ブックタイトル循環器診療のロジック

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概要

循環器診療のロジック

総論冷汗を伴う場合は2と報告されている. 弁膜症や先天性心疾患の診断における心臓の聴診の重要性は言うまでもないが,心臓の聴診を正しくできる医師はかならずしも多くない.それは,過剰心音や心雑音の発生機序を理解していないからである.Ⅲ音やⅣ音,Graham-Steel 雑音が聞こえたら何を考えるべきか.僧帽弁閉鎖不全と三尖弁閉鎖不全の心雑音を鑑別するにはどうしたらよいのか.心不全であればⅢ音ギャロップと丸暗記するのではなく,Ⅲ音の発生する機序を理解し,左室収縮機能低下 →左室拡大 → 僧帽弁テザリング → 僧帽弁逆流 → Ⅲ音発生と,論理的に理解すべきである.Ⅲ音の心不全に対する感度は13%と高くないが,特異度は99%であり,聞こえた場合は間違いなく心不全である. 各種の検査結果を解釈するうえで,その検査の感度と特異度を知っておくことも重要である.たとえば心臓サルコイドーシスの場合,心筋生検で類上皮細胞肉芽腫が見つかればその診断はかなり確実であるが,見つかる可能性は10%ほどといわれている.血中アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性の上昇もよく知られているが,心臓サルコイドーシスで上昇するのは3割ほどであり,上昇していないからといってサルコイドーシスを否定することはできない.BNP が1,000 pg/mL であれば明らかに壁応力が上昇しており心機能が異常であろうが,100 pg/mL程度の場合は,心房細動や腎機能障害による場合もあれば,BNP 値を指標として心不全を診断した場合の陽性的中率は60%なので何の異常も認められないことも多い.検査結果の検討を単に陽性・陰性や増加・低下で済ますのでなく,その検査値で何をどのくらいの確度で言えるのかを,つねに知っておくことも重要である. 本書は循環器専門医が知っておくべき循環器疾患をほぼ網羅している.今日の循環器診療においては,検査ならびに治療技術の発達によって,その種類は多岐にわたり,知っておくべき事項も増加の一途をたどっている.また,各疾患の病態および機序をしっかりと学んでいたとしても,臨床で出合う症例はかならずしも教科書に示されていたとおりの臨床像で現れるものや,典型的な経過をたどるものばかりではない.実臨床では症例を疾患の知識に当てはめていくのではなく,症例にあわせて柔軟に知識を応用していく必要がある.目の前にしている患者の疾患はいったい何であるのか,どのように検査を進めていけばよいのか,複雑な所見を紐解いていくために求められるのは,知識だけではなく,知識を活用するためのロジカルな思考プロセスである.本書は,読み進むうちに自然に診療における洞察力と問題解決力が身につくように考えた実践的なテキストである.実際に患者を診療しているつもりで読んでいただき,ロジカルな思考プロセスを楽しんで学んでいただければ幸いである.(小室一成)循環器診療のロジックを臨床で活用する 3