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カテゴリー: 臨床薬学  |  検査・診断学

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薬立つ検査値

1版

慶應義塾大学 客員教授 林 松彦 監修
明海大学 客員教授 斉藤嘉禎 編著
キョーワ薬局株式会社 エリアリーダー 大森智史 編著

定価

3,960(本体 3,600円 +税10%)


  • B5判  259頁
  • 2024年10月 発行
  • ISBN 978-4-525-77771-5

基礎と実践力が身に付く臨床検査の教科書

処方箋への検査値印字などに伴い,薬剤師も検査値を踏まえたより詳細な病態の把握,副作用の管理などが可能となり,処方監査や服薬指導へそのデータの活用が求められます.そこで,本書は検査値の基本的な知識と薬学的視点からみた検査値の見かたについて深く解説し,症例により実践的な知識を習得できる一冊としました.

  • 監修のことば
  • 序文
  • 目次
  • 書評
監修のことば
 かかりつけ医と同様に,かかりつけ薬局を決めておくことを厚生労働省が積極的に勧めている.その大きな利点として,複数の医療機関から出された処方を縦覧して,薬剤の重複,相互作用による副作用を未然に防ぐことができるなどの点が挙げられている.これに加えて,医療機関から,処方した薬剤に関連する血液検査などの結果を添付することにより,たとえば抗凝固薬の過量を是正する,あるいはビタミンDとカルシウム薬の過量による高カルシウム血症に対して対応を促す,などといった対応が可能となってきている.このようなことを可能とするためには,当然,薬剤師に相応の知識と責任が要求され,保険薬局の仕事は,棚から薬を取り出して患者さんに渡すといった単純なものではなく,医師,看護師,検査技師などの,いわゆる多職種チーム医療に院外から参加し,患者さんがよりよい治療を受けられるよう,大きく寄与することとなっている.
 こういった現状を踏まえ,少しでも薬剤師の方々の日常の業務への手助けになればと,明海大学客員教授 斉藤嘉禎先生の発案で本書が企画された.実際にこのような趣旨で執筆が始まったのは,2017年のことであり,その後,コロナ禍などいくつかの問題が生じ,当初は1年くらいでと予定された発刊は遅れに遅れ,2024年まで,ほぼ7年の年月が流れた.この間,多くの方が執筆に携わり,斉藤先生の刊行に向ける熱意が原動力となって,ついに刊行にこぎつけることができたのは感慨深いものがある.私も,この計画が始まった時は,慶應義塾大学病院総合診療科部長であったが,2018年に定年退職,現職に就いて,実に6年が過ぎている.当然,最初に書かれた内容は現在の最新の内容へと改訂され,薬剤師の方々にとり非常にわかりやすく,かつ日常の業務に必要な内容がよく網羅されている.
 これからも新薬は次々と登場することが想定され,継続学習がすべての医療職に求められている.おそらく,将来は多くの部分がAIにより補助され,単純ミスは激減することが期待される.しかし,それでも最後に責任をもって医療を行うのは人であることを忘れず,知識を更新して,患者さんのために生かしていただければと願っている.

