ブックタイトルエキスパートはここを見る心電図読み方の極意
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エキスパートはここを見る心電図読み方の極意
38Ⅱ.病気や病態を鑑別するはじめに? たこつぼ型心筋症は,1990年にわが国で初めて佐藤らによって報告1)され,以来約25年が経ち,欧米各地からも症例が報告されるようになり,今や世界で広く知れ渡るようになった疾患である.? たこつぼ型心筋症は,左室収縮末期像が“たこつぼ”に似ていることからこの名がつけられ,冠動脈の支配領域では説明できない左室心尖部を中心とした一過性の収縮低下を呈する疾患である.精神的・身体的ストレスを契機に閉経後の高齢女性で発症する例が多いが,明らかな誘因なく発症する例も少なくない.冠動脈に有意狭窄病変を認めず,多くの例は,急性期の壁運動異常は数日で改善し,数週間後にはほぼ正常化し,予後は良好である.ところが,なかには心不全,致死性不整脈,左室内血栓,心破裂などを合併する例もあり,急性期の合併症には注意する必要がある.? たこつぼ型心筋症の症状(胸部症状,動悸,息苦しさなど)や心電図変化は急性冠症候群と類似し,両者の判別は治療方針の決定および予後予測において重要である.とくに,たこつぼ型心筋症の急性期心電図は急性前壁梗塞と類似し,再灌流療法の適応を決定するうえで判断に迷うことが少なくない.本章では,急性期のたこつぼ型心筋症と急性前壁梗塞の心電図学的鑑別を両者の病態の違いから考えてみる.たこつぼ型心筋症と急性前壁梗塞の心電図所見の比較? 図5-1は,たこつぼ型心筋症と急性前壁梗塞の心電図である.一見するとよく似ている両者の心電図をどう判別するか? 本章では,実際に心電図診断を解説していく.? 筆者らは,発症6時間以内に入院し,前胸部誘導の2誘導以上で ST 上昇を認めるたこつぼ型心筋症(apical ballooning type)33 例と急性前壁梗塞342 例で急性期心電図所見を比較検討した2).その結果も含めて心電図所見を概説する(ただし,たこつぼ型心筋症では亜型も報告されているが,ここではapical ballooning type について言及する).異常Q波? 図5-1に示す心電図では,急性前壁梗塞は V1誘導で異常 Q 波を認め,V2~V3誘導で R波が減高している.一方,たこつぼ型心筋症ではV1 ~V3 誘導でR 波が減高しているが,異常Q 波は認めない.たこつぼ型心筋症は,急性前壁梗塞に比べると心筋壊死量が少なA病態から考えるたこつぼ型心筋症と急性前壁梗塞の心電図学的鑑別K5