ブックタイトル多職種カンファレンスで考える心不全緩和ケア
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多職種カンファレンスで考える心不全緩和ケア
序 「チーム医療」という言葉が,医療の根本的な在り方をあらわすキーワードとして重要視されている.近年,医学の知識は指数関数的に増加しており,それに伴い医療体系は少し前の時代と比べ物にならないほど高度化,専門化,複雑化している.患者のニーズも多様化しており,一人の医師が必死に努力しても最善の医療実現にはほど遠い. 医療現場では医師,看護師,薬剤師,理学療法士,栄養士,医療ソーシャルワーカーなどさまざまな職種が従事している.それぞれが高度な知識と技術を持った専門職であり,患者へ質の高い医療を提供するために自らの専門性を発揮しようと努めている.「チーム医療」は「多職種連携」と言い換えることができるが,リアルな臨床の場では,各職種それぞれの技量よりも,個々の職能を連携しながら十分に生かせる環境の方が重要である.実際,連携が乏しいために各職種が提供し得る最善の医療を患者に実践できないことをしばしば耳にする. 本書は,多職種連携が殊更に必要と考えられる,心不全緩和ケアの領域に焦点をあて,多職種カンファレンスを通していかにチーム医療を実践するかの手引きである.第1 章では総論として,心不全緩和ケアの一般的な注意点,特に各職種がどのような役割を持って患者に臨むか,また心不全の緩和ケアでいかなる問題に直面し対応するかを概説した.第2 章では,心不全治療の過程でしばしば遭遇する問題点について,どのように多職種カンファレンスを展開し,問題解決にむけて各職種が協力していくかを,具体的な事例を挙げながら対応策を提示した. 本書の執筆は,2013 年より活動している国立循環器病研究センター緩和ケアチームのメンバーによりなされている.当センターは循環器疾患の克服を使命とし,難治性重症心不全に対して積極的治療を展開することを基本骨格とする.一方,積極的治療には患者や家族の「苦痛」を強いる場合も少なくなく,当センター緩和ケアチームは,積極的治療の基本骨格を維持しながら最善の苦痛緩和を提供することを目的に結成された.積極的治療と苦痛緩和という,一見親和性の低い2つの医療行為を同居させることは想像以上に難しく,多職種で試行錯誤し,悩みながら意見を交わし合った.本書,特に第2 章の多職種カンファレンスの各項は,そうした多職種の試行錯誤の過程を綴ったものであり,多くの症例を通してチームが学んだことをありのまま記載している. 最後に,本書ならびに当センター緩和ケアチームの活動に関わったすべての方々のご理解とご協力に深い感謝を申し上げるとともに,本書が心不全診療を実践する医療従事者にとって有益な情報源になることを祈っている. 2017年3 月菅野 康夫