ブックタイトル非がん性呼吸器疾患の緩和ケア

ページ
3/12

このページは 非がん性呼吸器疾患の緩和ケア の電子ブックに掲載されている3ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

非がん性呼吸器疾患の緩和ケア

2  1.非がん性呼吸器疾患の緩和ケアを巡ってから考えて,緩和ケアががんのみを対象にしている印象を強く与えるものであった.つまり,90年代までは,欧米においても,日本においても,緩和ケアの主たる対象は末期がんであった.英国においても,1994?95 年当時,ホスピス緩和ケアを受けている患者の96%以上ががん患者であり,非がん疾患患者は新規患者の3. 4%,在宅患者の3. 7%にすぎなかった 4).また,米国のホスピスプログラムにおいても,90 年代当時は対象者の約75%が末期がん患者であった.当時欧米の緩和ケア先進国において,おそらく最も悲惨な人の死はがんによるものであり,末期がんの患者は医療や看護が最も優先的に手を差し伸べるべき対象であったというのも事実であろう.90年代まで世界中で,緩和ケアががんを中心に発展したのは,緩和ケアの歴史を俯瞰すると必要なプロセスであったかもしれない.(2)欧米における非がん疾患への緩和ケアの広がりこのように90 年代はがんを中心にした緩和ケアが世界的に広がっていく時代であったが,一方で高齢化の進行や慢性疾患の増加という背景の中で,医療や看護が優先的に手を差し伸べるべき対象ががんだけではなくなってきた時代,つまり,緩和ケアのニーズが非がん疾患に広がってきた時代でもあった.1990年代より英国や米国を中心に,緩和ケアの対象疾患として,がんだけを想定することに対しての疑問が表明されるようになった.1992年に「緩和ケアは,診断名に関わらず,緩和ケアサービスを必要としているすべての人に提供するべきである」とする報告書が英国の保健省に提出された.しかし,これに対して,当時の英国の緩和ケア専門家からいくつかの懸念が表明された.1つは,非がん疾患患者に緩和ケアの門戸を広げることにより,緩和ケアの需要過多に陥ることへの懸念であった.とりわけ,非がん疾患は予後予測が難しいため,結果的にホスピスに長期入院患者が増加することが懸念された.また,当時英国において緩和ケアはその財源の多くをチャリティに依存していたが,がん患者のために集めたお金をがん以外の方のために使うことへの疑問もあった.しかし,最も本質的な問題は,そもそも非がん疾患の患者がどのくらい緩和ケアを必要としているかというエビデンスがないことであった.そこで,非がん疾患患者の緩和ケアニーズを検証するために大規模な研究,RegionalStudy of Care for the Dying(RSCD) 5)が行われた.これは,20の地域から3, 533 の死亡例(がん症例2, 062例,非がん疾患1, 471例)を無作為に抽出し,死亡前の症状の数,疼痛の出現頻度や程度,呼吸困難,嘔気・嘔吐,など様々な苦痛の出現頻度,本人家族が死を予測していたかなどを詳細に調べた大規模な遺族調査であった.このRSCDによって,非がん疾患患者も,死亡前(1年間および1週間)に,多くの苦痛を体験しており,その苦痛の頻度はがんと比べても決して少なくないことが明らかにされた.英国ではこの研究が非がん疾患の緩和ケアを推し進める大きな契機になった.なお,このRSCDにおいてはCOPD末期の苦痛についての検討もなされている.これによると,肺がん患者とCOPD患者において,最期の1 年および1週間においてCOPD 患者の方が呼吸困難を感じている患者が多いこと,苦痛を長期間経験していることが示されている.このような流れを受け,英国ホスピス・専門的緩和ケアサービス協議会とスコットラン