ブックタイトルあなたのギモンを解決する!つまずき症例から学ぶ関節リウマチ診療

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概要

あなたのギモンを解決する!つまずき症例から学ぶ関節リウマチ診療

第1 章関節リウマチ治療総論2 3 関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)は,全身に炎症が生じる自己免疫疾患で,主に手足の関節が侵される.放っておくと,関節の軟骨や骨が壊れて,関節が変形し,身体障害に至る.RA では主病変が関節であるため,関節局所の炎症性疾患と誤解されがちであるが,免疫異常を背景とした全身症状を伴う慢性,進行性,消耗性疾患である.肺や血管の炎症など,関節以外にもさまざまな臓器が侵される全身性疾患であり,治療せずにいると寿命が短くなる.人口の0.6%程度がRA に罹患しており,日本では約70 万人の患者がいると考えられている.男女比は1:4 で女性に多く,発症のピークは女性が35?55歳,男性が40?60 歳であり,社会的,経済的な影響が大きな疾患である.病因 RA の病因は分かっていないが,RA になりやすい遺伝子を有するヒトに誘因が加わったときに発症するという考え方が一般的である.RA と関連を示す最も重要な分子はヒト白血球抗原(human leukocyte antigen;HLA)であり,RA 患者ではDR1 およびDR4の頻度が高い.DR 抗原のβ鎖をコードするHLA-DRB1 の対立遺伝子の解析の結果,超可変領域に相当する第70?74 残基がQ/KRRAA という共通のアミノ酸配列をもち,RA感受性HLA に共有された配列という意味でshared epitope(SE)と呼ばれている.SEは,TCR-Vα鎖の主にCDR2 によって認識される.一定の抗原構造に反応するHLA をもつヒトがRA を発症しやすいことを示す.そのほか,RA と関連する遺伝子には,タンパクのアルギニンをシトルリンに変える酵素であるpeptidyl arginine deiminase-4(PADI4),免疫学的寛容に関与するprotein tyrosin phosphatase, non-receptor-type 22(PTPN22),cytotoxic T lymphocyte-associated protein 4(CTLA4), Fc receptor-like protein 3(FCRL3),サイトカイン産生に関与するchemokine( C-C motif)receptor 6(CCR6),tumor necrosis factor alpha-induced protein 3(TNFAIP3),signal transducer andactivator of transcription 4(STAT4),interferon regulatory factor 5(IRF5)などが報告されており1),RA は多因子遺伝の疾患と考えられる. RA におけるHLA の重要性を示すものとして,リウマトイド因子(rheumatoid factor;RF)が挙げられる.RF は変性した免疫グロブリン分子に対する自己抗体であり,RA の約80%が陽性となることから古くから診断に利用されている.しかしながら,変性した免疫グロブリン分子がどのようにして生体内に産生されるかが不明であった.このメカニズムが解明され,細胞内で免疫グロブリンの重鎖タンパクが主要組織適合抗原と結合して概念と定義細胞表面に出現すること,この変性抗体/主要組織適合抗原複合体はRA 患者の滑膜に特異的に存在し,細胞表面上の変性抗体/主要組織適合抗原複合体がRA 患者の自己抗体に認識されることが判明した2).HLA-DR4 は変性抗体と結合しやすく,自己抗体の標的抗原を産生しやすい.変性タンパクと主要組織適合抗原の分子複合体が自己抗体の標的となり,RA の発症にHLA が深く関与していることを示している. 抗CCP 抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody)をはじめとする抗シトルリン化タンパク抗体(anti-citrullinated protein antibody; ACPA)は,診断に有用のみならずRA の病態と密接に関連した自己抗体と考えられている3).抗CCP 抗体は,RA 発症以前より陽性化し,抗体価が高いほどRA 発症までの期間が短く,またACPA 陽性RA は陰性RA よりも病状が重い.前述のSE は,ACPA の産生とも強く関連している. 一方,RA は遺伝要因のみでは発症に至らないことが,一卵性双生児の研究から判明している.RA 発症に至る環境要因としては,感染,喫煙,性ホルモン,ビタミンD 摂取不足,BMI 高値などが知られている.感染については歯周病の関与が報告されており,RA患者は歯周病の罹患率が高く,歯周病の病原体に対する血清抗体価の上昇や歯周病の治療によりRA の活動性が低下することが示されている.最近の報告においても,PADI を発現する歯周病菌(porphyromonas gingivalis)のPADI に対する抗体価が日本人RA 患者において上昇しており,その抗体価が血清抗CCP 抗体価と正の相関を示すことが報告されている4).また,喫煙はACPA 陽性RA ではリスク因子となるが,ACPA 陰性RA では影響を与えないことがわかっている. ACPA によるRA の発症メカニズムの仮説を示す(図1-1).RA になりやすい遺伝素因をもったヒトの肺,歯肉,扁桃などさまざまな組織に外傷,ウイルス感染などが起こることで最初の炎症反応が生じる.大量の死細胞が生じるとクリアランス障害が惹起され,図 1-1 ACPAによるRAの発症メカニズムの仮説(文献3 より引用,一部改変)肺,歯肉,扁桃など関節滑膜組織破壊最初の炎症反応炎症細胞死シトルリン化細胞死死細胞のクリアランス障害炎症性メディエータークリアランス障害PADI 活性化細胞外DNA トラップ形成細胞内外タンパクのシトルリン化クラスⅡ HLA によるシトルリン化抗原提示クラスⅡ HLA によるシトルリン化抗原提示ACPA 産生免疫複合体形成ACPA抗体親和性の増大PADI 活性化