ブックタイトルTHE 整形内科
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THE 整形内科
180Ⅱ ? よくある運動器疾患,疾患ごとの診断と治療はじめに 「肩が凝る」という言葉は,夏目漱石の小説『門』で初めて使用されたという説がある.それ以前の江戸時代は,肩こりに該当する言葉として,けんぺき(痃癖/肩癖)が用いられていた.時代としては,「五十肩」の名称が使われていたのと同じ頃である.現代において,「五十肩」という表現は,その病態ではなく,「肩が痛い」という患者の「症状」を示す(Ⅱ- 21:p.190参照).同様に,「肩こり」も病態ではなく症状である.そのため,腰痛症と同じように正確には肩こり症と呼ぶべきといえる.日本では,肩こり症は腰痛症についで不快な痛みの第2位であり,日常生活に支障をきたす状態の方も少なくない.民間療法含め,各自でさまざまな対応がなされている. 肩こり症は日本人特有の問題との意見もあるが,一般人の「肩」と認識している位置と,医学的な「肩」の認識にはずれがある(Ⅱ- 21:p.190参照).また,英語ではneck stiffness(頚部の張り),shoulder discomfort(肩部の不快感)などと表現されている. 本項では,肩こりの系統的な診断と各種治療方法の代表例を紹介する.A 肩こり症の症候診断学 肩こり症の鑑別疾患として,いわゆる筋肉の凝りである筋性肩こり症以外にも,クモ膜下出血による頚部痛,虚血性心疾患による肩痛,リウマチ性多発筋痛症などの内科疾患がある.しかし,“寝違え”“肩こり”などと患者が解釈して整形外科や治療院(Ⅰ- 2:p.9参照)などを受診する場合もまれではない.また,内臓疾患の関連痛でも,局所注射,物理療法,指圧などで少し症状が緩和することも多いため注意が必要である.症例1 65歳,女性現病歴: 農作業中に,左頚部?肩部にかけて急に違和感を自覚した糖尿病治療中の患者.普段は右の肩こり症を自覚していたが,左側は初めて.肩や首をストレッチしても症状の寛解・増悪はない.腰かけて休憩すると,10分程度で症状が緩和される.肩を揉んでもらうと少し楽になる感じがする診 断:労作性狭心症肩こり症の診断と治療20 ─局所治療からセルフケアまで─