ブックタイトル非がん性呼吸器疾患の緩和ケア
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非がん性呼吸器疾患の緩和ケア
1A 緩和ケアにおける動向(1)末期がん患者への緩和ケアとしての発展死に行く患者の状態についての最初の報告はWilliam Osler による(1906 年)とされている.彼は500 名の死にゆく患者のうち,90 名以上(18%)が1 つ以上の痛みや苦痛を感じ,11 名が精神的不安を,2 名が強い恐怖心を,1 名が霊的な狂喜を表し,1 名は深い後悔を示していたが,逆に多くの人には苦痛がなかったと報告 1)した.おそらく,当時は,現在のようにがんや慢性疾患による死亡は少なく,緩和ケアのニーズも限られていたのであろうと推測される.その後,死に行く患者の問題についての報告はほとんどなかったが,1961年に,Exton Smith が220 名の高齢末期患者のうち,30 名(13. 6%)は中等度から強い痛みを,17名は他の身体的苦痛を持っていたことを報告 1)した.非がん疾患の緩和ケアのニーズを示した最初の論文は,John Hinton による死にゆく人達のニーズについての報告 1() 1963年)であった.彼はこの論文の中で,初めて非がん疾患患者もしばしば強い身体的苦痛を感じていることを明らかにした.その後,英国ではCicely Saunders が,1967 年にSt. Christopher’s Hospice を創設,現代ホスピスの理念と運動を確立した.彼女は末期がん患者に対しての経口医療用麻薬による鎮痛法を開発したことでも知られているが,ここから始まるその後の英国のホスピス・緩和ケアの実践のほとんどは末期がんを対象としたものとなる.WHOは1986年に,誰でもできる痛みの治療法を普及させることにより,全世界のあらゆる国に存在するがん患者を痛みから解放することをめざして,「がん性痛緩和のガイドライン:Cancer pain relief」 2)を発表した. 続いて,英国や北米の緩和ケアの経験を総括して定式化した”Cancer pain relief and palliative care”「がんの痛みからの解放とパリアティブ・ケア─がん患者の生命へのよき支援のために─」 3)を刊行,この時WHOにより初めて国際的な緩和ケアの定義が発表された.このように,WHOはほぼ同時期に,がん疼痛治療法とともにホスピスから発展した緩和ケアの概念の国際的普及をはかったが,日本においてもちょうど緩和ケア病棟が制度化された1990 年前後に,緩和ケアの考え方はがんの苦痛緩和法と一体的に導入されたこともあり,日本では緩和ケアという言葉は末期がんに対してのみ使われることとなった.1990 年のWHO の緩和ケアの定義では「緩和ケアとは,治癒を目指した治療が有効でなくなった患者に対する積極的な全人的ケアである…」とされている.この定義では,緩和ケアが,病気が治らない状態,末期状態にならないと受けることができないという誤解を生む可能性があった.また,疾患を限定しているわけではないが,その文章と歴史的経緯非がん性呼吸器疾患の1 緩和ケアを巡って