ブックタイトル事例・症例に学ぶ 栄養管理 改訂2版
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事例・症例に学ぶ 栄養管理 改訂2版
8術前・術後基本はじめに 消化管手術の対象となる患者は,しばしば入院時にすでに蛋白質・エネルギー低栄養状態protein energy malnutrition:PEM に陥っている.術前の栄養状態は,術後の侵襲度1),創傷治癒過程や予後を左右する2).周術期の身体変化は急激かつ多様であり,すでに手術前からストレスホルモンである副腎皮質ホルモンの分泌が亢進し,術後にはさらにカテコールアミンやさまざまな炎症性サイトカインが分泌されて,蛋白質,糖質,脂質,ミネラルなどの代謝に影響を及ぼす.順調な術後の回復には原疾患,術前の栄養状態,個々の手術部位や術式による影響を十分に理解し,手術侵襲の程度および生体の代謝変動に即した適正な栄養療法が望まれる. 消化管手術は,内視鏡視下,開腹手術に大別される.ここでは開腹による胃および大腸切除術の周術期の栄養療法について概説する.栄養療法の基礎知識周術期の栄養評価 術前に摂取栄養量,食事形態,生活活動,自覚症状,皮膚所見,身体計測,血液検査結果などにより栄養評価を行い,適切な栄養療法計画を作成して,手術の早期実施を図り,低栄養に起因する術後の感染症や縫合不全などを予防する.周術期の栄養評価には急速な変化を迅速かつ鋭敏に把握できる指標が要求され,種々の指標が提唱されているが,著者等は簡便な指標として,平常時からの体重減少率,Alb,nutritionrisk index:NRI3) およびprognostic nutritionalindex:PNI4)(表2)を用いている.プレアルブミン(トランスサイレチン),レチノール結合蛋白,トランスフェリンなどの有用性が論じられているが,測定できる施設は限られる.各種指標の特徴や限界を知り,病態や状況に応じて選択する.侵襲度の評価 侵襲度の把握は,侵襲の程度に応じた栄養量の設定などの,基本的な栄養療法計画に必須である.一般的な指標として手術時間,出血量,切除部位があげられるが,いずれも手術自体の侵襲度の評価であり,術後の回復過程では合併症の発生などにより侵襲度は変動する. CRP は非特異的炎症反応のマーカーとして広く使用されているが,胃・大腸切除術後においても急速に上昇し(図1),術後2日にピークを示し,以後漸減し,侵襲度をよく反映している5). 全身性炎症反応症候群systemic inflammatoryresponse syndrome:SIRS6)は,侵襲によって非特異的な全身的炎症反応が惹起される状態のことであり,診断項目である体温,脈拍数,呼吸数あるいは PaCO2,白血球数が所定の基準を2つ以上満たしたときにSIRSと診断される(表2).著者等はこの中から体温,脈拍数,呼吸数,白血球数を選び,さらに細かい段階に分けて数値化したSIR スコア7)を提唱している.SIR スコアは手術直後にピークを示し,CRPよりも術後の生体反応を瞬時に反映する(図1).項目も簡易であり,鋭敏な指標としてベッドサイドでのリアルタイムの侵襲度評価に導入している.CRPもSIRスコアもともにMoore8)の術後回復過程をよく表している(表3).術前・術後の栄養療法可児富子●Kani Tomiko元 熊本県立大学 環境共生学部 食健康科学科