2024年6月
林 松彦
序文
 処方箋は治療に必要な薬の種類や用法・用量などが記載された書類である.患者の病名や症状などの記載はなく,患者にインタビューして薬剤師が病名を推論する場面も少なくない.近年,外来患者が持参する処方箋に検査値が印字され,薬局に提供する取り組みが浸透している.そのため,患者の主訴などの主観的情報や,検査値などの客観的情報が情報源となり,指導・管理を実践するケースがある.適正な調剤・服薬指導の実現には,できるだけ多くの患者情報を医療機関と共有していくことが必要であるが,現時点での医療情報の提供は,検体検査(血液や尿を用いた検査)の開示であり,その検査値の解釈は個々の薬剤師の力量に委ねられている.
 一方,臨床検査の測定技術は高度に完成された技術水準にある.血中の代謝産物,細胞からの逸脱成分,クレアチニンなどの老廃物,電解質など多くの検査値が精密かつ正確に定性・定量することが可能である.検査値は患者の病態を客観的に評価するための指標となっている.薬剤師が臨床検査値を読解,活用した処方監査と適正な服薬指導の実践により,副作用,過量投与,禁忌症例の回避につながることが期待される.すなわち,患者からインタビューした情報やお薬手帳から収集した薬剤服用歴などに加え,検査値を把握し活用することで,主治医への疑義照会や服薬情報提供書の質的向上,そして医療機関との連携強化により,医薬品の適正使用に寄与することが望まれる.
 オンライン資格確認等システム(マイナ保険証)の利用を通じて患者の診療情報,薬剤情報等を取得・確認することにより,質の高い医療の提供に努めることが,保険医療機関・薬局に求められている.
 マイナ保険証を利用する効果として,正確な薬剤情報に基づき重複投薬や相互作用等の確認が可能となり,検査値の情報を活用した処方内容の確認や,より適切な服薬指導が実践できる.マイナ保険証のさらなる普及によって,検査値活用の重要性は高まっていく.薬剤師は検査値を有効に活用し,薬学的な視点で処方内容をチェックし,安心・安全な薬物療法に寄与するよう求められる.
 薬剤師が検査値を評価して患者の病状を経過観察する際,一言注意を申し上げたい.検査値には生理的変動(性差,加齢,食事の前後,生活習慣,閉経前後など)によるものがあり,また,健常者を対象とした共用基準範囲と,学会等が定めた臨床判断値がある.患者の検査値が異常を示す際,その評価にあたって留意することを忘れないでほしい.また,疾病の診断には検体検査のほか,X線画像,超音波検査,呼吸機能・心電図などの生理学的検査および細胞診・病理組織診などの検査値情報を総合的に加味して判定されることが多く,最終的には医師によって診断が下される.したがって検査値(検査データ)を100%うのみにしてはいけない場合があり,また,検査値のみで診断が下されることは少ない.検査値の活用においては患者及び主治医と良好なコミュニケーションのもとで行われるよう留意していただきたい.
 本書が薬剤師の検査値利活用の後押しとなり,一歩進んだ服薬指導の一助となることを願っている.
 本書の制作にあたり,ご尽力いただいた執筆者の先生,ご支援いただいた企業の専門家,ならびに株式会社南山堂の編集部スタッフの皆様に衷心よりお礼申し上げる.

2024年6月
斉藤嘉禎 大森智史
目次
■検査値を活用するために必要な基礎知識
 検査値の特性を知る
  ①基準範囲
  ②共用基準範囲とその必要性
  ③臨床判断値
 検査値の読み方と注意点
 臨床検査に使われる血液検体
 いろいろな検査値の単位
  ①血漿蛋白・糖・脂質・老廃物などに用いられる単位
  ②血算・血液一般検査に用いられる単位
  ③酵素検査に用いられる単位
  ④電解質検査に用いられる単位

Chapter 1 検査値から患者の状態を把握する
 ■Chapter1を読む前に
 検査項目を理解するために
  ①基礎知識
  ②基本的な検査(生化学検査/血算・血液一般検査)
 押さえておきたい基本的な検査
  ①生理的変動
  ②検体採取
  ③CTCAEの取り扱いについて
  ④Child-Pugh分類の考え方
 Advanced Lecture
 Point

 ■Test 1 肝・胆道機能検査
 肝疾患の検査を理解するための基礎知識
  ①肝臓のはたらきと検査
  ②肝機能障害とは
  ③肝疾患の検体検査
  ④薬剤性肝障害
   薬剤性肝障害/DDW-J2004薬剤性肝障害ワークショップによる分類
 押さえておきたい基本的な検査
  ①肝疾患の存在を調べる検査
   AST,ALT値およびAST/ALT比によるスクリーニング検査/胆汁うっ滞のスクリーニング検査①:ALP,γ-GT/胆汁うっ滞のスクリーニング検査②:ビリルビン(胆汁色素)
  ②肝障害の進行度・重症度をみる検査
   プロトロンビン時間(PT)/Child-Pugh分類と肝硬変の重症度
  ③検査値を解釈するうえでの注意点
   生理的変動要因/測定上の問題点
 Advanced Lecture プロトロンビン時間 国際標準比
 Advanced Lecture ウイルス性肝炎の抗原抗体検査マーカー
 Point

 ■Test 2 脂質異常症検査
 脂質異常症検査を理解するための基礎知識
  ①脂質の代謝経路
  ②脂質異常症検査とは
   脂質異常症/脂質異常症検査の基準値の考え方
  ③脂質異常症の分類
   臨床検査領域における分類(WHO分類)/臨床における分類
 押さえておきたい基本的な検査
  ①動脈硬化性疾患予防のためのスクリーニング検査
   LDLコレステロール(LDL-C)/HDLコレステロール(HDL-C)/中性脂肪(TG)/Non-HDLコレステロール(non-HDL-C)
  ②検査値を解釈するうえでの注意点
   生理的変動要因/測定上の注意点
 Advanced Lecture 高レムナント血症
 Point

