ブックタイトルまるわかり創傷治療のキホン

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概要

まるわかり創傷治療のキホン

創傷とはいわゆる「きず」や「けが」のことであり,日常的で頻度が高い.それゆえ,創傷を早くきれいに治すことは社会的ニーズである.創傷の治療に対する関心は近年高まってきており,2008年には「日本創傷外科学会」が設立され,創傷に対する最新の評価法や治療法などが議論されている1).創傷とは機械的な外力,あるいは内的要因によって生じた皮膚損傷のことである.創傷の「創」は皮膚や粘膜の一部が開放性に離断を来しているものであり,「傷」は皮膚の連続性が保たれた非開放性の損傷である.皮膚損傷について言えば,「擦りきず」や「やけど」は「傷」であり(それぞれ擦過傷,熱傷),「切りきず」は「創」である(切創).ただし,この分類はしばしば分かりにくいこともあり,2者をまとめて指す呼称が「創傷」である.創傷にはさまざまな種類があるが,創傷の形態に基づく,切創,割創,裂創,挫創,剥皮創,刺創・杙よく創そうなどの分類がよく用いられる(表2-1).擦過傷擦過傷とは地面や道路などに皮膚が擦りつけられてできた,いわゆる「擦りきず」のことである.摩擦熱による熱傷を合併することもある.多くの場合は皮膚の損傷の程度は浅いため,速やかに治癒が得られる.切 創切創とは鋭利な刃物(包丁やナイフなど)により皮膚が切られてできた,いわゆる「切りきず」のことである.創面はきれいで創周囲の組織の損傷はわずかである.手や指に多い.創傷の分類第2章急性創傷1 創傷とはⅠ 小外傷16熱傷とは,火炎や高温の個体,高温の液体などによって生じる熱による皮膚組織の損傷である.損傷の程度は,温度と接触時間による.湯たんぽなどで45 ℃くらいの比較的低い温度でも,長時間接触していると組織の損傷が生じる(いわゆる低温熱傷).高温では1秒以内でも組織の損傷が生じる.広範囲の熱傷では全身性の炎症反応や感染により,局所の損傷のみならず,時には生命の危険すらある.広範囲熱傷は特殊な輸液療法をはじめ,呼吸・循環・栄養・感染の管理が必要なため,専門施設での治療が必要である.創傷の治療は自身の皮膚を移植する植皮術が中心となるが,広範囲熱傷において自身の皮膚が不足する場合は,スキンバンクからの屍体皮膚移植や自身の表皮細胞を細胞培養して増殖させた培養表皮(ジェイス?)の使用が必要となる.重症度の診断には種々の指標があるが,熱傷面積,熱傷深度,気道熱傷などの合併損傷の有無,年齢,基礎疾患の有無から重症度が決定される.熱傷面積(%Total Burn Surface Area),Burn Index(BI),Prognostic Burn Index(PBI),Artzの基準などの指標がある(表2-3,2-4).熱傷面積熱傷を受けた範囲の広さは体表面積に対する割合(%)で表される.計算方法には,簡易的には9の法則や5の法則が用いられる(図2-38).本人の手掌が1%に相当することから,これを用いても面積の算定を行える(手掌法).さらに詳細に面積を計算するにはLund and Browderの図表を用いる.9 の法則(成人):頭部9%,上肢それぞれ9%,体幹前面18%,診 断1 熱傷とはⅡ 熱傷表2-4 Artzの基準重症熱傷(総合病院,専門施設での入院加療を必要とするもの)①Ⅱ度熱傷で30%以上のもの②Ⅲ度熱傷で10%以上のもの③顔面,手,足の熱傷④気道の熱傷が疑われるもの⑤軟部組織の損傷や骨折を伴うもの中等度熱傷(一般病院での入院加療を必要とするもの)①Ⅱ度熱傷で15 ~ 30%のもの②Ⅲ度熱傷で10%以下のもの軽度熱傷(外来通院で治療できるもの)①Ⅱ度熱傷で15%以下のもの②Ⅲ度熱傷で2%以下のもの● BI:熱傷指数Ⅱ 度熱傷面積(%)×1/2+Ⅲ度熱傷面積(%)BI 10 ~ 15以上であれば重症とする● PBI:熱傷予後指数BI+年齢120 ~ 致死的熱傷で救命はまれ100 ~ 120 救命率20%程度80 ~ 100 救命率50%程度~ 80重篤な合併症や基礎疾患がなければ救命可能表2-3 BIとPBI51