ブックタイトルクロストークから読み解く周産期メンタルヘルス

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概要

クロストークから読み解く周産期メンタルヘルス

2  妊娠中に生じる生理的あるいは精神的変化は,妊婦の不安やうつ病のような精神疾患に影響を与えることが知られている1).したがって,既往に精神疾患のない妊婦の場合でも,流産,死産および身体疾患によって精神的変調をきたすことが想定できる.さらに,妊娠中に施行される母体血や羊水を用いた胎児染色体検査,胎児超音波検査などによる出生前診断は,妊婦にとって精神的外傷として精神的苦痛の原因となることが知られている2 - 4). ハイリスク妊娠とは,母体に基礎疾患があるような合併症妊娠(糖尿病,高血圧症,腎疾患,自己免疫疾患,血液疾患,神経疾患,消化器疾患,精神疾患などのみならず,高齢・若年妊婦,肥満女性など)を含め,妊娠による合併症(異所性妊娠,切迫流産,流産,切迫早産,早産,前期破水,妊娠糖尿病,妊娠高血圧症候群,前置胎盤,常位胎盤早期剥離など),胎児に異常〔 形態異常(先天奇形),胎児発育不全,多胎など〕が認められ,母児に妊娠中あるいは出生後早期に医療介入が必要となる可能性が高い妊娠のことを言う.ハイリスク妊娠は,母体のストレス,不安,うつと関連し,その頻度は40%にも及ぶことが報告されている5, 6).また,ハイリスク妊娠では,妊婦の児への愛着が低下することにも留意すべきである7). 出生前診断は,妊娠中に施行される母体の血液検査や胎児超音波検査,絨毛・羊水を用いた染色体検査などにより施行されるものであり,胎児異常が発見された時点でハイリスク妊娠(母児に合併症や異常があり,治療介入が必要である妊娠)として取り扱われる.したがって本項では,出生前診断とハイリスク妊娠を一括りにして,メンタルヘルスとの関連について解説したい.胎児超音波検査による胎児スクリーニング 妊娠初期から中期における,主として染色体異常を目的とした非侵襲的出生前スクリーニング検査(胎児超音波検査)は,頻繁に行われるようになってきた.本検査は,妊婦および配偶者に精神的インパクトを与えることが知られている4).精神的インパクトの中でも不安が一番多いとされているが,検査が陰性であると軽減することも示されている8).妊娠前よりうつ病を合併している場合も同様の結果であること9),妊娠後期における妊婦の抑うつ状態は,児への愛着低下と関連することが報告されている10).したがって,胎児異常が明らかとなった場合には,母親や配偶者をサポートする体制が必要であることが示唆される.一方で,妊娠中の胎児スクリーニングは,母親の児への愛着を有意に高めることも示されている11).母親が超音波検査によりリアル出生前診断とハイリスク妊娠1 産科領域周産期メンタルヘルス概論Ⅰ