ブックタイトルEPDS活用ガイド

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概要

EPDS活用ガイド

 女性のライフサイクルの中でも,産褥期はうつ病が発病しやすい時期であるということが1960年代から指摘されてきました.そして,産後うつ病に罹患して未治療のままに放置されると,母親自身の精神的健康に大きな影響を与えるのみならず,子どもの心身の発達にも影響を及ぼすことが指摘されました. 1980年代になると,周産期のメンタルヘルス(周産期精神医学)という新しい専門領域の基盤が整備され,Marce Societyという国際的な学会が設立されます.こうした背景のもと,産後うつ病専用のスクリーニングテストであるエディンバラ産後うつ病自己調査票(EPDS)が,イギリスの精神科医Cox教授らにより1987年に開発されました.日本でも1996年に,われわれが日本語版を作成し,国内の母子保健行政(特に新生児訪問時)を中心に普及しました. しかし,実際の臨床現場では,EPDSの使い方とその後の対応に苦慮することが多くありました.そのためCox教授は,助産師HoldenとともにEPDSを用いたスクリーニングのための具体的な解説本〔PerinatalMental Health: A Guide to the Edinburgh Postnatal DepressionScale (EPDS)〕を2003年に出版します.この解説本は,幸運にも2006年に南山堂のご厚意からわれわれが翻訳し,「産後うつ病ガイドブック EPDSを活用するために」というタイトルで出版しました.ただし,この解説本はイギリスの医療保健システム(NHS)を基盤にして構成されていたため,日本の母子保健のシステムに携わる保健師らはじめにには使いづらいという一面がありました. 2017年4月,周産期メンタルヘルスに対して国が大きく動きました.厚生労働省母子保健課は,産婦健康診査事業の実施にあたって,うつ病の把握にEPDSの使用を推薦し,問診・診察から総合的にうつ病を発見すること,さらに精神科の専門医との連携強化を重要課題として産婦人科医に通達しました.つまり,従来の保健師らによる新生児訪問時に主に使用されていたEPDSを,産後健診時の医療機関でも配布して,産後うつ病の有無をスクリーニングすることになったのです.産後健診におけるこの新たな課題に対して,数多くの助産師,産婦人科医は困惑しました.さらに,区市町村側もどのように指導してよいのか十分に把握しない中での見切り発車となってしまいました. このように混乱した状況に対して,日本の医療保健制度に合致した,EPDSによるスクリーニングの解説本「EPDS活用ガイド」を作成することを宗田聡先生とともに発案しました.運よく南山堂のご厚意もあって,早急に出版することができました.本書は従来のガイドブックにみられるような固い解説ではなく,医療現場で読むトリセツ(取り扱い説明書)のように簡潔な表現と易しい内容に特化しています.今後,日本の周産期メンタルヘルスに対する産婦人科医,助産師,保健師ら諸氏の活用を期待しています. 最後に,できるだけ簡易な表現で,かつ短期間での編集にご指導をいただいた南山堂の窪田雅彦様,山田歩様はじめ皆様にお礼を申し上げます.  2017年9月岡野禎治