 ■Test 3 糖代謝検査
 糖代謝異常と糖尿病
  ①糖代謝異常
  ②糖尿病の成因と病型診断
  ③糖代謝異常と臨床検査
   検体検査/生理学的検査
  ④糖尿病と合併症
 押さえておきたい基本的な検査
  ①糖尿病の診断に用いる検査
   血糖値/HbA1c
  ②糖尿病と診断するための検査の進め方
   血糖値・75g OGTT2時間値・HbA1cによる区分/糖尿病と診断されるまで
  ③病型の診断に用いられる検査
   インスリン分泌能の評価/インスリン抵抗性の評価/1型糖尿病と自己抗体
  ④糖尿病・糖尿病合併症のフォローアップに用いられる検査
   HbA1cによる血糖コントロール目標/グリコアルブミン(GA)/1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)/高齢者の血糖コントロール/糖尿病患者に必要な他の検査
  ⑤検査値を解釈するうえでの注意点
   生理的変動要因/血糖値の種類/赤血球寿命によるHbA1cの変動
 Advanced Lecture 唾液を検体とする臨床検査
 Point

 Column 薬局で知ってほしい歯科のこと①:糖尿病と歯周病の関係

 ■Test 4 腎・尿路系の検査
 腎・尿路系の検査を理解するための基礎知識
  ①腎臓の構造
  ②腎臓のはたらき
  ③腎機能検査
   腎機能とは/糸球体濾過量(GFR)/尿細管機能検査
  ④腎・尿路系の臨床検査
   蛋白尿の検出/慢性腎臓病と検査/急性腎障害と検査
 押さえておきたい基本的な検査
  ①腎機能のスクリーニングに用いられる検査
   血清クレアチニン(Scr)/血清シスタチンC(Cys-C)/尿素窒素(UN)/尿酸(UA)
  ②尿細管機能のスクリーニングに用いられる検査
   N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)
  ③検査値を解釈するうえでの注意点
   血清クレアチニン(Scr)/血清シスタチンC(Cys-C)/尿素窒素(UN)/尿酸(UA)/N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)
 Advanced Lecture 微量アルブミン尿による糖尿病性腎症の早期発見
 Advanced Lecture 前立腺の疾患と検査
 Point

 ■Test 5 筋疾患検査
 筋疾患を理解するための基礎知識
  ①ミオパチーの原因別分類
  ②ミオパチーの臨床検査
   遺伝性ミオパチー/後天性ミオパチー
 押さえておきたい基本的な検査
  ①筋炎特異的自己抗体の検査
   抗Jo-1抗体・抗ARS抗体/甲状腺刺激抗体(TRAb)
  ②検査値が異常値を示す筋疾患
   血清クレアチンキナーゼ(CK)/血清ミオグロビン(Mb)/血清カリウム(K)
  ③検査値を解釈するうえでの注意点
   抗Jo-1抗体・抗ARS抗体/血清クレアチンキナーゼ(CK)/血清ミオグロビン(Mb)/血清カリウム(K)
 Advanced Lecture 急性冠症候群の検体検査
 Point

 ■Test 6 血算・血液一般検査
 血算・血液一般検査を理解するための基礎知識
  ①血算・血液一般検査
  ②貧血の検体検査
  ③赤血球指数による貧血の鑑別
  ④貧血の鑑別・貯蔵鉄の把握に必要な検査
  ⑤主な貧血と検査
   鉄欠乏性貧血/妊婦の貧血/子どもの貧血/高齢者の貧血
  ⑥感染症と白血球数の増減
   白血球数の増減/リンパ球の増減
  ⑦免疫系で活躍する細胞群
   最初の防御バリア/自然免疫系/獲得免疫系/自然免疫系と獲得免疫系の連携/白血球の分類と免疫系の仕組み
  ⑧血小板の増減
   血小板数減少が血小板消費の亢進による場合/血小板数減少が血小板の破壊と寿命の低下による場合/血小板数減少が薬物の服用による場合
 押さえておきたい基本的な検査
  ①赤血球系の検査
   赤血球数(RBC),ヘモグロビン濃度(Hb),ヘマトクリット値(Ht)
  ②白血球系の検査
   白血球数(WBC),白血球分類
  ③血小板の検査
   血小板数(PLT)
  ④検査値を解釈するうえでの注意点
   赤血球数(RBC),ヘモグロビン濃度(Hb),ヘマトクリット値(Ht)/白血球数(WBC)/血小板数(PLT)
 Advanced Lecture 止血と血栓
 Point

