ブックタイトルZEROからの生命科学 改訂4版

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概要

ZEROからの生命科学 改訂4版

5.内分泌系と神経系によるクロストーク1597この他にも糖尿病遺伝子の存在が予測されています.そして,これらの遺伝子が相互作用し同じ家族であっても環境要因などが影響して発病する場合としない場合が生じるようです. このような常染色体の糖尿病遺伝子の他にも,母性遺伝するミトコンドリアDNA の異常に起因する糖尿病についても研究が進められています.2 体温の調節 人類史の中で,ヒトは暑さよりも寒さに耐えて生きてきたのかも知れません.恐竜が栄えていた白亜紀にはすでに原始哺乳類も出現し,寒冷化した地球環境を生き抜くことができたのも体温調節が可能となったからです.(1)体温が下がったとき 間脳の視床下部にある体温調節中枢が低温の血液を感知すると,交感神経を刺激して,この興奮が副腎髄質に伝えられます.副腎髄質からはアドレナリンが血液中に分泌され,その結果,心拍数が上昇します.また,交感神経は直接,心臓や肝臓に働いて心拍数を上げたり肝臓での代謝を活発にしたりして発熱量を増やします.この他にも甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンや副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドが肝臓や骨格筋の代謝量を増やして発熱量を増加させます.さらに骨格筋に分布している脊髄神経(運動神経)も興奮して骨格筋が収縮し発熱します.このように発熱量を増加させる一方で,アドレナリンや交感神経の刺激によって,皮膚の毛細血管や立毛筋が収縮して熱を逃がさ 2 型糖尿病は,①インスリンの分泌量の低下,もしくは,②糖の細胞内取り込み量の低下のどちらかの原因で尿中に糖が排出されるものです.「低下」と記したのは,年齢に相応した運動(栄養消費)をしないか,食事(脂肪)のとりすぎにより糖の処理能力が限界を超えて追いつけなくなり相対的に「低下」したものです.そもそも人類は長い飢餓の歴史を辿ってきたので,現代のような急激な飽食の時代には進化的にも対応しきれないといってよいでしょう.加齢と共に基礎代謝量が減少していく一方で,過食や運動不足によって先の原因①,②が生じることになります. しかし過食や運動不足の人が皆,糖尿病になるのかというとそうではありません.やはり遺伝的な要因があることも知られています.現在,考えられている2 型糖尿病になるきっかけの一つが肥満です.肥満によって血糖値が上昇する遺伝子が働きはじめるか,血糖値を低下させる遺伝子が抑制されるのではないかというものです.これらを実験で確かめるにはヒトの個体を使うわけにはいかないので,2 型糖尿病に類似した症状を示すラットを使います.その結果,ラットの11 番染色体の長腕の先端付近に,糖尿病の原因遺伝子があることが報告されていて,何らかの関係があるのではないかと研究が進められています. この他に,細胞内への糖の取り込みに影響を与える膜チャンネルに異常をきたす遺伝子なども発見されています.このように現在では10個以上の糖尿病遺伝子が同定されていますが,図7ー20 ヒトの19 番染色体にあるインスリン受容体遺伝子アポトーシス誘導タンパク質インスリン受容体カルシウムチャンネルインスリン様分泌因子瞳の色遺伝子(緑/青)がん遺伝子:AKT2ホルモン感受性リパーゼ体脂肪率調節:アポリポタンパク質 Eグリコーゲン合成酵素黄体形成ホルモンβ鎖DNA 複製酵素:ポリメラーゼδ19番染色体塩基対数:7,200万bp遺伝子数:1861個インスリン受容体・インスリンを受け取り,その作用を 引き起こし,その結果,細胞内に血 液中のグルコースをエネルギーとし て取り込み血糖値が下がります.