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カテゴリー: 基礎薬学

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創薬科学

医薬品のdiscoveryとdevelopment

1版

東北大学大学院理学研究科/薬学研究科 教授 長 秀連 著

定価

5,280(本体 4,800円 +税10%)


  • B5判  334頁
  • 2012年8月 発行
  • ISBN 978-4-525-73011-6

本書は医薬品合成化学を中心に,薬理・薬物動態・製剤といった創薬に必要とされるすべての分野を網羅することで,創薬に携わる若手の研究者や研究職を希望する学生が医薬品開発の流れと方法論を体系的に学べる書籍となっている.

  • 序文
  • 目次
序文
 一粒の錠剤,一本の注射剤には,さまざまな研究・開発部門でそれらの研究開発に携わってきた非常に多くの研究者たちの英知,技術,努力,苦悩,喜びが集積・凝集されていて,それはあたかも人生のようである.
 医薬品研究開発では,有機合成や薬理などという一部門だけの知識や技術では医薬品候補化合物を見出すことはできず,総合的なチームワーク,知識,実験技術,経験,情報,判断力,決断力が必要である.医薬品研究開発を通しての「創薬」はまさに総合科学であり,1人の力だけではどうにもならない.ちなみに,「創薬」や「創薬科学」という言葉は「人財」という言葉とともに,著者の恩師でもある故・野口照久氏(サントリー医薬事業本部長・生物医学研究所長,山之内製薬副社長など4社を歴任)の造語である(日本薬学会:ファルマシアVol.32,No.1,1996より).
 本書では,創薬科学の研究開発の中で,著者が専門としてきた主として創薬化学からの視点で,生物(薬理),薬物動態,製剤,品質管理,品質保証,安全性,治験などすべての分野を見渡し,医薬品研究開発の方法論と創薬化学の実践例,また現在注目されている疾患と治療薬の最新情報について記載している.また,医薬品はほかの医薬品や食品としばしば相互作用を起こす.そこで,それらの相互作用について薬物動態の観点と,コラム「医食同源・薬食同源」で最近までの実例をいくつか紹介した.また研究を進めて行くうえで,大学においても企業においても特許制度を十分理解することは非常に大切であるので,制度の最近の改正点とともに詳細を解説した.最後に,若き研究者が研究者としての姿勢・あり方を考え,また研究意欲が高まることを期待して,ノーベル賞受賞にも関係する新薬開発のエピソードを含む物語の数々を「Ⅴ薬の発明・発見―その感動の物語」の中で紹介した.
 さて,製薬企業での研究開発の全体会議では,しばしば他部門の専門用語が説明なしで飛び交い,著者もそれらを理解するのに10年近い歳月を要した.本書では,それらの数々の専門用語も解説することで,製薬企業入社後まもない若手研究者,または幅広い領域の知識を得たいという熟練の企業研究者にも参考になるよう配慮している.最近は薬学部学生・薬学研究科大学院生以外の,製薬企業を志す理・工・農学部(学科)などの大学生・大学院院生の数が急増した.しかし,大学または大学院で実践的創薬科学の講義を聴く機会は少ない,またはほとんどないのが現状である.そこで本書は,それらの学生,大学院生にも役立つものと思われる.この度,各方面からの多くの執筆要請があり,私の28年間の創薬科学体験と知識を本書にまとめてみることにした.
 創薬の感性を磨くうえで,医薬品の化学構造式を常に見ていること,あるいは知っていることは重要であると著者は考えるので,本書では本文中に登場した開発品以外のほとんどすべての医薬品について化学構造式を描いた.また具体的かつ実践的な事柄を中心としてまとめ,読者が最後まで面白くそして有意義に通読できるように,体験談的要素を多分に加味して執筆したことも特徴の1つである.
 医薬品研究開発は,1945年から1960年までは黎明期であり,近代の薬のほとんどはこの時期に生み出された.1960年から1975年の間には抗生物質,生合成阻害薬,拮抗薬を中心とした種々の合成医薬品が世に現れ,同時に受容体の概念が実証された.β遮断薬やH2遮断薬がこの頃に創製された.1975年から1990年の間はバイオテクノロジーの全盛期で,バイオ医薬品の創製が行われ,インターフェロン,エリスロポエチンなどの生体医薬が開発された.その後,分子生物学の新概念として,アンチセンス,転写因子,シグナル伝達,細胞内のDNAとの関わりから「DNAから薬の発見」という概念が生まれた.それが生命の基礎である「ゲノムからの創薬研究」へと向かいつつある.患者個人へのオーダーメイド医薬創製の時代がいつかは来るかもしれない.いずれにせよ,新しい概念と新しい先端技術がこれからの画期的な創薬につながり,創薬科学の一層の発展に貢献すると思われる.しかし,それらすべてを説明すると膨大な量となるので,バイオ医薬品の創製やゲノム創薬の話は本書では割愛し他書に譲ることとした.
 本書が,これから医薬品研究開発に挑む若い研究者や,広く他部門の仕事に関心をもつ熟練研究者の参考になればと思う次第である.
 著者の記述に誤りがある場合には,ご教示をいただければ幸いである.