 ■Test 7 電解質検査
 電解質の検査を理解するための基礎知識
  ①電解質とは
  ②体液量の調整
   体液区分/細胞外液量の測定/細胞外液量増加/細胞外液量減少
  ③浸透圧と張度
  ④細胞膜上の機能性蛋白質
  ⑤活動電位 
  ⑥主な電解質異常
   高ナトリウム(Na)血症/低ナトリウム(Na)血症/高カリウム(K)血症/低カリウム(K)血症/高カルシウム(Ca)血症/低カルシウム(Ca)血症/高リン(P)血症/低リン(P)血症
 押さえておきたい基本的な検査
  ①よくみられる電解質異常
   血清ナトリウム(Na)/血清カリウム(K)/血清カルシウム(Ca)/血清リン(P)
  ②検査値を解釈するうえでの注意点
 Advanced Lecture 慢性腎臓病と骨・ミネラル代謝異常
 Point

 Column 薬局で知ってほしい歯科のこと②:薬剤関連顎骨壊死
 Column 薬局で知ってほしい歯科のこと③:薬剤関連顎骨壊死への注意

 ■Test 8 高齢者・フレイルの検査
 高齢者・フレイルの検査を理解するための基礎知識
  ①高齢者・フレイルとは
   高齢者の増加とフレイル
  ②栄養アセスメントと検査
   栄養アセスメントとは/主観的包括的評価(SGA)/客観的評価(ODA)
  ③サルコペニア・フレイルと臨床検査
   静的栄養指標に役立つ検査/動的栄養指標に役立つ検査
 押さえておきたい基本的な検査
  ①静的栄養指標による低栄養状態の検査
   総蛋白(TP),アルブミン(ALB)/総リンパ球数(TLC)/コリンエステラーゼ(ChE)/総コレステロール(TC)
  ②動的栄養指標による低栄養状態の検査
   レチノール結合蛋白(RBP)/トランスサイレチン(TTR, プレアルブミン)/トランスフェリン(Tf)
  ③検査値を解釈するうえでの注意点
   血清総蛋白(TP),血清アルブミン(ALB)/総リンパ球数(TLC)/レチノール結合蛋白(RBP)/トランスサイレチン(TTR)/トランスフェリン(Tf)
 Advanced Lecture フレイル・サルコペニアにおける栄養状態の評価
 Point

 Column 薬局で知ってほしい歯科のこと④:歯ブラシの選び方
 Column 薬局で知ってほしい歯科のこと⑤:オーラルフレイル

Chapter 2 一般用検査薬を活用し,能動的な健康サポートを実践する
 ■Chapter2を読む前に
 一般用検査薬とは
  ①一般用検査薬の種類と分類
  ②一般用検査薬への転用促進
  ③一般用検査薬の診断能
  ④一般用検査薬が満たす要件
   検体について/検査項目/検査法/OTC検査薬の性能/添付文書に記載する基本的項目
 尿検体を用いる検査に必要な基礎知識
  ①尿中に含まれる成分
  ②尿検体の種類
   採尿方法による名称の違い/採尿時間による名称の違い
  ③尿検体を扱う際の注意点
  ④尿試験紙による検査法

 ■Test 1 蛋白・糖に関連する検査
 押さえておきたい基本的な検査
  ①尿蛋白・尿糖の検出に用いられる検査
   尿蛋白定性検査/尿糖定性検査
 尿試験紙の測定原理と正しい使い方
  ①測定原理
   尿蛋白定性検査/尿糖定性検査
  ②偽陽性と偽陰性
 Advanced Lecture 尿潜血検査

 ■Test 2 妊娠に関連する検査
 性周周期と妊娠の成立を理解するための基礎知識
  ①性周期に関わるホルモン
  ②エストロゲンのフィードバック機構
   ネガティブフィードバックによる卵胞刺激ホルモン(FSH)・黄体形成ホルモン(LH)分泌の調節/ポジティブフィードバックによる黄体形成ホルモン(LH)サージ/月経周期とホルモン分泌/妊娠の成立/妊娠成立時にみられるホルモン濃度の変動
 押さえておきたい基本的な検査
  ①排卵日の予測,妊娠の確認に用いられる検査
   排卵日予測検査薬/妊娠検査薬
 Advanced Lecture 新型コロナウイルス抗原定性検査キット

