ブックタイトル診療ガイドラインが教えてくれないこともある
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診療ガイドラインが教えてくれないこともある
11 COPD95療効果を示すのだろうか.デンマークで行われたコホート研究では,禁煙した群と1日15本以上吸い続けている群を比較して,COPDによる入院の発生は禁煙群で少なく,ハザード比が0.57(95%信頼区間:0.33?0.99)であった9).また,カナダでの禁煙介入の効果をみたランダム化比較試験にて,禁煙への積極的介入で22%の対象者が禁煙した群と,通常治療で5%の対象者が禁煙した群を平均14.5年観察したところ,1年当たりの死亡者はそれぞれ8.83件/1,000人と10.38件/1,000人であり,禁煙への積極的介入群で有意に死亡率が低かった10).禁煙自体が死亡率を下げる効果を期待し,筆者は積極的に禁煙を勧めている. 薬物治療:LABAは,増悪の減少やQOL改善に効果が認められている.7つの研究を用いたメタアナリシスでは,COPD患者を対象としLABA使用の有無で比較したところ,入院の必要な増悪の発生はLABA使用群で少なく,オッズ比は0.73(95%信頼区間:0.56?0.95)であった11).同様に,LAMAも増悪の減少やQOLの改善に有効とされており,COPD患者においてLAMA使用の有無について比較したメタアナリシスでは,増悪発症はLAMA使用群で少なく,オッズ比が0.78(95% 信頼区間:0.70 ?0.87),NNT は12 ?30 であった12).一方で,チオトロピウムの霧状噴霧器については全死亡を増加させるというメタアナリシス13)が2011年に発表された.COPD患者を対象としてチオトロピウム霧状噴霧器群とチオトロピウムドライパウダー吸入群を比較したところ,全死亡が霧状噴霧器群で多く,オッズ比は1.52(95%信頼区間:1.06?2.16),NNHが125であった.2013年にはチオトロピウム霧状噴霧器とドライパウダーの吸入との間で死亡率に差がないという結果のランダム化比較試験14)も公表されており,現在も議論が続いている.筆者の考えとしては,現状ではチオトロピウム霧状噴霧器のリスク評価が定まっていないこと,ドライパウダー吸入では死亡率の上昇が認められていないことから,基本的にドライパウダー製剤を処方している. 前立腺肥大症合併例への対応:COPD患者は高齢者が多いため,併存症をもつ患者が必然的に増える.COPDガイドラインにも心不全や高血圧症などの併存症治療に関する記載はあるが,前立腺肥大症との関連は示されていない.COPD患者を対象とした,吸入抗コリン薬の使用群と未使用群を比較した研究によると,尿閉の発生は吸入抗コリン薬使用群で多く,オッズ比は1.42(95%信頼区間:1.20?1.68),前立腺肥大症のあるCOPD患者に限定して吸入抗コリン薬の使用群と未使用群を比較した分析ではオッズ比が1.81(95%信頼区間:1.46?2.24)であった15).この論文では,前立腺肥大症のあるCOPD患者における180日間当たりの尿閉発症のNNHは263(95%信頼区間:200?361)と算出している.日本で処方される吸入抗コリン薬は,添付文書上「前立腺肥大等による排尿障害のある患者」を禁忌,「前立腺肥大のある患者」を慎重投与としている.筆者は,基本的に前立腺肥大を併存症としてもつCOPD患者にはLABAを先に選択するが,LAMAによる増悪抑制のメリットも大きく,リスクとベネフィットを考慮したうえでLAMAの使用も検討することがある.