イチからわかる!
歯科医師が知っておきたい肝疾患のキホン
1版
佐賀大学医学部臓器相関情報講座 教授 長尾由実子 編
山形大学医学部臨床看護学講座 教授 斎藤貴史 編
久留米大学先端癌治療研究センター 客員教授/
医療法人財団聖十字会西日本病院 顧問 佐田通夫 編
定価
3,190円(本体 2,900円 +税10%)
- B5判 112頁
- 2017年5月 発行
- ISBN 978-4-525-80101-4
“口腔病変×肝疾患” 歯科医師が肝疾患をもつ患者の
治療を行う際のポイントをこの1冊に凝縮!
口腔病変は肝疾患との関連がよく知られており,歯科医師には肝疾患に対するゲートキーパーとしての役割が期待されている.本書は,(1)初学者向けの総論,(2)口腔病変と肝疾患との関連,(3)症例ベースの実践的な解説で構成されている.
- 序文
- 目次
序文
本書は,歯科医師をはじめとした歯科医療職の方々に対して肝臓の病態を解説したものです.このような書籍がわが国で出版されるのはおそらく初めてです.
歯科治療では,唾液や歯の切削物に加えて,血液との接触が避けられません.そのため,血液感染で知られるB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに対して,歯科医療従事者は院内感染対策の観点から論じることが多いと思います.院内感染対策は,医療安全の確保に関わる重要項目です.しかし,わが国では歯科医療従事者が肝疾患の病態を正しく理解し,最新治療を学ぶ機会がほとんどありません.実際,ウイルス性肝炎の患者が来院した場合,その病態をどのように捉え,対応,治療すべきか戸惑うことも多々あるのではないでしょうか.
また,C型肝炎ウイルスは肝臓以外の臓器や組織にも障害を引き起こすことが知られており,こうした「肝外病変」を示す重要な口腔粘膜疾患に「扁平苔癬」があります.しかしながら,わが国の歯科医療の現場には,扁平苔癬をC型肝炎ウイルスと関連付けるという認識がまだ浸透していません.
本書は,そうした実情を憂慮し,歯科医師の方々に肝炎ウイルスの理解を深めていただくために企画しました.
わが国では平成元年に8020運動が提唱されて以来,う蝕の減少や高齢化の進展によって疾病構造が大きく変わりました.日本は超高齢社会を迎え,歯科診療所を訪れる患者の多くは何らかの基礎疾患を持っています.安心・安全な医療を提供するために,歯科医師には全身の病態や薬剤の知識が求められます.歯科と医科の連携治療の重要性は,今後ますます増していくでしょう.
歯科医院に口腔粘膜の異常を訴えて来院する患者は比較的多いと思います.口腔粘膜には数多くの疾患がいろいろな原因で現れ,口腔粘膜に限局したもの,皮膚疾患に関連したもの,全身疾患の部分症状として出現するものなどがあります.ところが,口腔粘膜疾患の多くは,直接観察することができる特徴を持っているにもかかわらず,食事などの機械的刺激を受けたり感染を引き起こしたりするため,同一疾患であっても病期によって症状が異なります.また,肉眼的に似たような疾患が多いため,その診断が難しいと言えます.しかし,そうした中にも,歯科医師の判断によって患者の全身疾患を突き止め,治療に貢献できる口腔粘膜疾患があります.その1つが扁平苔癬です.
日本では,毎年約3万人が肝癌で死亡し,その原因の約8割が肝炎ウイルスに由来します.わが国のC型肝炎ウイルス感染者は150~200万人いると推定されています.このC型肝炎ウイルスは,慢性肝障害や肝癌の原因になりますが,一方で多彩な肝外病変を合併し,その中でも扁平苔癬は代表的な疾患の一つです.
筆者が1995年に“扁平苔癬はC型肝炎ウイルスの肝外病変である”と発表してから,20年以上が経ちました.扁平苔癬をきっかけとして,肝癌の合併を見つけたり,肝移植治療に結び付けたりすることもあり,扁平苔癬と肝臓の病態は切っても切り離せない関係だと考えています.
本書では,現在国内の肝臓病学の第一線でご活躍されている先生方に肝疾患の基礎知識を執筆していただきました.口腔病態については,実際の症例に基づいて解説しました.歯科医師が肝疾患患者の治療を行うにあたり知っておくべき知識を基礎から実践まで網羅していますので,日常の臨床に少しでも役立てば幸いです.
最後に本書の企画に賛同され,お忙しい中,執筆に協力していただきました八橋 弘 先生,正木尚彦 先生,山﨑一美 先生,佐田通夫 先生,齋藤貴史 先生に心より感謝申し上げます.また,南山堂の方々,とくに編集部の根本英一様,須田幸司様には大変お世話になりました.本書を刊行できましたことに深甚なる感謝の意を表します.
2017年4月
編者を代表して
長尾由実子
歯科治療では,唾液や歯の切削物に加えて,血液との接触が避けられません.そのため,血液感染で知られるB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに対して,歯科医療従事者は院内感染対策の観点から論じることが多いと思います.院内感染対策は,医療安全の確保に関わる重要項目です.しかし,わが国では歯科医療従事者が肝疾患の病態を正しく理解し,最新治療を学ぶ機会がほとんどありません.実際,ウイルス性肝炎の患者が来院した場合,その病態をどのように捉え,対応,治療すべきか戸惑うことも多々あるのではないでしょうか.
