ブックタイトルがん患者の輸液・栄養療法

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概要

がん患者の輸液・栄養療法

がんに限らず,疾病の治療中に起こりうる栄養状態の悪化とそれに伴う身体機能の低下は極力回避されなくてはならない.がんの治療に伴ってADLが低下すれば特に高齢者ではしばしば不可逆的であり,医療費や介護費の増加をもたらす.また,体重の減少や身体機能の低下はQOLの低下とよく相関する.がん治療後の生存期間を完全な健康状態での生存期間に置き換える時間得失法を用いて評価すると,がん患者のQOLの低下はがん医療の価値そのものを低下させることになる.体重の減少や身体機能の低下を看過すれば,私たち医師は自らの仕事の価値を損ねてしまうのである.がんの治癒や延命のためにはQOLが犠牲になっても致し方ないという考え方は捨て去らなくてはならない.がんに限らず,種々の疾病の入院治療によって程度の差こそあれ患者の身体機能が低下する可能性は高い.一方,医師は入院中の患者の体重減少に十分な注意を払っているであろうか.腎疾患や心不全などのために病的な体重増加を認める症例を除き,入院中の有意な体重減少は回避されるべき由々しき事態である.本来厳密に調節されている食物摂取の機構は,疾病への罹患や入院生活といった環境の変化で破綻する.日常生活ではほとんど変化しない体重は減少に傾き,身体活動が制限されるために骨格筋は廃用性の萎縮を始める.入院後の栄養状態の悪化を早期に察知し,適切な栄養管理を施す意義はきわめて大きい.栄養管理は,入院の目的となった疾病の治療の妨げとならないことがほとんどである.特に高齢者では,できれば有意な体重減少が認められる前に,栄養管理に加えてリハビリテーションを施行することが望ましい.がん患者にとっては,栄養状態の維持・改善,体重の維持・増加,身体機能の低下防止がより一層重要であるといえる.ひと昔前まで,胃がんや食道がんに対する手術を受けた症例では,退院時に既に相当な身体機能の低下がもたらされていた.最近注目されている術後回復強化プログラム(ERAS)は,術後の身体機能の低下を最小限に留める効果がある.ERASに組み込まれる要素のなかで重要な位置を占めているのが周術期の栄養管理である.一方,手術を受けないがん患者の身体機能にも十分な注意を払う必要がある.がん序