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カテゴリー: 基礎薬学

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塩とメダカとくすりのうごき。

水槽図でイメージする薬物動態の本

1版

日本大学薬学部病院薬学研究室 教授 福岡憲泰 著

定価

2,420(本体 2,200円 +税10%)


  • B5判  153頁
  • 2022年8月 発行
  • ISBN 978-4-525-72751-2

ノンスペシャリストだからこそ伝えらえる薬物動態のイメージを専門家とまとめました

お薬を塩とメダカに,からだを水槽図に置き換えて,専門家とともにまとめた薬物動態の超入門書!
からだの中の「くすりのうごき」を,文字による解説と数式だけでは理解できなかったという経験,そして,病院薬剤師として培ったさまざまな臨床経験,大学教授として薬学教育に携わった経験,それら著者自身の経験から導き出した薬物動態の考え方を「苦手さん」目線で解説した.

  • 序文
  • 目次
  • 書評1
  • 書評2
序文
 筆者が病院薬剤師としてTDM(治療薬物の血中濃度管理)業務を担当していたとき,血中濃度や投与設計について医師と検討する機会がしばしばありました.そのとき「薬物動態」や「速度論」の説明もしてきました.「薬物動態」は「くすりが動くさま(動く様子)」であるのに対し,「速度論」は「薬物動態の解析や予測」に使われるため,説明には数式が必要不可欠です.数式での説明とあわせて,本書で紹介する薬物動態の考え方を言い添えると,「なるほど,今まで聞いてきた数式が何を表していたかわかった」とよく言われました.
 このほかにも各診療科医局や病棟での説明会,薬剤師の研修会,薬学部実務実習生の講義でも同じような感想を多くいただき,「薬物動態をイメージできれば数式を読み解くきっかけになる」と実感しました.
 速度論で必要不可欠な数式は,「くすりのうごき」を意識してみると理解が深まります.例えば「分布容積=投与量÷血中濃度」の式から経口剤の分布容積を推定するには,血中濃度が刻一刻変わるといった「くすりのうごき」を踏まえると,どの時点で血中濃度を測定するのが望ましいかがわかります.速度論での数式が公式で表されるのに対し,「くすりのうごき」は抽象的な概念であり,薬の特性や患者の状態により流動的に変化します.この「くすりのうごき」に関する概念は文章のみで表現されたものが多く,そこから導かれる数式を苦手とする方は少なくないでしょう.
 また,実務では医師をはじめ他者に自分(薬剤師)の言葉で説明することが求められますが,言葉だけで伝えることの難しさを感じている方も多いと思われます.「くすりの効き方」は,薬理学で習得した専門知識によって概ね説明できる一方,「くすりのうごき」については,薬物動態学で習得した専門知識そのままを使っての説明は理解しにくく,何か他者と共有できるような表現を用いる必要があります.しかし,これを見出せずにいる方が少なくないと思われます.このことが,TDMが実務としてなかなか定着してこなかった理由のひとつであるとも考えています.
 「くすりのうごき」をイメージできれば,自分自身が数式を理解しやすくなるだけでなく,他者への説明もしやすくなります.文字による解説と数式だけで理解できる方もいますが,私と同じくそれが苦手な人にとっては,イメージは理解を助けてくれます.また,本書は実際に医療スタッフや学生からの疑問に答えたり,一緒に考えたりした内容を取り上げているので,自分の言葉で伝えられるような「糸口」も見出せると思います.筆者は薬物動態学の専門家ではありませんが,「イメージによる見方」をまとめてほしいという多くの要望をいただいたこともあり,甚だおこがましいことですが本書を出版することになりました.今さら訊けないことについて「目からウロコ」と感じてもらえることがひとつでもあればうれしく思います.
 「イメージによる見方」は筆者が実務を通して考えたので,本書の内容が独りよがりにならないよう,また,本来の考え方や解釈からそれることのないよう二人の先生にご協力いただき,編集を進めてきました.
 竹内敏己教授には,刻一刻と変わる「くすりのうごき」を正しく表現できているかどうかを中心にご確認いただきました.先生は,数値解析(応用数学)がご専門で,薬物動態学と速度論を理論的な観点から教えていただいています.薬物動態解析ソフトウェア「Easy TDM」(香川県TDM研究会)の計算プログラムの制作者でもあります.
 伊藤 進教授には,薬物動態の考え方やパラメータの解釈をどのように治療で活かすのか,医師や患者からの質問に対する回答内容が相応しいかどうかを中心にご確認いただきました.先生のご専門は小児領域の臨床薬理・薬物動態,新生児学,ビリルビン代謝です.筆者がルーチン業務としてTDMを始める際にご理解・ご支援いただき,病院在職中から薬物動態学や速度論のみならず,臨床医学についても幅広く教えていただいています.
 そして,編集にあたっては南山堂編集部 古川晶彦様の多大なご協力とご助言をいただきました.この方々の協力なくして本書はできませんでした.誌面を借りて皆様にお礼申し上げます.

2022年初夏
福岡 憲泰
目次
第1章 「くすりのうごき」から薬物動態パラメータをみる
 1 ADME─薬はからだの中をどのようにめぐるのか?
 2 コンパートメントモデル─からだを水槽と見立てると?
 3 一次反応(消失)速度─メダカの減り方は?
 4 分布容積─水槽の大きさを調べるには?
 5 クリアランス─底の穴に流れ込む塩水の流量と除かれる塩分量の関係は?
 6 半減期─メダカの数が半分になるときは?
 7 消失速度定数─入れ替わる水の割合は?
 8 定常状態─メダカの数が一定になるには?
 9 1-/2-コンパートメントモデル─仕切り効果の違いは?
 10 トラフ値─塩が水槽全体にいきわたったあとの濃度は?
 11 生体内利用率─ふるいがある水槽の塩分濃度は?
 12 吸収速度定数─水槽間のメダカの移動は?

