ブックタイトル多職種で取り組む食支援

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概要

多職種で取り組む食支援

135Ⅴ.食支援と地域活動─ 病院NSTから地域への内容や形態の変更を強制するのではなく,施設間の情報の伝達手段として,実態調査で最も支持されていた「嚥下食ピラミッド」を地域の共通基準とすること,考える会が独自に作成した「摂食嚥下連絡票」の運用を提案した.これらの提案に対し,京都府では医師会,歯科医師会,歯科衛生士会,栄養士会,言語聴覚士会,看護協会,介護支援専門員会などの各職能団体の支持をいただき,京都府基準として承認された.これを契機に,各職能団体では,嚥下調整食共通基準と摂食嚥下連絡票が会員向けの教育プログラムへ導入され,京都府が推進している各種地域連携パスにも盛り込まれた.こうした京都府レベルでの職能団体の協力体制は,後述する医療・介護の枠を越えた地域の食産業の支援を得る大きな力となった. 2017年1月現在,考える会には京都府76人,滋賀県46人,計122人の世話人が所属し,職種では管理栄養士が32人と最も多く,次いで医師,言語聴覚士,看護師,歯科医師,歯科衛生士などの12の職種の方々が参加され,地域での食支援を推進するため,京都府内・滋賀県内各地で,研修会や調理実習,後述する地域の食産業との連携などで活躍していただいている.介護食を地域の食文化へⅡ 医療・介護の現場では「経口摂取」は各種栄養素の補充や口腔咽頭機能の保持といった生命の保持,身体機能の維持,改善を目的としたscienceの面に重点が置かれるが,本来「食」は個人の欲求を充足させ,移りゆく季節を感じ,人との交流を楽しむ手段といった,人の心に働きかけるartの面が多くを占める行為であり,なかでも高齢者には自分が過ごしてきた年月を振り返る,大切な機会でもある.時に医療現場では,そうした「食」のもつ本質的な意味を軽視し,医療行為という御旗のもとに安易に食を制限してきた. こうした従来型の医療に対するさまざまな反省は,「栄養管理」という病院・医師を中心としたパターナリズム的な医療から,多くのスタッフによって患者・高齢者の生活を支えることに視点に据えた「食支援」へのパラダイムシフトをもたらした.とはいえ,このパラダイムシフトは「栄養管理」を一義的に否定するものではなく,「食支援」と相補的な関係を保ちながら,個々の症例についてscienceだけではなく,個人の人生観や家族の価値観なども加味しながら最善の方法を真摯に検討していくことであり,なかでも高齢者については重要な視点である. 考える会では,国内でも有数の伝統文化を誇る京都の特性を活かし,食に携わる多くの伝統職人との共同事業に取り組んでいる2).介護食を「病人への食事」とするのではなく,地域の新たな食文化として創造し,地域社会において食のバリアフリーを実現することがわれわれの目標である.1 嚥下食プロジェクト ─京料理─ 嚥下調整食は硬さや凝集性,付着性といった物性上の制約から,食を楽しむといった感性上の問題があった.そこで,京都市に本部を構え,和食の無形文化遺産登録に中心的にかかわられた「NPO法人日本料理アカデミー」に,考える会が取り組む嚥下調整食改善事業への協力を依頼したところ,2012年1月より「嚥下食プロジェクト ─京料理─」として共同事業が始まった.日本料理アカデミーから派遣された京都の老舗料亭の料理人と当会所属の管理栄養士,調理師を中心