ブックタイトル乳癌診療のための分子病理エッセンシャル

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概要

乳癌診療のための分子病理エッセンシャル

  269G.分子病理に基づいた乳癌の薬物療法戦略3 PI3K/AKT阻害薬おさえておきたいP O I N T● PI3K/AKT/mTOR 経路の異常は,ホルモン受容体陽性,HER2 陽性,triple negative のすべてのサブタイプで異常を認め,新規抗悪性腫瘍薬の重要な標的分子である.● PI3K, AKT遺伝子異常は,現在のところ乳癌における明らかな予後良好因子とも,不良因子ともいえない.● PIK3CA 変異やAKT 変異は,内分泌療法の効果予測因子や,PI3K 阻害薬, AKT阻害薬の効果予測因子になる可能性がある.phosphatidylinositol 3 kinase(PI3K)/protein kinase B(AKT)/mammalian target ofrapamycin(mTOR)経路は,細胞の代謝・生存プロセスにおいて中心的な役割を担う細胞内シグナル伝達経路である.癌においては,種々の遺伝子変異,増幅,欠損がこのPI3K/AKT/mTOR 経路の恒常的活性化に関与しており,結果として癌の生存,分化,増殖に関与している.近年,この経路の阻害薬としてPI3K 阻害薬やAKT 阻害薬が開発され,期待を集めている.1. PI3K/AKT/mTOR経路PI3K は,細胞膜に存在するリン脂質の脂質キナーゼファミリーである(図G-3(3)-1).PI3K はClass Ⅰ, Ⅱ, Ⅲの3 種類が存在する.乳癌においてはClass Ⅰが特に関与している.PI3Kは,触媒サブユニットと調節サブユニットの2つのサブユニットがヘテロダイマーを形成しており,ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)をリン酸化して,ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)に変換する.Class Ⅰ PI3K は触媒サブユニットがα,β,δ,γの4つのisoformに分けられる(図G-3(3)-2).PIP3はAKT をリン酸化する.AKT はmurine double murine 2(MDM2)やforkhead O transcription factors(FOXO),Bcl-2などを介して抗アポトーシスによる細胞生存に働く. 他にも,AKTはtuberous sclerosiscomplex 1/2(TSC1/2)からmTORを介して細胞増殖蛋白合成に促進的に作用し,nuclearfactor-κB(NF-κB)を介して薬剤耐性に,glycogen synthase kinase-3βを介して糖代謝に働くなど,多様な機能を有している.AKT は3 つのisoform からなり,それぞれAKT1/PBKα,AKT2/PBKβ,AKT3/PBKγ遺伝子がコードしている.AKT1 はアポトーシスの抑制による不死化や増殖に,AKT2 は上皮間葉移行(EMT)を促進させて転移・浸潤や糖代謝に重要な働きをしている 1, 2).1 ホルモン受容体陽性乳癌とPI3K/AKT経路 (?p.34)ホルモン受容体陽性乳癌では,エストロゲン受容体(ER)を介する経路とPI3K/AKT 経路