ブックタイトル診療ガイドラインが教えてくれないこともある

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概要

診療ガイドラインが教えてくれないこともある

Ⅱ 各 論96ここらで実践してみよう@無床診療所の外来診療 佐藤孝夫さん,70歳,男性.職業は大工で,現在も現役で働いている.5年前に健診で高血圧を指摘されたことをきっかけにエナラプリル5mg錠×1錠/日を開始し,最近は血圧130 /80mmHg前後で経過していた.スモーカーで機会のあるごとに禁煙を勧め続けていたが,1日20本×50年の喫煙は続いていた. ある日の定期受診の際,「最近息切れがするんだ」と相談を受けた.2ヵ月前くらいから,坂道を上がったり,重いものをもって運ぶなどの労作時,とくに仕事中に息切れを覚えるようになった.夜間の呼吸困難はなく,両側下腿の浮腫は認めない.息切れはあるが胸部絞扼感は感じない.息切れは,落ち着いて数分間くらい息を整えれば楽になる.立ち上がった際の立ちくらみはなく,黒色便に気づいたこともない.咳や痰は少しあるが,日常生活に差し支えるほどではない.最近半年での体重変化はなく,動悸も自覚していない. バイタルサインを確認したところ,体温36 .8℃,血圧126 /78mmHg,脈拍数82回/分,呼吸数16回/分,SpO2 95 %(room air).眼瞼結膜は蒼白でなく,胸部聴診では心雑音,過剰心音は聴取しなかった.両側の背部下肺野で,吸気時にfine crackleを聴取し,腹部は平坦・軟で圧痛は認めない.私のアタマのなか ここまでの情報から,鑑別診断として慢性心不全,狭心症,貧血(消化管出血),電解質異常,COPD,肺線維症を念頭に起き,検査として胸部X線写真,心電図,NT-proBNP,血液検査(血算,電解質濃度,腎機能)をオーダーした.その結果,疾患を示唆する所見を認めなかったため,気管支拡張薬吸入前後でのスパイロメトリーを依頼した. スパイロメトリーでは,吸入前1秒量2 .23 L,努力肺活量3 .44 L ,吸入後1秒量2 .32 L,努力肺活量3 .47 L だった.12 % 以上の変化,200mL 以上の1 秒量の変化は認めず,気道可逆性はないと判断した.1秒率は67 %であり,COPDと診断した.年齢と身長から計算した予測1秒量は 2 .73 Lで,対標準1秒量は85 %,病期分類はⅠ期とした.私の対応法 スパイロメトリーで表示された肺年齢 85歳 という情報をつけ加え,佐藤さんにCOPDの病態について説明した.本人の考えを聞くと,いままで50年間喫煙して