また,C型肝炎ウイルスは肝臓以外の臓器や組織にも障害を引き起こすことが知られており,こうした「肝外病変」を示す重要な口腔粘膜疾患に「扁平苔癬」があります.しかしながら,わが国の歯科医療の現場には,扁平苔癬をC型肝炎ウイルスと関連付けるという認識がまだ浸透していません.
本書は,そうした実情を憂慮し,歯科医師の方々に肝炎ウイルスの理解を深めていただくために企画しました.
わが国では平成元年に8020運動が提唱されて以来,う蝕の減少や高齢化の進展によって疾病構造が大きく変わりました.日本は超高齢社会を迎え,歯科診療所を訪れる患者の多くは何らかの基礎疾患を持っています.安心・安全な医療を提供するために,歯科医師には全身の病態や薬剤の知識が求められます.歯科と医科の連携治療の重要性は,今後ますます増していくでしょう.
歯科医院に口腔粘膜の異常を訴えて来院する患者は比較的多いと思います.口腔粘膜には数多くの疾患がいろいろな原因で現れ,口腔粘膜に限局したもの,皮膚疾患に関連したもの,全身疾患の部分症状として出現するものなどがあります.ところが,口腔粘膜疾患の多くは,直接観察することができる特徴を持っているにもかかわらず,食事などの機械的刺激を受けたり感染を引き起こしたりするため,同一疾患であっても病期によって症状が異なります.また,肉眼的に似たような疾患が多いため,その診断が難しいと言えます.しかし,そうした中にも,歯科医師の判断によって患者の全身疾患を突き止め,治療に貢献できる口腔粘膜疾患があります.その1つが扁平苔癬です.
日本では,毎年約3万人が肝癌で死亡し,その原因の約8割が肝炎ウイルスに由来します.わが国のC型肝炎ウイルス感染者は150~200万人いると推定されています.このC型肝炎ウイルスは,慢性肝障害や肝癌の原因になりますが,一方で多彩な肝外病変を合併し,その中でも扁平苔癬は代表的な疾患の一つです.
筆者が1995年に“扁平苔癬はC型肝炎ウイルスの肝外病変である”と発表してから,20年以上が経ちました.扁平苔癬をきっかけとして,肝癌の合併を見つけたり,肝移植治療に結び付けたりすることもあり,扁平苔癬と肝臓の病態は切っても切り離せない関係だと考えています.
本書では,現在国内の肝臓病学の第一線でご活躍されている先生方に肝疾患の基礎知識を執筆していただきました.口腔病態については,実際の症例に基づいて解説しました.歯科医師が肝疾患患者の治療を行うにあたり知っておくべき知識を基礎から実践まで網羅していますので,日常の臨床に少しでも役立てば幸いです.
最後に本書の企画に賛同され,お忙しい中,執筆に協力していただきました八橋 弘 先生,正木尚彦 先生,山﨑一美 先生,佐田通夫 先生,齋藤貴史 先生に心より感謝申し上げます.また,南山堂の方々,とくに編集部の根本英一様,須田幸司様には大変お世話になりました.本書を刊行できましたことに深甚なる感謝の意を表します.
2017年4月
編者を代表して
長尾由実子
目次
第1章 肝疾患の基礎知識
1. 肝疾患を理解するための基本
2. ウイルス性肝炎
3. 自己免疫性肝疾患
4. 肝硬変
5. 肝癌
6. 肝外病変
7. 肝疾患患者の食生活と日常生活
第2章 口腔疾患と肝疾患
1. 扁平苔癬とHCV感染
2. 口腔癌とHCV感染
3. シェーグレン症候群とHCV感染
4. シェーグレン症候群と自己免疫性肝疾患
5. 肝疾患患者に対する歯科治療の注意点
第3章 症例から学ぶ肝疾患患者の口腔診療
1. 総論
2. C型肝硬変患者にみられた難治性口内炎の精査
3. C型肝癌治療後,C型肝硬変患者にみられた難治性口内炎の精査
4. 扁平苔癬の発症がきっかけとなりHCV感染を発見できた症例
5. C型肝硬変にみられた口腔扁平苔癬からの悪性転換,性器扁平苔癬,食道癌を発症した重複癌症例
6. インターフェロン(IFN)治療中に扁平苔癬が増悪し,のちに喉頭癌を発症した症例
7. 原発性胆汁性胆管炎(PBC)に対して生体肝移植後に扁平苔癬が治癒した症例
8. 肝硬変患者の抜歯を行う場合
1. 肝疾患を理解するための基本
2. ウイルス性肝炎
3. 自己免疫性肝疾患
4. 肝硬変
5. 肝癌
6. 肝外病変
7. 肝疾患患者の食生活と日常生活
第2章 口腔疾患と肝疾患
1. 扁平苔癬とHCV感染
2. 口腔癌とHCV感染
3. シェーグレン症候群とHCV感染
4. シェーグレン症候群と自己免疫性肝疾患
5. 肝疾患患者に対する歯科治療の注意点
第3章 症例から学ぶ肝疾患患者の口腔診療
1. 総論
2. C型肝硬変患者にみられた難治性口内炎の精査
3. C型肝癌治療後,C型肝硬変患者にみられた難治性口内炎の精査
4. 扁平苔癬の発症がきっかけとなりHCV感染を発見できた症例
5. C型肝硬変にみられた口腔扁平苔癬からの悪性転換,性器扁平苔癬,食道癌を発症した重複癌症例
6. インターフェロン(IFN)治療中に扁平苔癬が増悪し,のちに喉頭癌を発症した症例
7. 原発性胆汁性胆管炎(PBC)に対して生体肝移植後に扁平苔癬が治癒した症例
8. 肝硬変患者の抜歯を行う場合