ブックタイトル生きると向き合うわたしたちの自殺対策
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生きると向き合うわたしたちの自殺対策
Part2.社会と向き合う136はじめに 日本における自殺による死亡者数が高い水準で推移していることに鑑み,2006年に自殺対策基本法が制定された.同法は,自殺の背景にはさまざまな原因があり,社会的な取り組みとして対策を講ずる必要があるとの理念のもと,国・地方公共団体が心の健康保持にかかわる体制を整備し,自殺未遂者や自殺者親族などへの支援を行うことなどを定めている. とはいえ2014年の統計でも2万5,000人超と自殺者はなお多く,われわれ弁護士も日々の業務のなかで自殺にかかわる相談に対応している.試みに,ある裁判例検索システムで「自殺」をキーワードに検索したところ,2014年1年間に言い渡された判決だけで93件が検出された. 家庭生活においては一家の支柱として妻子を扶養し,社会生活においては企業で職務に従事していた人が自殺した場合,悲しみに暮れる家族が次に直面するのは,「なぜ夫が,父親が自殺してしまったのか,家族としてできることはなかったのか」という自責の念ではないだろうか.その思いはやがて,「私ではない誰か」に責任があるのではないか(と思いたい)という心情にとって代わり,突如生活の糧を断たれた現実的な問題とともに遺族を悩ませる.そしてわれわれのもとへ,「労災ではないか」,「企業の責任はないのか」,といった相談が寄せられることとなる. 自殺者が病院に入通院していた場合,医療機関や医療従事者も,「私ではない誰か」の対象となり得る.医療従事者は,当然のことながら,患者を助けたいと思って日々治療に当たっている.それでも自殺が起きてしまった場合,そのこと自体の打撃に加え,さらに責任追及を受けることによる精神的な負担は,並々ならぬものがあろう. 本項では,自殺にかかわる法律を概観したうえで,入通院中の患者が自殺したことについて医療機関側の責任の有無が問われた裁判例を紹介し,日々の医療に意を尽くしていただくこと以上に「法的問題」を過度におそれることはないということを伝えたい.24 自殺の法的な問題