ブックタイトル上肢臨床症候の診かた・考え方

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概要

上肢臨床症候の診かた・考え方

78第3 章 肩関節・上腕部の臨床診断各論1.腱板断裂(小?中断裂)問診(臨床経過)49 歳男性.スーパーマーケット従業員.利き腕は右.仕事中に濡れた床で足を滑らせ,右手をついて転倒し受傷した.今回のエピソードより以前に右肩に疼痛があったことはなかった.受傷直後から右肩に激痛を生じ,肩の自動挙上は困難となった.2?3 日の経過で徐々に肩の挙上は可能となったものの,右肩の疼痛が続き受傷後1 週で外来を受診した.初診時,右肩の安静時痛,夜間痛は軽減していたが,肩の動かし方によって肩に疼痛を生じるとの訴えがあった.ポイント 腱板断裂は40 歳以上に多く,年齢とともに頻度が上昇する.高齢者では腱板の変性を基板としてわずかな外力でも断裂が生じるが,若年者の場合は強大な外力や投球動作などの繰り返しによって断裂が生じる.断裂は棘上筋腱から発生することが多く,経過により徐々に棘下筋腱や肩甲下筋腱へと断裂が拡大していく.問診でポイントとなるのは外傷の有無,急性か慢性か,疼痛の詳細(安静時痛や夜間痛の有無,疼痛を生じる肢位や動作),職業やスポーツ活動の有無などである.視 診右肩関節に腫脹,発赤は認めず,肩周囲の筋に筋萎縮も認めなかった.ポイント 腱板断裂で関節水腫が多量に貯留した場合には肩に腫脹を認めることがあるが,同時に熱感,発赤など認めた場合には化膿性肩関節炎や偽痛風などを疑う.陳旧性の腱板断裂の場合には棘上筋や棘下筋に筋萎縮を認めるが,萎縮が高度な場合や広範な筋に萎縮を認める場合には鑑別として頚椎疾患なども考える.身体所見肩関節可動域は屈曲外転方向には軽度の制限を認めたが,内外旋は保たれていた.自動外転の際,外転90°付近で肩に疼痛を認めた(painful arcsign 陽性).肩外転筋力の低下を認めたが,外旋筋力は保たれていた.肩インピンジメント徴候が陽性であった(図1).ポイント 腱板断裂例では断裂した腱に応じて肩の筋力低下が生じる.また肩の動作時に腱板断端が肩峰下で引っかかったり,上腕骨頭の求心位が取れずに肩峰下に衝突したりすることで肩に疼痛を生じる( インピンジメント徴候).肩峰下滑液包内に局所麻酔剤を注入することによってインピンジメント徴候が消失すれば,腱板断裂がさらに強く疑われる(インピンジメント注射テスト陽性).中・高齢期図1  Neer のインピンジメント徴候肩甲骨を固定したまま肩関節を前方屈曲し,肩に疼痛が誘発されれば陽性である.肩インピンジメント症候群や腱板断裂で陽性となる.