ブックタイトル乳癌診療のための分子病理エッセンシャル

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概要

乳癌診療のための分子病理エッセンシャル

  173F 乳癌の予後予測マーカー予後予測マーカーは, ある患者集団の全生存(OS)や無病生存(DFS), 無再発生存recurrence free surviva(l RFS),無増悪生存 progression free surviva(l PFS)などの予後を予測するためのマーカーである.患者の予後は介入(検査,治療など)の影響により変わりうるため,予後予測としての意義は時代や治療の変化,技術の進歩により変わりうる.例として乳癌におけるHER2発現・HER2遺伝子増幅がある.1980年代には予後不良因子として認識されたが 1),抗HER2 療法の登場もあり,現在では必ずしも予後不良とはいえない.転移・再発乳癌の例であるが,trastuzumab 治療を受けていない場合,HER2 陽性乳癌症例はHER2陰性乳癌症例よりOSにおいて予後不良であるが,trastuzumab治療(一次治療)を受けた場合,多変量解析においても予後が改善していると報告されている 2).ここで注意が必要なのは,治療効果予測マーカー(特定の治療の効果の有無を予測するマーカー)との関係で,予後予測マーカーは治療などの介入がない状態での予後因子であるとの議論がある.理論的な定義として十分成立しうる議論であるが,乳癌において現実にそのようなデータの解析は困難である.通常,原発性乳癌において純粋な予後予測マーカーとして解析されるデータは,化学療法や内分泌療法などの全身療法が行われていないデータが用いられることがあるが,手術も行われていない症例のみを集めたデータ(つまり,まったく無治療で乳癌症例を集団としてフォローしたデータ)というのはほとんど存在しない.つまり,純粋な(介入がまったく行われていない)意味での予後データというのは現実には存在していない.転移・再発乳癌症例においても,病院に来院している段階で何らかの介入(抗癌治療や,抗癌治療はなくても検査や症状緩和の治療など)を受けている.よって,我々3 予後予測マーカーと臨床学的因子おさえておきたいP O I N T● 予後予測マーカーは,すべて何らかの介入を伴っている状態での予後を予測するものであり,どのような介入が行われているかを認識した上で,その意味を理解することが重要である.● エストロゲン受容体(ER)の予後予測マーカーとしての意義は時間経過によって変化し,診断後早期は予後良好のマーカーであるが,晩期になると逆転する.● HER2 の予後予測マーカーとしての意義は時代とともに変化し,現在では予後予測マーカーとしてより,治療効果予測マーカーとしての意義に重点が移ってきている.● uPA,PAI-1 の予後不良因子としての意義は確立してきたが,cyclin D1 やPIK3CA 変異に関しては一定していない.● 現在でも,予後予測は治療の必要性の診断や適応を含め,治療の前提として考慮すべきものであり,評価法の統一や標準化を含め,できるだけ正確に評価を行う必要性は高い.