ブックタイトル乳癌診療のための分子病理エッセンシャル

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概要

乳癌診療のための分子病理エッセンシャル

178  Part Ⅱ.乳癌のサブタイプ分類と分子病理に基づいた治療2 cyclin D1 (?p.20, 35?36, 260?262)cyclin D1は細胞周期の制御因子で,遺伝子は11番染色体上に存在する.cyclin依存性キナーゼ(CDK)4/6 と結合しRb をリン酸化することにより,転写因子であるE2F が遊離しG1-S期移行を可能とする(図F-3-1).多くの癌腫で遺伝子増幅や蛋白質発現の上昇が報告されている.遺伝子増幅と蛋白発現は相関するという報告が多いが,蛋白発現の上昇は必ずしも遺伝子増幅によるものとは限らない.cyclin D1発現(核内)と乳癌の予後に関しては,様々な報告がみられるが,cyclin D1発現はERと相関しており,その影響も考慮しなければならない.近年の代表的な報告を表F-3-6にまとめた.cyclin D1の発現が見られる乳癌は,予後良好という報告と予後不良という報告がみられる.ATAC 試験(ホルモン受容体陽性が対象)のサンプルを用いて行われた解析では,単変量でも多変量でもcyclin D1 の発現は再発までの時間に関して,予後良好因子となると報告されている 25).メタ解析によると,乳癌全体でみるとcyclin D1の発現は予後と相関しないという結果となっているが,ER陽性乳癌に限ると,予後不良因子になっていると報告されている 26).この結果はATAC 試験の結果と相反しているが,このメタ解析では蛋白発現のみでなく遺伝子増幅も一緒に解析しているなどの相違があり,現時点ではcyclin D1の予後に対する影響は明らかではない.また,術前や術後療法の変化や進歩により,各因子の予後に対する意味が変わる可能性もあり,現時点では明確な予後因子としての意義は確立されていない.3 PIK3CA変異 (?p.273?280)PIK3CA はPI3K(phosphatidylinositol 3-kinase)の触媒サブユニットの1 つp110αをコードする遺伝子であり,乳癌において30%以上の症例で変異を認めることが知られている 27).PI3Kは,細胞膜上のホスファチジルイノシトール2 リン酸(PIP2)をホスファチジルイノシトール3リン酸(PIP3)へリン酸化する酵素である(図F-3-2).PIP3はセカンドメッセンジャーとして機能し,AKT などを通じ細胞内シグナルを活性化する.PTEN(phosphatasecyclin D1 CDK 4/6 RbRb E2FE2FPG1 期S 期図F-3-1 cyclin D1の役割