必要と思われる項目を自主的に組み込んでいる.また「ヒューマニズム」(人間愛)からはもれる環境倫理,動物倫理も薬剤師には重要な課題と考え,盛り込んだ.
 コアカリは「ヒューマニズム」(人間愛)を薬剤師の倫理観の根底に据えようとしている.たしかに,ひとの痛みに共感できなければ,対人援助はできないだろう.共感能力を高めることは倫理教育の前提になる.しかし,薬剤師が現場で出会うケースには,患者に共感して行動するだけでは危ない場合がしばしばある.例えば,終末期にある患者が抗生剤の服薬を拒否して「早く死にたい」と言っているとき,薬剤師はこの患者の思いに深く共感して服薬拒否を容認するということで良いだろうか? それとも指示通りの服薬(コンプライアンス)を実行させることだけが薬剤師の使命であろうか? ここにはさまざまな価値の葛藤があり,モラルディレンマが発生している.こうした事態に直面したときは,人間愛に基づく共感や直感からストレートに行動を導くことはできない.患者が本当に望んでいることは何かを見極めながら,現状のなかでとりうる最善の道を模索する作業を必要とする.「倫理問題」を意識しなければならないときには,たいていこうしたモラルディレンマが発生している.このような場面を想定して倫理的思考力を鍛えることが倫理教育には必要である.本書を『薬剤師のモラルディレンマ』と銘打ったゆえんである.
 現場で発生する問題は,ケースによって多種多彩である.マニュアル的に答えのみを求める姿勢では,新しいケースに出会うたびに思考停止に陥ってしまう.「こうゆう場合には,なぜこうしなければならないのか」「なぜこうしてはならないのか」,その理由を考え抜くことが,倫理的な思考力を鍛え,実際のケースにぶつかったとき,患者や同僚などと対話を重ねながら,自分の頭で考えて,判断できる力を養うことになる.
 第部では,薬をめぐる倫理と法を概観し,第部Case Study 編では,薬剤師が現場で直面するさまざまなモラルディレンマを取り上げたが,本書をどのような順序で読むかは読者の自由である.第部4〜5は連続しているので,続けて読まれることをお薦めするが,他はどこから入って頂いてもよい.理論編が退屈な人は具体的なケースから入ってもかまわない.各ケースには第部の該当箇所が参照できるよう指示してある.教室では,第部を学習しながら,関連するケースを素材にグループディスカッションで「頭の体操」をするのも気分転換になるであろう.担当の先生や読者のみなさんがそれぞれ楽しみながら学習できる独自の方法を編み出して頂ければ,幸いである.
 なお,第部Case Study編は『薬局』(南山堂)Vol.59. No.1- Vol.60. No.7(2008年1月号-2009年6月号)に連載してきたものに基づいている.今回本書に収載するにあたって,連載原稿を全面的に見直し,なかには大幅に補正したケースもあることをお断りしておく.



2009年師走
編者を代表して 松田 純

目次
第I部 薬をめぐる倫理と法を学ぶ

第1章 倫理と道徳とはなにか
1.「倫理」の語義
2.「道徳」の語義
3.ethicsとmoral,倫理と道徳
4.「倫理」と「倫理学」の乖離

第2章 倫理理論
1.功利主義
2.義務論
3.徳倫理
4.必要な倫理原則

第3章 医の倫理
1.「ヒポクラテスの誓い」
2.その後の医療倫理
3.インド,中国,日本の医療倫理
4.さまざまな文化圏に共通する医療倫理

第4章 研究倫理
1.ナチスの医師たちによる非人道的な人体実験とニュルンベルク綱領
2.ヘルシンキ宣言
3.ベルモントレポート

第5章 生命倫理学
1.生命・医療倫理の4原則
2.患者と医療専門職との関係における4つの規則
3.モラルディレンマと倫理的衡量
4.原則主義への批判

第6章 医療の目的
1.健康と病気
2.医療とは
3.QOLとは
4.難病ケア―わが国における取組みの特徴

第7章 現代医療の倫理問題
1.誕生をめぐる倫理問題
2.死をめぐる倫理問題
3.臓器移植
4.遺伝医療
5.再生医療
6.エンハンスメント
7.二つの生命観

第8章 現代倫理学の拡大
1.対人関係を超える倫理
2.環境倫理学
3.動物倫理学

第9章 薬剤師を取り巻く法律と制度
1.「人」に着目した法規
2.「物」に着目した法規
3.人的組織に着目した法規
4.医療提供施設に着目した法規
5.法と道徳

第10章 薬剤師の職業倫理
1.医薬品とは
2.患者とは
3.薬剤師とは


第II部 Case Study

1.患者との関係におけるモラルディレンマ
Case 1 処方されている薬がなかったとき
Case 2 患者が処方薬を妻にも服用させようとするとき
Case 3 大量の残薬が発覚したとき

2.医療スタッフや他職種との関係におけるモラルディレンマ
Case 4 調剤過誤を発見したとき
Case 5 重複投与の調剤を強いられたとき
Case 6 病院薬事委員から学会発表用のスライド作成を依頼されたとき
Case 7 介護を楽にするための投薬に遭遇したとき

3.現代医療に関わるモラルディレンマ
Case 8 患者が服薬を拒否するとき
Case 9 薬剤師の情報提供によって患者が中絶を決めたとき
Case 10 遺伝子解析に基づいて薬が処方される時代
Case 11 身長を伸ばすための成長ホルモン治療を知ったとき

4.研究に関わるモラルディレンマ
Case 12 患者に無断で行われている臨床研究に気づいたとき
Case 13 薬剤師の研究発表

5.対人関係を超えるモラルディレンマ
Case 14 在宅医療で未使用の薬が残ったとき
Case 15 実験で動物を殺めるとき


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