ブックタイトルがん患者の輸液・栄養療法

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概要

がん患者の輸液・栄養療法

第4章o i tnPⅠ? 侵襲とは生体の恒常性を乱す刺激である.? 侵襲に対して生体は体内環境を変化させて生存するための反応(生体反応)を起こす.? 侵襲に対する生体反応は,さまざまな栄養素代謝の変動をもたらす.? 侵襲下の代謝変動を理解し,体内環境の整備,すなわち恒常性の回復を促す栄養管理が重要である.外科療法の輸液・栄養管理1 侵襲に伴う代謝変動と栄養管理侵襲とは侵襲とは,生体の恒常性を乱す体外,もしくは体内からの刺激である.その刺激によって生体はさまざまな損傷を受ける.外部からの刺激には外傷,熱傷,凍傷,手術,感染,放射線,磁力線などがある.また,体内に生ずる刺激として悪性腫瘍,急性膵炎,劇症肝炎などがあげられる.がん患者にとってはがんの存在そのものが侵襲であるが,治療の過程でもさまざまな侵襲を受ける.がんを切除する手術は出血と組織の挫滅,低体温などをもたらす.また,化学療法や放射線療法は腫瘍組織のみならず正常組織にも傷害を加え,細胞を破壊し炎症を惹起する.侵襲が加わると,局所または全身に恒常性を維持しようとする反応が起こる.物質代謝に深く関与する反応にサイトカインの分泌,ホルモン環境の変化と臓器血流の再配分がある.適切な栄養の摂取は,生体の恒常性を維持するためにもっとも重要な行為である.したがって,栄養管理は侵襲から脱して生体の恒常性を回復させるためにきわめて重要な役割を果たす.侵襲下の代謝変動侵襲が加わった生体には,まずサイトカインの著明な分泌亢進が認められる.細胞の破壊や炎症によって,その局所でインターロイキン1(IL-1)や腫瘍壊死因子α(TNF-α)が産生される.この情報は局所で増幅されて線維芽細胞や血管内皮細胞に伝えられ,IL-6やIL-8に変換されて全身に伝えられる.それに続いて交感神経系の緊張,counter-regulatory hormoneの分泌亢進などが起こる.その結果,血流の再配分や体蛋白の異化,血糖値の上昇などの生体反応が引き起こされる.104