ブックタイトルぼくらのアルコール診療

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概要

ぼくらのアルコール診療

173Ⅱ お困りシチュエーション別! クイック・リファレンス B救急室(ER) 60 代,男性.飲酒後,歩行中に転倒し,頭部を打撲したらしいが,酔いのためか受傷の詳しい状況は覚えていない.右前額部に3cmほどの裂創があり,1人で病院を受診した.顔面に凝血塊が付着しているものの,すでに止血していた.病院の受付では,機嫌よく大声で話をしており,多弁であった.酒臭く,やや呂律が回っていない話し方だが,歩行は可能で,手足の麻痺はみられなかった.土曜日の夕方で混雑しており,診療までに1 時間半ほどの待ち時間が発生していた.受付の事務員から,怪我をしているので一度みてほしいと,看護師が呼ばれた.様子をみに来た若い看護師が創部を観察し,「今は血が止まっているので,すぐに縫わなくても大丈夫.心配ないから,受付順で診察室へ呼びますね」と声をかけた.すると患者は突然,「こんな大けがをして,痛くて急いで病院へ来たのに,心配ないから大丈夫とは何事だ!」「こんな病院で治療するくらいなら,死んだほうがましだ!」と声を荒らげて叫び出した.一瞬で,混雑していた待合室の空気が凍りつき,静まりかえった.大きな声に驚いた医師やスタッフが駆けつけると,患者は立ち上がって,挑みかかるような形相で看護師をにらみつ1患者さんが酩酊している場合の対応は?酩酊している患者は怒りへの閾値が下がっており,医療現場での対応を工夫して,興奮や暴力的言動を招かないようにすることが最も重要である.そのためには,医師,看護師はもちろん,受付の事務員なども含めたすべての医療者が,通常の診療モードから「危機管理」モードへと職務のスイッチを切り替える必要がある.医療者側が常に主導権を握って,トラブルなくスムーズに診療をすませて帰宅してもらうことを,全員の最終目標とする.プロとしての力量が試されているとの認識をもち,「負けるが勝ち」の気持ちで,酩酊している患者に「特別な配慮で扱われている」と錯覚させて,機嫌を損なわないように留意する.22B 救急室(ER)