2012年3月 杜の都・仙台にて
長 秀連
目次
第Ⅰ章 医薬品候補化合物の創薬研究と開発研究
1 製薬業界の現状
 1.日本における医薬品開発の動向と現状
 2.海外の製薬企業の動向と現状
 3.国内の製薬企業の動向
2 医薬品の創製研究を行う組織と研究開発の流れ
 1.基礎・探索研究(R0ステージ)
 2.創薬研究(R1ステージ)
 3.開発研究(R2ステージ)
 4.前(非)臨床研究(Dステージ)
3 医薬品の創薬研究と開発研究における各部門の具体的役割
 1.メディシナルケミストリー(創薬化学)
 2.プロセスケミストリー(プロセス化学)
 3.薬物動態
 4.安全性(毒性)
 5.製剤
 6.品質管理,品質保証
 7.治験

第Ⅱ章 代表的な疾患と主な治療薬
1 高血圧症
 1.高血圧症とは
 2.高血圧症の治療薬
2 脂質異常症
 1.脂質異常症とは
 2.脂質異常症の治療薬
 3.メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)とは
3 糖尿病
 1.糖尿病とは
 2.インスリン
 3.糖尿病の分類
 4.インスリン抵抗性とは
 5.糖尿病の治療法
 6.糖尿病の治療薬
4 動脈硬化症
 1.動脈硬化症とは
 2.動脈硬化症の治療薬
5 アルツハイマー病
 1.アルツハイマー病とは
 2.低分子アルツハイマー治療薬の開発状況
 3.アルツハイマー病と栄養の関係
6 後天性免疫不全症候群(エイズ)
 1.後天性免疫不全症候群(エイズ)とは
 2.逆転写酵素,プロテアーゼ,インテグラーゼとは
 3.後天性免疫不全症候群の治療薬
 4.後天性免疫不全症候群治療薬の現状の課題
7 C型肝炎
 1.C型肝炎とは
 2.C型肝炎の治療薬
8 消化性潰瘍および炎症性腸疾患
 1.消化性潰瘍とは
 2.消化性潰瘍の治療薬
 3.ヘリコバクター・ピロリ菌と潰瘍および胃癌
 4.炎症性腸疾患とは
 5.潰瘍性大腸炎の治療薬
 6.クローン病の治療薬
9 気管支喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)
 1.気管支喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは
 2.気管支喘息の治療薬
10 アラキドン酸カスケードの代謝物質と制御物質
 1.プロスタグランジン(PG)
 2.ロイコトリエン(LT)の生合成経路
 3.エイコサペンタエン酸(EPA)の生合成経路
 4.脂肪酸(AA,EPA,DHA,DPAなど)の命名法,数と記号の法則
 5.エイコサノイドの生理作用
 6.エイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)
 7.5−リポキシゲナーゼ
 8.12−リポキシゲナーゼ
 9.15−リポキシゲナーゼ
 10.リポキシン(LX)
 11.エポキシイソプロスタンA2ホスホリルコリン
 12.アラキドン酸カスケード生合成の阻害薬・拮抗薬
 13.プロスタグランジン,ロイコトリエン系の医薬品開発の現状と今後の展望

