ブックタイトル子どもの風邪
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子どもの風邪
31 なぜ食い違うのか 子どもの風邪は最も頻繁に遭遇する健康上のトラブルであり,小児科医にとってきわめて重要な疾患であるといえます.しかし,ほとんどの小児科医は“風邪”診療の教育を受ける機会がなかったのが事実ではないでしょうか.できれば風邪診療は避けて通りたいものと考える小児科医も少なくないと思います.その理由の1つとして,風邪診療は疾患の重篤度のわりに手間がかかり,またその後のトラブルが多いことがあげられます. たとえば,次の症例はどうでしょう?患 児 2歳0ヵ月,女児主 訴 発熱,咳嗽生活歴 兄弟はいない.2 ヵ月前に近くの保育所に入所した現病歴 1 週間前から鼻汁と咳嗽が続き,昨晩から発熱したため,母親と来院.夜間の最高体温は39 .1℃だった.夜はぐったり感があったが,朝になり徐々に元気が出てきた.朝食は普段の半分くらい.水分はやや摂りにくそうにしている既往歴 特記すべきことなし来院時現症 身長88.8cm(+1.45SD),体重13.2kg(+1.54SD),体温37 .9℃,その他のバイタルは異常なし.意識レベルは清明で,大きな声で泣く.咽頭粘膜は正常.鼻腔は膿性鼻汁多量.中耳は軽度の膿性貯留液がみられるが,鼓膜の腫脹はない.胸部聴診では異常なし.心音は整.腹部は平坦,軟.髄膜刺激症状は認めない 保育所などの集団生活では,上気道感染症を繰り返すことになります.このような子どもが来院することは多いでしょう. 診察医はどう判断するでしょうか? 発熱1 日目であり,全身状態も重篤ではない.“風邪”と診断してよいかもしれません.実際にそのように保護者に伝える小児科医は少なくないと思います. 治療はどうするでしょう? 医学の教科書には風邪に効く薬はなく,対症療法しかないと記載されています.近年出版されたさまざまな風邪診療の本やガイドライン,論文には,対症療法の投薬さえすべきではないと書かれてい