ブックタイトルプログレッシブ生命科学
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プログレッシブ生命科学
1867 テロメラーゼ 正常体細胞が細胞老化によって規定される分裂可能な回数の上限をもつのに対して,精子や卵子をつくる生殖細胞は,それをつくった個体の体外に放出され,受精したのちに次世代の個体をなす.このように,生殖細胞は祖先から子孫にいたる世代を伝わることで,種がつづくかぎり,無限回数の細胞分裂を行うことができる.また,正常体細関連β-ガラクトシダーゼsenescence - associatedβ- galactosidase(SA -β- gal)活性(巻頭写真10)が強陽性であって細胞老化状態にあるが,悪性腫瘍メラノーマ細胞ではSA-β- gal 活性はなく,細胞老化状態にはない. 以上のことから,細胞老化は,数多くの細胞分裂を経験したためにテロメア長が短小化した細胞の増殖を抑制することで,細胞がテロメア機能を失うことを防ぎ,異常染色体をもつがん細胞の発生を阻止するものと理解できる.すなわち,細胞老化は再生組織にとってはその機能を低下させる個体生存に負の結果をもたらすが,その一方で,細胞がテロメア機能を失って異常染色体を生み出すことを防ぐ重要ながん抑制機構の役割を果たしている.このように,個体老化をもたらす現象が個体にとって正と負の二面性をもちうることはしばしば観察される.図11 - 6 テロメアのDNA 末端保護機能十分な長さをもつテロメアは,長いテロメアDNA と多数のテロメアタンパク質をもち,これらのDNA - タンパク質複合体はテロメアDNA 末端が外部に露出しないように保護している.のべ細胞分裂回数が亢進してテロメア長が短小化すると細胞老化が起こる.この段階では,テロメアDNA の長さは短小化し,結合するテロメアタンパク質の数は減少するものの,テロメアDNA 末端を保護する機能は保たれている.がん化の初期過程であるp 53遺伝子やRb 遺伝子などのがん抑制遺伝子の失活が起こると,細胞老化機構は失われ,テロメア長が短いにもかかわらず,細胞は増殖を再開・持続する.そのため,テロメアDNA はテロメアタンパク質, テロメア機能を失うまでに短小化する. ゲノムのDNA 末端がテロメアで保護されなくなると,2 つのDNA 末端のあいだで融合反応が起こる.その結果,テロメア機能を失った2つの染色体は末端融合して融合染色体を形成する.このような融合染色体は二動原体染色体とよばれ,非常に不安定であり,異常染色体の発生を介してさらに細胞のがん化を促進する.p53遺伝子,Rb遺伝子の失活テロメア異常染色体の発生によるがん化の促進テロメアタンパク質テロメアDNA図11 - 5 加齢とテロメア長生涯にわたって細胞増殖を行う再生組織では,加齢とともにテロメア長が徐々に短小化する.染色体が安定に存在するためには最小限のテロメアDNA が必要である.その必要な長さをこえてテロメア長が短くなるとテロメアは機能を果たせなくなるため,細胞はテロメア長がその閾値に近づくと細胞増殖速度を積極的に遅くしてテロメア長の短小化を防ごうとする(矢印で示すところからテロメア長の短小化速度が減少している).このように細胞が積極的に増殖停止することが細胞老化の原因である.この過程は,テロメア長は細胞が行ったのべ分裂回数をカウントして細胞分裂をもたらす,細胞分裂時計であるとたとえることができる.年齢短小化速度減少テロメア長〔kb〕05101520