第Ⅲ章 医薬品の創薬研究と開発研究の実践例
1 メディシナルケミストリーの実践例
 1.Ca2+antagonist(Dihydropyrimidine誘導体)の合成研究
 2.12−リポキシゲナーゼ阻害剤の合成研究
 3.K+チャネル開口剤の合成研究
 4.AVP 拮抗薬の合成研究
 5.FXa 阻害剤の合成研究
 6.大学発のメディシナルケミストリー関連研究
2 プロセスケミストリーの実践例
 1.‌医薬品候補化合物の中間体ピロロアゼピン誘導体の製造
  「ホスゲンを用いたピロロアゼピン基本骨格の100 kgスケール製造」
 2.抗エイズ(HIV)薬ビラセプト®(Viracept,ネルフィナビル)の製造
 3.大学発のプロセスケミストリー関連研究

第Ⅳ章 特許制度と企業の特許戦略
1 特許とは
 1.特許法の目的
 2.なぜ特許を取得するのか?
 3.発明はすべて特許になるわけではない
2 特許制度
 1.特許異議申立制度と特許無効審判制度
 2.特許無効審判制度
 3.新無効審判制度
 4.先願主義と先発明主義:2013年に米国が先願主義に移行
 5.特許申請と学会発表・論文発表
 6.PCT国際出願制度
 7.JP,US,EP,AU,PCT(WO)出願の実例
3 企業の特許戦略
 1.自社特許がすでに公開になった後に出す追加特許
 2.進歩性
 3.当業者
 4.自明性と非自明性
 5.特許になり得る発明
4 特許出願
 1.出願から審査までの流れ
 2.特許期間の延長
 3.2010年問題
 4.出願書類
5 真の発明者は?出願人は?
 1.利用発明
 2.選択発明
 3.選択発明とライセンス
 4.クロスライセンス
6 判例紹介
 1.青色発光ダイオード(LED)事件
 2.除草性イミダゾール・ピラゾール誘導体事件
 3.ピロリジン誘導体事件
 4.タキキニン拮抗剤事件

第Ⅴ章 薬の発明・発見―その感動の物語
1 ランダとバロン─「シスプラチン」(抗癌性白金錯体:抗癌薬)
2 セレンディップの三人の王子─「炭酸リチウム」(抗躁作用:躁病治療薬)
3 ビューティフルマインド─「クロルプロマジン」(ドパミン遮断:統合失調症治療薬)
4 お釈迦様と房楊枝─「アスピリン」(シクロオキシゲナーゼ阻害:解熱・鎮痛薬,抗血栓薬)
5 女性化学者の言葉─「アシクロビル」(HSV DNAポリメラーゼ阻害:抗ウイルス薬,帯状疱疹治療薬)
6 夜空に輝く星をつかめ!─0.001%の不純物,5,677回の精製

COLUMN
・先発医薬品と後発医薬品(ジェネリック医薬品)およびバイオシミラー
・医食同源・薬食同源
 ―①医食同源・薬食同源とは
 ―②緑茶成分とCox−2阻害薬の併用─前立腺癌予防に相乗効果
 ―③リコピンが脳神経細胞を保護
 ―④リコピンの制癌効果
 ―⑤納豆とワーファリン
 ―⑥ウコンとアルコール,ウコンと鉄分とNASH
 ―⑦イレッサ
 ―⑧抗アレルギー薬の心毒性
 ―⑨旧茶のしずく石鹸の小麦アレルギー―グルパール19S
 ―⑩ビタミンEの1日所要量
 ―⑪味蕾に発現するGABAは何をしているのだろうか?
  (奈良女子大学生活環境学部食物栄養学科)
 ―⑫薬食同源の里に産する花椒
 ―⑬グルメ雑学“元祖○○/鬼の如く黒く,恋の如く甘く,地獄の如く熱き―”
・特許の怪物:パテント トロール

付録 薬事部申請用「医薬品の一般名・化学名・構造式表記法」
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