Chapter 3 Case Study 現場で薬立つ!検査値の読み方・使い方
 Chapter3を読む前に
 Case 1 糖尿病患者のHbA1cは低い方がよいですか?
 Case 2 抗菌薬の投与量は本当にこの量でよいですか?
 Case 3 降圧薬服用中,その高カリウム血症の原因は?
 Case 4 直接経口抗凝固薬(DOAC)使用時に注意するポイントは?
 Case 5 脂質異常症の治療中,クレアチンキナーゼ(CK)上昇の理由は?
 Case 6 心不全だけど水分摂取?
 Case 7 胃がんの外来化学療法,化学療法で気を付けるポイントは?
 Case 8 胃がん末期,薬学的管理は痛みだけでよいですか?
 Case 9 認知症治療でみるべき検査値は?
 Case 10 骨粗鬆症の治療中,最近食欲がないとの訴えあり.原因は?
 Case 11 ステロイドの長期投与は何に注意すべきですか?
 Case 12 低用量アスピリンも実は危険?
書評
 医薬品を社会(地域)に過不足なく,必要とするところに的確に迅速に供給し,住民が医薬品を適正に使用できる体制を確保しておくこと.これが「医薬分業制度」である.
 この制度は,1956 年4 月「医薬分業法」の法律のもと施行したが,わが国では,医師が診察と投薬をすることが習慣として定着していたため,分業は進展しなかった.その後,1974 年,分業元年といわれ,実質的な医薬分業の開始となり,2023 年度の処方箋受取率(医薬分業率)は,前年度比3. 9 ポイント上昇して80. 3%を示すまでに至った.
 そのようななかで「モノから人へ」と叫ばれ,患者への面談,副作用・服用状況の確認が進んでいる.この「モノから人へ」の対応に苦難している薬剤師が数多くいる.調剤報酬で「服薬管理指導料」に「服薬期間中のフォローアップ」を要件に明記した.それを受けて日本薬剤師会では「薬剤使用期間中の患者フォローアップの手引き」を作成し,啓発に努力している.
 このような背景のなか,人に寄り添うための補助ツールとして,以前から院外処方箋内に「臨床検査値」の表記が進んでいる.表記項目はさまざまであるが,調剤薬局薬剤師においては処方薬の情報のみから一歩踏み出すことになった.しかしながら,薬学教育では「臨床検査値」に関する教育が十分とはいえない.
 本書籍は臨床検査値の「基礎知識」から始まり,「検査値から患者の状態を把握する」記述も含まれて構成されている.例として「糖代謝検査」の項目を紹介する.
 項目の冒頭には,「糖代謝異常と糖尿病」のなかに「糖尿病の成因」「病型診断」「臨床検査」「合併症」と基本的な記述から始まることで,知識の整理が可能となる.
 そして,大きなポイントは「押さえておきたい基本的な検査」である.ここの記載は他の書籍よりも詳細に解説されている.薬剤師が臨床検査値を確認して,患者がどのような状態であるのかが細かくわかる.特に,「糖尿病・糖尿病合併症のフォローアップに用いられる検査」「検査値を解釈するうえでの注意点」は,患者フォローアップには必見である.この項目ではHbA1c の目標を図を示して補足している,また,注意点として生理的変動要因の記載もあり,患者への対話の確認や参考になる.
 項目の後半では「Advanced Lecture」もあり興味をそそる.「Point」記載は,項目全体をまとめている.これらの構成がすべての章で記載されているため,困ったときの活用に便利である.
 最後には「Case Study 現場で薬立つ! 検査値の読み方・使い方」の12 Case が事例研究されている.タイトルのとおり「薬立つ!」が実感できる書籍である.
 本書籍は,これからの医療DX 化でより患者情報が閲覧できる環境においても,大学で学びきれていない知識や事例を得ることができる.この書籍を使いこなせれば,患者フォローのエキスパート,その先のプロフェッショナリズムを極めることが可能となる.夢の書籍である.

埼玉県病院薬剤師会 会長/埼玉県薬剤師会 常務理事/
日赤薬剤師会 副会長/さいたま赤十字病院 薬剤部長/薬学博士
町田 充
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