ブックタイトルがんと免疫の研究Update

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概要

がんと免疫の研究Update

1.概 論3概 論 1西川博嘉11-1 がん免疫研究の歴史と展開(図1-1) W. B. Coley により,約1 世紀前に“免疫応答により悪性腫瘍が退縮する”ことが報告された1).免疫系は生体内に存在する自己と存在しない非自己を識別し,非自己の物質を排除する機構である.がんは細胞の遺伝子変異の蓄積により発生することから,細胞が本来もっていない非自己の物質(抗原)を有していると考えられ,20世紀初頭,P. Ehrlich は免疫系が“がん”から生体を防御しているという考えを提唱した2).この考えは,F. M. Burnet とL. Thomasにより,“生体内では細胞に遺伝子変異がつねに起こり,異常細胞が出現するが,これらの危険な異常細胞は免疫系により見つけだされ,排除される”という“がん免疫監視機構cancerimmuno-surveillance”として1950 年代にまとめられた3).また,1943 年にL. Gross は,純系マウスモデルを用いて,化学発がん剤により誘導された同系マウスのがん細胞株を移植されて,それらを拒絶したマウスは同じがん細胞株に抵抗性となることを明らかにし,免疫系によるがん拒絶に特異性があることから,標的となる抗原(がん抗原)の存在を推測した4). 一方,Coley らにより開始されたColey’s toxin の治療効果が不十分であったことや,P. B.Medawar による,腫瘍は自己であることから免疫系によって排除されないといった免疫寛容説などにより5),がんに対する免疫応答は否定的な見解が示された.さらに1970年代,O.Stutman により,胸腺を欠損したヌードマウスにおいて,化学発がん剤による発がんが野性型マウスと同等である6)ということが示されたことも,がんに対する免疫応答の存在を疑問視した.しかし,Stutman らが用いたヌードマウスはT 細胞が末梢で残存していることや,ナチュラルキラー細胞(NK 細胞)の活性が野生型マウスに比較して高いことから,より精密に種々の免疫関連遺伝子変異動物などを用いた研究が進められた結果,IFN-γやパーフォリンといった抗腫瘍免疫応答にかかわる分子が欠損したマウスでは発がんが促進することが明らかになり,がん免疫監視機構の存在が動物モデルで確認されてきている.また,1991 年には,ヒトがん抗原がT. Boon らによって同定され,ヒトにおいてもがん免疫応答の存在が示された7).現在,免疫応答が発がんからがんの進展にかかわる過程は“がん免疫編集cancer immuno-editing”として,L. J. Old,R. D. Schreiber らによってまとめられた8).免疫系は,生体内に生じたがん細胞を破壊し,がんの進展を抑制しているが,がん細胞がその微小環境において生存するのに適したがん細胞を選択し,免疫系から逃避するとともに,積極的に抗腫瘍免疫応答を抑制する環境をつくりあげ,臨床的“がん”となる.事実,近年のヒト悪性腫瘍の網羅的遺伝子解析データでも,細胞傷害関連分子は免疫抑制分子とともに発現しているといったように,免疫逃避機構の存在の重要性が示されている.つまり,免疫系はがんを攻撃して腫瘍制御にはたらく細胞や分子と,これらの抗腫瘍免疫応答を抑制して腫瘍増