ブックタイトルぼくらのアルコール診療
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ぼくらのアルコール診療
67Ⅱ お困りシチュエーション別! クイック・リファレンス A一般外来A 一般外来 スクリーニング・診断 40 代,男性.20 歳頃より習慣飲酒し,結婚して2 子をもうけ,家業を継いで自営業で生計を立てている.普段はおとなしい性格だが,飲酒量が増えると興奮することが多く,家族に暴言を吐くことがある.ただし,暴力には至らず,社交的で自宅外での飲酒機会も多いわりに,これまで対人関係での問題はなかったという.居酒屋で大声を出した際にほかの客に注意されたことでトラブルになり,転倒し腰を強打したため,妻とともに救急受診に至った.X線などの異常はみられなかったが,血液検査でAST 147IU/L,ALT 89IU/L,γ-GTP 210IU/L,MCV 102.8fL と,アルコール性肝障害のパターンを認めた.これまで健康診断を受けておらず,病院を受診することはほとんどなかったという.診察において,「俺はどこも悪くないのにからまれた」「酒は百薬の長っていうでしょ? 俺の飲み方は大丈夫さ」と話し,アルコール性肝障害に対して断酒を勧めても聞き入れようとしなかった.妻は「飲みすぎなければいい人」と話す.アルコール性肝障害を認め,飲酒に伴う問題があり,飲酒時の自分に対する否認が強いため,アルコール依存症を疑った.「あなたはアルコール依存症だから断酒するべきである」と伝えたところ,「腰を診てもらいに来たのに大きなお世話だ!」と話し,不機嫌になってしまい,すぐに診察は終了となった.1非専門医がどこまで診断していいの?本人に「依存症」って伝えていいの?診断の告知は治療への抵抗感を強めるリスクを伴うため,ほとんどの場合において「依存症」と伝える必要はない.アルコール依存症と診断し,そのことを伝えるプロセスは,専門医療機関ですら困難を極める課題である.依存症であるかどうかを問わず,飲酒による健康被害や関連する問題を抱えているときには,依存症が疑わしいという認識をもちながら治療に当たることが重要である.そして,折に触れて専門医受診の必要性について伝える習慣をもつことが望ましい.2