ブックタイトルここが知りたい職場のメンタルヘルスケア 改訂2版
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ここが知りたい職場のメンタルヘルスケア 改訂2版
2chapter-1 おさえておきたい疫学データ 疫学調査に基づく精神疾患の頻度は,ある一時点においてある集団の中で当該の疾患を有している者の割合である有病率が用いられることが多く,時点有病率,期間有病率という指標で表現される.時点有病率は,調査時点での疾患の有無を表している.期間有病率については,たとえば12ヵ月有病率は過去12ヵ月間において,生涯有病率は調査時点までの生涯において,それぞれ診断基準に該当した者の割合(%)を示す.一方,罹患率は,一定期間にどれだけの疾病者が発生したかを示す指標であり,その時点におけるその疾病へのかかりやすさを表し,疾病と要因との因果関係を探る場合に有用である1).一般的に,報告されている精神疾患の頻度のほとんどは有病率で示されているため,ここでは精神疾患の有病率について特に取り上げる.また産業精神保健において参考になるように,比較的直近の期間範囲である12ヵ月有病率を中心に紹介する.対象となる集団は患者ではなく,一般地域住民の成人(勤労者を含む)とする.精神疾患の種類として不安障害,気分障害,衝動統制障害,物質使用障害などのよく見られる精神疾患に加え,統合失調症,パーソナリティ障害,また近年,職場のメンタルヘルスにおいて注目が集まっている成人発達障害について行われた大規模疫学調査の知見を取り上げる.これらの精神疾患はいずれも,産業精神保健の現場で出合う可能性のある精神疾患であると考えられる.1 不安障害,気分障害,衝動統制障害,物質使用障害1 世界での有病率 WHOが主導する世界28ヵ国の国際共同研究であるWHO世界精神保健調査(WMH調査)において,各国における精神疾患の頻度や関連要因が明らかになってきている.WMH調査では,各国で共通の方法論を用いて調査が行われたため,結果を相互に比較することができる.診断方法については,「国際疾病分類 第10版」(ICD-10)や「精神障害の診断と統計の手引き 第4版」(DSM-Ⅳ)の多くの精神科疾患について診断を作成できるWHO統合国際診断面接 第3版(CIDI)を用いている. まず,一般地域住民における主な精神疾患の有病率について,WMH調査をもとに示す.14ヵ国[コロンビア,メキシコ,米国,ベルギー,フランス,ドイツ,イタリア,オランダ,スペイン,ウクライナ,レバノン,ナイジェリア,日本,中国(北京,上海)]におけるDSM-Ⅳ精神障害の12ヵ月有病率は,不安障害で2.4 ~18.2%,気分障害で0.8 ~ 9.6%,衝動統制障害で0.0 ~ 6.8%,物質使用障害で0.1~ 6.4%,何らかの精神障害で4.3 ~ 26.4%であり,それぞれ国によっては測定していない精神障害が含まれる場合もあるが,国により有病率がばらついていることが報告されている2).ウクライナで物質使用障害が最も多いことを除けば,ほかのすべての精神疾患は米国が最も高い数値になっている.一方,アフリカやアジア地域はすべての精神疾患について相対的に有病率が低いという特徴が見られる.たとえば,日本において昔から注目が高かった社会恐怖・社交不安障害のような精神疾患においても,有病率としては西洋社会に比べて低い3).こうした違いは,調査方法がある程度共通の場合でも見られるため,どういった要因で生じるのかについていまだにA 主な精神疾患の罹患率・有病率を知りたい