ブックタイトル妊娠期がん診療ガイドブック

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概要

妊娠期がん診療ガイドブック

471 妊娠を継続するかどうか妊娠中絶が絶対的に必要になる状況は,母体の状態が不良で妊娠継続しながら悪性腫瘍の治療をすることが困難である場合,母体の生命予後が不良であると考えられる場合,治療により(または治療時期により)胎児に大きな影響を与えることが予測される場合である.また,妊娠早期(妊娠6 週前後)に悪性腫瘍と診断された場合,児への安全性を考慮すると,悪性腫瘍に対する治療を比較的安全に開始できるのは妊娠14 週以降になるため,場合によっては約8 週間程度,治療ができない時期がある可能性がある.病期や組織型によっては,その間に進行する可能性があるため,妊娠早期に悪性腫瘍と診断され,比較的進行が早いことが予測される場合も,妊娠中絶を検討することは必要である.妊娠中に診断された悪性腫瘍の予後は,非妊娠時と同等とする報告が多く,妊娠中絶することにより,母体の予後を改善することはないとされていることが多い 1).これらの報告は妊娠中も非妊娠時と同様に治療の遅滞がなく,ほぼ標準的な治療が行われていることが前提となっていることが重要である.一方,悪性黒色腫では妊娠が予後に悪影響を与えるという報告 2)があるものの,診断の遅れが原因で疾患自体の影響で予後に差はないとする報告もあり 3),個々の疾患や症例で検討することが必要である.晩婚化や妊娠・出産の高齢化により,悪性腫瘍を認めた妊娠が初回で,今回の妊娠を中絶すると年齢に伴う卵巣機能の低下が考えられ,次回妊娠が望めない可能性が高い場合がある.このことも考慮し,本人・家族と相談していく必要がある.また,妊娠を継続しながら治療を行う場合,非妊娠時と比較して診断検査(造影剤を使用するMRI検査は慎重に行う)や治療内容が制限される(羊水過少をきたすトラスツズマブの使用は慎重な判断が求められる)ことがあり,病期を過少評価する可能性や,非妊娠時に標準治療とされている治療ができないことがある.また,妊娠を継続しながら悪性腫瘍の治療を行うことは母体のみならず家族に対しても精神的にも身体的にも負担が大きい.これらのことを十分に説明し,母体本人・家族が妊娠継続を希望しない場合は,妊娠中絶を選択する.日本では妊娠中絶ができる時期が限られているため(妊娠22 週未満),特に妊娠中期に悪性腫瘍と診断された場合,説明内容や時期に注意する必要がある.2 妊娠期がん診療の原則