ブックタイトル脳卒中病態学のススメ

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概要

脳卒中病態学のススメ

序高血圧や心房細動などの脳卒中の危険因子に対する治療により,脳卒中による死亡者数は大きく減少した.しかし脳卒中は後遺症が生じることが多く,寝たきりの原因の第1位,医療費の1割を使用している状況である.しかも高齢化が進行し,日本人の2人に1人が脳卒中を罹患する時代に突入した.すなわち,脳卒中の治療薬開発は喫緊の課題であり,事実,他の神経疾患と比べても多くの臨床試験が行われてきた.その背景の一つとして,脳梗塞では,他の神経疾患,例えば病態機序のわからない神経変性疾患などと比較して動物モデルが作製しやすく,in vivo での実験を行うことができたことがあげられる.実際に,多くの脳虚血に対する神経保護薬候補が動物実験により見いだされたが,ほとんどの薬剤は臨床試験においてその効果を見いだすことができなかった.その原因は動物モデルとヒトの臨床との相違に関する理解不足や,動物モデルが厳密なデザインのもと行われなかったことが考えられる.さらに,臨床への応用を目指したトランスレーショナル・リサーチに関する知識や経験も圧倒的に不足していた.創薬を実現するためには,治療標的分子の適切な決定,ヒトの臨床を反映する動物モデルの確立,知的財産の獲得,産学連携の実現,臨床試験の成功,レギュラトリーサイエンスの理解といった多くのハードルを乗り越える必要がある.つまり,創薬は基礎研究者や臨床医のみでは実現不可能で,さまざまな領域の多くの専門家を巻き込み,みんなで目標に向かって取り組みを進めるという「チームとしてのつながり」が必要となる.そしてそれぞれのチームによる成功例や失敗例から得たノウハウを共有し,さらにそれを糧にして,新たな創薬にチャレンジし,次の世代に引き継いでいく必要がある.このたび,脳卒中の病態と創薬に関する最新の情報を網羅し,さらに経験やノウハウを共有することを目的とした書籍を企画した.脳卒中の病態を学びたいと考えている臨床医は私の知る限りとても多いことから,分かりやすい記載を各著者にお願いした.脳卒中病態学の知識は,日々の臨床においても有益であり,その意味で,ぜひ臨床医の先生方にお読みいただきたいと思う.さらに本書は,基礎医学からトランスレーショナル・リサーチに至るまで広範囲の内容を網羅しており,若手研究者から専門家に至るまで活用できる内容になっている.また,脳卒中での創薬の取り組みは,その他の領域の創薬研究の絶好の参考となるため,創薬を志す他の領域の研究者にもお読みいただき,意見を交換したいと考えている.編者は若輩であり,本書の企画に際して力不足を感じたが,将来の脳卒中治療をわが国から発信するために,全力でより良い書籍を作ることに取り組んだ.ご協力をいただいた著者としては,本領域を牽引してきたエキスパートの先生方に加え,2013 年より脳循環代謝学会や脳卒中学会の学術総会において,「若手脳循環代謝研究者の会」と称して会合を行い,熱い議論を戦わせてきた同志のメンバーにご執筆いただいた.本書の趣旨に賛同し,熱のこもったお原稿をご執筆くださった著者の先生方,そしてより良い書籍にするために熱心に支援してくださった南山堂の古賀倫太郎氏,小池亜美氏に感謝申し上げたい.2018 年 1月下畑 享良