ブックタイトル下肢臨床症候の診かた・考え方

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概要

下肢臨床症候の診かた・考え方

107思春期・成人の診かた編 膝関節・下腿部Ⅱshift,Slocum,Losee,N テストなどの多くの手技が報告されている.ただしこれらは本質的には同じ現象を観察するものであり,診察にあたっては,この中の一つが適切に行えれば,診断の目的は達せられる.以下,各項目別の診察評価の要点を述べる.1. 可動域可動域の測定と評価は角度計を用いて行うが,10°以下の範囲(患者と健側との差)になると正確な再現性は期待できず,客観的に評価することは難しい.伸展については,術後の軽度の伸展制限や靱帯機能不全による過伸展は,腹臥位での踵の高さの左右差HHD(heel height difference)で,評価すると正確な評価が可能である.1 cm の差は,概ね1°の可動域の左右差に相当する(図4) 2).2. 筋力,筋の萎縮・柔軟性筋力評価結果は,徒手筋力テストによって記載するが,伸展筋力低下に対しては,extension lag(自・他動最大伸展角度の差)も指標となる.より詳細な定量的評価には,器械を用いた筋力の測定が行われる.筋萎縮については通常,膝蓋骨上端より10 cm の部位での大腿周囲径の左右差が指標となる.伸・屈側の筋腱の柔軟性の評価については,屈側では仰臥位股関節90°屈曲位としたときの膝関節伸展制限の有無,伸側では腹臥位膝関最大屈曲時の踵と殿部の距離を観察する(図5).3. 関節不安定性(靱帯機能不全)の評価各テストの手技は,膝関節に一定方向のストレスを加えた際の,大腿骨脛骨間の相対的な動きを徒手的に評価するものである.この際,必ず健側との比較を行うこと,加えたストレスによる動きの大きさ(骨の移動距離)と同時に,最終的な抵抗感(end point)を確認することが重要である.不安定性のある場合のテスト結果は,その程度により1+?3+の3 段階で記載する.?内側側副靱帯損傷(機能不全)外反ストレステスト:最大伸展位と,軽度屈曲位で外反ストレスを加える.この際,患者を仰臥位とし,足関節を前腕と腰の間で支え,ストレス下での関節裂隙の開大の程度とend point を評価する(図6,動画6).左右差のある場合を陽性(不安定性あり)とする.内側側副靱帯単独損傷では,軽度屈曲位で陽性になるが,最大伸展位では通常陰性である 3).伸展位においても不安定性が認められた場合は,他靱帯(前・後十字靱帯,後内側の靱帯・関節包など)の合併損傷を疑う.?後外側支持機構損傷(機能不全)関節外後方の支持機構として,外側側副靱帯,膝窩筋腱,弓状靱帯複合体などがあるが,これら図3  診察用ベットの設定診察室ではベッドを壁から離して,左右両側から膝関節評価を同じ条件で行うような設定が必要である.図4   heel height difference による伸展角度左右差の評価腹臥位でベッドの端に膝レベルがくるようにし,踵の高さの左右差をみる.1 cm の差は,約1°の可動域の左右差に相当する.