ブックタイトルクロストークから読み解く周産期メンタルヘルス

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概要

クロストークから読み解く周産期メンタルヘルス

31 産科領域周産期メンタルヘルス概論Ⅰタイムにわが子である胎児の元気な姿を知ることができるからかもしれない12). また,不妊治療として体外受精などの生殖補助技術(assisted reproductive technology;ART)により妊娠に至った症例では,自然妊娠例より不安が強いことが予想されるが,Udry-Jorgensen らはART 群と自然妊娠群における妊娠初期の胎児ダウン症に対するスクリーニング検査前後の精神状態の比較検討を行った.具体的には,妊娠初期(12 週)に胎児の後頸部液体貯留(nuchal translucency;NT)および血液検査によりダウン症のスクリーニングを行い,結果が陽性の場合,診断検査である絨毛あるいは羊水を用いた染色体検査を行う方法を実施し,14 週に最終結果を知らせるというものである.その結果,検査の前後で不安,うつ,愛着に関する指標は両群間で差を認めなかったが,ART 群で不安を認めた症例は,有意に検査後に軽減し,不安を認めた症例では,群に関わらずうつ病と児への愛着低下の頻度が高かった13).すなわち,ART 群の女性は,不安があっても検査により,不妊治療の間に思いつめた不安が解除される可能性が示唆されるとともに,妊娠中に不安を示す女性に対する支援が重要であることが示唆される.胎児異常 出生前診断により胎児の異常が発見され,その異常が両親に説明される際,医療者は先天異常による手術の可能性や新生児集中治療室(NICU)における管理の必要性,子宮内胎児死亡や新生児死亡の可能性を説明する場合がある.その際,診断の告知は両親にとって精神的外傷として影響を与えることが知られている14, 15).また,Cole らは,胎児異常を告知されると,19% の母親と13% の父親が心的外傷後ストレス症候群を生じ,23% の母親と14% の父親がうつ病スクリーニングで陽性となること,両親が若いほどそれらのリスクが高いことを報告している16). 一絨毛膜性双胎では,子宮内で二児が胎盤を共有するため,一児の胎児発育不全や子宮内胎児死亡の可能性,双胎間輸血症候群(twin-to-twin-transfusion syndrome;TTTS)が生じる可能性があり,二絨毛膜性双胎よりもそれらの頻度は高い.TTTS は,一絨毛膜性双胎の約15% に発症し,胎盤を共有する二児間で血液の供血,受血が起こり,供血児は虚血により腎不全・心不全を,受血児は多血により胎児水腫を介して心不全を生じる可能性がある予後不良な疾患である.フランスの胎児治療チームは,TTTS を合併した一絨毛膜性双胎の母親と,TTTS などの合併症を認めなかった一絨毛膜性双胎や二絨毛膜性双胎の母親に児への愛着やPTSD,不安やうつに関する調査を施行した.その結果,妊娠中のTTTS の経験がPTSD の高いリスク要因となることが明らかとなり,これらの妊婦への精神的支援が必要であることが示唆された17). 臨床現場においては,胎児異常の説明を行う際,産科医,小児科医,看護職員を含め,臨床心理士などによる多職種間のチームで対応することが望ましく,妊婦の精神状態によっては精神科医の受診を考慮する必要があろう.母体のうつ病と周産期合併症との関連 最近の10 年間のレビューによると,妊娠中のうつ病は,早産や胎児発育不全,妊娠高血圧腎症と関連することが報告されている18). 妊娠中にうつ症状があることや,うつ病に対する治療がなされている妊婦と早産の関連が報告されている19)。また,より最近のスウェーデンのコホート研究では,妊娠前1 年以内の発症の母