ブックタイトル血管内皮機能を診る
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血管内皮機能を診る
6 第1 章 血管内皮機能総論3.shear stress 血管壁には,血流によるずり応力(shear stress)と,血圧による法線応力(stretch)が生じるが,これらのメカニカルストレスが血管内皮機能の維持に関わる.生理的なshearstress は,血管内皮細胞からNO やPGI2を放出させ,血小板凝集を抑制する.shear stressの高い状態では,t?PA*7 の放出が増加し線溶系が賦活化されるとともに,トロンボモデュリンの発現量が増加することで,血液凝固が抑制される.一方,shear stress の低い状況ではt?PA の放出は増加せず,トロンボモデュリンの発現は低下する.またshear stress が増加すると接着分子の発現が減少し,shear stress が低下するとVCAM?1 の発現が亢進し,血管壁に単球が接着しやすい状態となる. 層流(laminar flow)が何らかの原因で障害されて乱流となる部位においては,shearstress が低下することで,血管内皮細胞の形状が変化し,細胞の方向性や配列の乱れが生じる(図1?6).このような血管内皮細胞においては,活性酸素種(ROS)産生が亢進し,nuclear factor?kappa B(NF?κB)*8 抑制作用を介した抗凝固・抗炎症作用などを持つkruppel?like factor 2(KLF2)*9 などの細胞内シグナルを低下させることで,血管内皮機能のバランスが損なわれる(図1?7).図1?5 グリコカリックス障害から始まる血管内皮機能障害グリコカリックス障害は炎症や高血糖による血管内皮機能障害の原因の1つであるとともに,さまざまな病態にかかわる.グリコカリックス障害動脈硬化血 栓蛋白尿浮 腫血管内皮機能障害内皮細胞透過性亢進炎 症高コレステ糖尿病心不全CKDロール血症TNF-α エンドトキシンox-LDL高血糖虚血再灌流障害*7 組織プラスミノゲン活性化因子(tissue plasminogen activator).*8 炎症や増殖,凝固などの作用を促進する核内転写因子の1 つ.*9 一酸化窒素やトロンボモデュリン産生作用を有する血管内皮型NO 合成酵素(eNOS)を活性化する核内転写因子.NF?κB に拮抗することで,その作用を抑制する.