ブックタイトル「はたらく」を支える!女性のメンタルヘルス
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「はたらく」を支える!女性のメンタルヘルス
法を行うだけでは不十分である.疾患に正しい知識,疾患とのつきあい方,日常生活上注意することなどを繰り返し患者と確認する作業が必要不可欠である.日本うつ病学会の治療ガイドライン 3)では双極性障害(Ⅰ型とⅡ型は区別せず)の薬物療法に関して,躁病エピソード,大うつ病エピソード(抑うつエピソード),維持療法の三つの項目に分け解説がなされている.躁病相では最も推奨される治療が躁状態の程度によって分けられている.躁状態が中等度以上の場合にはリチウムと非定型抗精神病薬(オランザピン,クエチアピン,アリピプラゾール,リスペリドン)の併用で,躁状態が軽症の場合はリチウム単剤が最も推奨されている.うつ病相の薬物療法として最も推奨されているのはクエチアピン,オランザピン,リチウム,ラモトリギンによる単剤治療である.維持療法で最も推奨されているのはリチウムである.つまり,気分安定薬(リチウム,バルプロ酸,ラモトリギン,カルバマゼピン)と非定型抗精神病薬(オランザピン,クエチアピン,アリピプラゾール,リスペリドン)を単剤もしくは併用し,病期に合わせた治療を行っていく.女性に処方する場合は,年齢と今後起こりうるライフイベントを想定して処方計画を行う必要がある.特に,若い女性であれば,その後の内服期間が長期に及ぶことに加え,妊娠・出産・授乳期,年齢を重ねると更年期や閉経といったライフイベントが考えられる.双極性障害の産後の再発リスクは35% 4)であり,妊娠~産褥期には再発を念頭に置き診療を行う.以前は周産期のエピソードは通常のエピソードと異なると考えられていたが,現在ではうつ病や双極性障害の既往を有することが多く治療反応などの点でも特に異なっていないため生物学的に異なった一群であるという証拠が乏しい.しかし,周産期発症のエピソードの場合,授乳の問題,育児の問題,児に与える影響など特に注意すべき点が多い.計画的な妊娠を促し,妊娠を希望した場合には,妊娠中や授乳期を考慮した薬物療法を選択し,妊娠までには病状を十分にコントロールする.双極性障害と産後の再発率は予防的に内服を継続した場合では23%であったのに比べ,妊娠期間に内服を行わなかった場合では66%と有意に高かった 5).つまり,双極性障害をもつ女性では妊娠中の内服加療により産後にも安定した状態を維持できるということである.こういったデータも踏まえ,内服治療を行わない場合のリスクと内服治療に伴うリスクに関する説明を十分に行う.そして,妊娠時にそのままの投薬内容を継続するのか,投薬内容を変更するのか,薬を完全に中止するのか,一時的に中止して再開するのか,といったそれぞれの方法のリスクとベネフィットの情報を提供し,患者および配偶者,家族と十分に相談した上で選択を行う.双極性障害で用いられる各薬剤の妊娠,授乳期に関連した特徴を簡単にまとめておく 5),6).オランザピン,クエチアピン,リスペリドンについては奇形の危険性が増加するという確証はないと報告されている.アリピプラゾールについてはわずかな症例報告しかないが特異な奇形が多いということは示されていない.しかし非定型抗精神病薬を用いることによる体重増加リスクや妊娠糖尿病の症例報告がある.リチウムでは心血管奇形,特にEbstein 奇形が多いといわれてきたが,最近の報告では絶対数は他の副作用に比べると少ないともいわれている.バ2 双極性障害209