ブックタイトル生きると向き合うわたしたちの自殺対策

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概要

生きると向き合うわたしたちの自殺対策

2はじめに 世界保健機関(WHO)によれば,自殺した者のうち80?100%に何らかの精神障害が認められ,とくにうつ病などの気分障害が多い1).さらに,うつ病患者の90%以上は,初診時には精神科や心療内科を受診せず,内科など身体科の外来を受診することが明らかとなっている2).その多くは,死にたい気持ち=希死念慮をはじめとする精神症状よりは, むしろいわゆる身体不定愁訴= MUS(medicallyunexplained symptoms:医学的に説明のつかない症状)を訴えて受診していると推察される.すなわちわれわれの前に現れる「死にたい」患者は,「死にたい」と訴えて受診するのではなく,「食欲がない」,「眠れない」,「頭が痛い」,「お腹が痛い」,「動悸がする」などと訴えて受診するのであり,そうした患者の死にたい気持ちにできる限り早く気づき,適切に評価・対応する能力こそがプライマリ・ケア医には必要である.死にたい気持ちを聞くことはタブーではない 死にたい気持ちについてたずねることが自殺に結びつくということは,けっしてない.むしろ,死にたい気持ちを告白することで,自殺を予防する効果が期待できる.ゆえに,うつ病などを疑った際には必ず死にたい気持ちについて問診する必要がある.しかし,逆に医師のほうが問診することに関して抵抗感を抱いていることが少なくなく,それゆえ「まさかとは思いますが……」などと,遠回しかつ遠慮がちに問診しがちであるが,これは「率直に答えにくい質問をする」という言語的・非言語的メッセージを伝えてしまい,逆効果である.それまでと同じ態度で質問を続けよう.死にたい気持ちには重症度がある 「なんだか食事をした後に,胃のあたりがどーんとするんです……」 「いたたたたた,みぞおちがキリキリ痛んで死にそうだ! 救急車を! 救急車を呼んで!」 どちらも「腹痛」であるが,その重症度も緊急性も異なる.それと同様に,1 うつ・自殺に傾いた人のリスク評価Scene1:プライマリ・ケアの外来で