ブックタイトルトラベル&グローバルメディスン

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概要

トラベル&グローバルメディスン

220 日本で暮らす外国人に対する保健医療ケアに私が本格的に取り組み始めたのは,インドネシア・北スマトラ州の電気もない農村での母子保健活動から帰国した後の1989 年であった.途上国でも外国人がアクセスできる医療環境は整備されており,インドネシアにおいても英語さえ使えば診療可能な医療機関は少なくなかった.しかし,当時の日本では,小児医療に関する最高峰の1 つである国立小児病院(現 国立成育医療研究センター)でさえ,病院玄関に病院の英語名の表示すら見当たらず,院内の表示は日本語だけで,外国語のパンフレットもなかった1).1989 年に私が勤務した東京都三鷹保健所(当時)において英語のパンフレットを作成した時,外国語による保健所案内は全国でも初めてではないかといわれた.まさに,日本の厚生行政と保健医療サービスは,日本に住み日本語ができる日本人に焦点を絞り発展してきたのだということを実感した. 日本の保健医療ケアがグローバル世界とつながるようになった現状を踏まえ,診療現場での現状や課題について分析するとともに,移住者の存在にも焦点を当てていきたい.日本に定住化する外国人の増加 外国人登録者数は増加の一途をたどり,2016 年6 月現在の外国人登録者数は約231 万人で,総人口の約1.7%を占める.国籍別には,中国(68 万人),韓国朝鮮(49 万人),フィリピン(24 万人),ブラジル(18 万人),ベトナム(18 万人)と続いている. 最近の外国人の人口動態の特徴は,外国人家族の定住傾向が明らかとなってきたことである.外国人を親にもつ子どもが増加している.1987 年には,出生総数約135 万人のうち,親のどちらかが外国人という新生児は0.74%にあたる約1 万人であった.27 年後の2014 年には,出生総数は104 万人と大きく減少するなかで,外国人を親にもつ子どもは3 万3 千人に増加し出生総数の3.12%を占めた(厚生労働省人口動態統計特殊報告).すなわち,日本で出生する新生児31 人に1 人は,父母のどちらか,あるいは両方が外国人という時代になった.これらの外国にルーツをもつ子どもたちが,保育,教育,やがて労働市場の場に参画してくることを前提とした,保健医療システムが求められている. 同時に,定住化に伴い,外国人の高齢化がすでに始まっている.日系ブラジル人社会においても,肥満や糖尿病などの生活習慣病,がんや循環器疾患などが増加している.医療者と患者の適切なコミュニケーションを図るためには,マニュアルや辞書では不十分であり,保健医療に造詣の深い医療通訳士に対するニーズが高まっている.A11 日本への移住者に対する保健医療課題難民は目指した国に身の回りのものを持ち込んでいるだけではない.アインシュタインも一時は難民だった.スィカレンピーロ シャンゲ・ブターネ