第2章 「くすりのうごき」をよんで答える
 1 「Vd/F」,「CL/F」と表記される理由
 2 脂溶性薬物の分布容積が大きい理由
 3 定常状態における「平均濃度」の考え方
 4 分布容積が30Lや300Lとなる薬の分布状態
 5 クリアランス=分布容積×消失速度定数の考え方
 6 1-/2-コンパートメントモデルの使い分け
 7 肝・腎機能低下時の投薬の考え方
 8 消失半減期の求め方
 9 吸収速度定数の考え方,利用法

第3章 「くすりのうごき」と投与設計
 1 薬の効果を評価する指標は?
 2 血中濃度はいつどのように測定し,評価するのか?
 3 なぜ投与直前で採血するのか?
 4 なぜ採血時刻を指定する(守る)のか?
 5 薬はいつから効き始めるのか?
 6 服薬を止めたら,薬はいつ頃体の中から消失するのか?
 7 投与量の換算に注意が必要な場合とは?
 8 線形,非線形の薬における投与設計の留意点とは?
 9 初回量(負荷量)と維持量を区別する薬とは?
 10 クリアランスが維持投与速度の目安になる理由は?
 11 クレアチニンクリアランスの計算式の活用方法は?

第4章 ケーススタディ 推論する「くすりのうごき」
 1 非トラフ値からトラフ値の推定─バルプロ酸
 2 定常状態を想定して行う投与設計─ジゴキシン
 3 投与設計に及ぼす体重変動の影響─フェニトイン
 4 投与設計に及ぼす体温変動の影響─ミダゾラム
 5 「3つのみかた」で血中濃度を推論する

索引
書評1
本間 真人(筑波大学医学医療系 臨床薬剤学 教授)

 臨床における薬の効果や副作用を理解するには,薬理学と薬物動態学の知識が必須である.薬理学は「薬が生体に及ぼす影響」を,薬物動態学は「生体が体内での薬の動きに及ぼす影響」を研究する学問分野であり,両者の理解によってはじめて薬を正しく使うことができる.筆者は看護学生の臨床薬理学の授業を担当しているが,日頃より薬物動態学の理解に必要な薬物速度論を教えることの難しさを痛感している.
 医薬品添付文書にも登場する分布容積(Vd)やクリアランス(CL)などの薬物速度論パラメーターは,単位(L,L/hなど)はあるものの実態のない“係数”である.それらをイメージできない限り,その数値と数値が変動する意味を理解できない.添付文書情報を利用することも困難である.本書は,体内の“薬”を“塩とメダカ”に置き換えてその動きを解説しており,薬物速度論パラメーターの数値と変動の意味を,薬学を専門としない初心者にもイメージしやすいように工夫されている.
 本書は,4章から構成されており,第1章では,体を水槽と見立てて,その中の塩の濃度やメダカの数の変化を例に,コンパートメントモデルの各種パラメーター(半減期,Vd,CL,バイオアベイラビリティーなど)を解説している.第2章では,VdやCLの数値と変動の意味を,肝機能や腎機能低下時の血中薬物濃度の変化を例に解説している.第3章では,薬物の血中濃度を測定しながら,投与設計を行う治療薬物モニタリング(TDM)の基本的な考え方について,採血のタイミングやクレアチニンクリアランスの利用も含めて概説し,第4章では,TDM対象薬剤のケーススタディを実際のデータを用いて説明しており,実践的である.
 薬物速度論は,薬を専門とする薬剤師であっても数式を扱うことから苦手意識を持ちやすい.また,コンピュータによる血中薬物濃度のシミュレーションなしには,TDMを実践できないと考える方も少なくない.しかしながら,日常診療で行う個別投与設計に,それほどの精密な計算は必要でなく,上記パラメーターを利用した電卓での計算で十分である.
 本書は,薬物速度論を学習する薬学生はもちろん,医学生や看護学生の入門書として,また,薬物測度論に苦手意識を持っている薬剤師,TDM対象患者に関わる医師,看護師の方々にもお勧めできる一冊である.私のように薬物速測度論を教える立場(教員)の参考書となることは言うまでもない.
書評2
本当にわかっている人の解説を堪能できる一冊

狭間研至(ファルメディコ株式会社 代表取締役社長)

 その昔,「易しいことを難しく伝えたりする人は,本当にわかっているとは言えない.難しいことを易しく伝えられる人が,本当にわかっている人である」といった言葉にいたく感心したことがある.
 薬剤師の専門性とは,大学の専門課程で相当な時間と気力を持って習得した知識によって構築されるものである.それらの代表である薬物動態学は,まさに難しいことの代表であるが,服用後のフォローの際に必須の薬理学や薬物動態学を学び直すためには,どうすればよいのか,その難しさゆえに悩んでおられる方も多いだろう.
 本書は,まさに,薬剤師の専門性のもととなる「難しい」薬物動態学について,「薬を「塩」や「メダカ」に,からだを「水槽」に置き換えて,「くすりのうごき」をイメージしながら薬物動態の基本となる考え方を学ぶ」ことができるように,イラストやグラフを使ってわかりやすくまとめられたものである.薬学的な内容だけでなく,本当にわかっている人の解説を堪能するためにも,ぜひ,お手許に置いていただきたい一冊である.
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