ブックタイトル抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の診療ガイドライン

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概要

抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の診療ガイドライン

50第3章 実際の臨床で役立つ知識抗リン脂質抗体症候群(APS)は,抗リン脂質抗体(aPL)と関連する自己免疫血栓症および妊娠合併症と定義される.aPLはリン脂質あるいはリン脂質とタンパクの複合体に結合する自己抗体の総称であるが,APSと関連するaPLの主な対応抗原はβ2-グリコプロテインⅠ(β2GPⅠ)とプロトロンビンである.APSは獲得性血栓傾向の原因としては頻度の高い病態の一つとして認識され,臨床上重要な位置を占めている.現在のAPS の国際分類基準案は,札幌クライテリア・シドニー改変 1)とよばれている(p.13 表2-1参照).疾患を定義するaPL の多様性から,その検出の標準化が困難であること,すなわち何をもってaPL 陽性とするかが統一されていないことがAPS 診療の大きな問題である.また,クライテリアにある「12週間隔をおいて2 回陽性」という記載は,まったくエビデンスに基づくものではなく,急性感染症による一過性のaPL 陽性患者が臨床試験にエントリーされないようにするための「約束ごと」である.aPL 測定の意義は,APS あるいはaPL 関連疾患を診断することである.全身性エリテマトーデス(SLE)の分類基準にaPL陽性があるが,それはAPSがSLEの主要な合併症(もしくは一部分症)として認識されているためで,aPLはあくまでAPSのマーカーである.近年は,診断マーカーであると同時にaPL のプロフィールが血栓や妊娠合併症のリスクであるという認識が高まっている.ELISA などの免疫学的アッセイで測定するaPL とループスアンチコアグラント(LA)はまったく独立したものではなく,同じ性質を持つ自己抗体(群)を異なった手法で検出するものである.これらの検査を効率よく日常臨床に利用できるように整理する必要がある.1.抗カルジオリピン抗体一連のaPLの測定法のなかで,抗カルジオリピン抗体(aCL)は最も早くに確立された免疫学的なaPLの検出法である.当初はリン脂質であるカルジオリピンがaCLの直接の対応抗原と考えられていたが,現在ではAPSと関連したaCLと,B細胞過活性化を伴う膠原病(APS を合併しないSLE やシェーグレン症候群)や感染症患者にみられる非特異的なaCLは,真の対応抗原の違いにより区別されうることがわかっている.すなわち,APS患者に検出されるaCLはカルジオリピンと血漿タンパクであるβ2GPⅠとの複合体に結合しており,しかもその結合エピトープはβ2GPⅠの分子上に存在する 2).世界にaCL の測定キットは数多く存在し,対応抗原のソースもキットごとにさまざまである.測定系のなかでβ2GPⅠはブロッキング溶液やサンプル希釈液に含まれるウシあるいはウサギなどの血清β2GPⅠ,あるいは患者血清サンプルに含まれる自1 日常診療のための抗リン脂質抗体検査